32 / 263
死に戻り勇者、軌跡を辿る
【鑑定眼】の使い方
しおりを挟む「ゲルド……」
ゲルドは、不敵に笑っていた。まるで、そこに最高のおもちゃがある、とでも言うように。
短剣を構え、睨むは目の前の魔物。魔物は、今度はいきなり襲い掛かってくることはない……もしかして、ゲルドの雰囲気が変わったことを、感じ取ったのだろうか。
「だ、大丈夫かな……」
「危なくなったら、止めに行く。心配するな」
リリーは心配そうに、ドーマスさんはそんなリリーを安心させるように、頭を撫でる。
ゲルドは言った。次は、俺のターンだ……と。
それは、まるでこれまでは魔物という生き物の動きを観察していたかのような発言だ。凶暴性、攻撃パターン……それらを、ゲルドはこの状況下で観察していたのか。
未知の相手に、そんなことをするなんて……よほど、自分の腕に自信がなければ、出来ないことだ。
「へっ……行くぜ!」
距離を保っていた両者、先に動いたのはゲルドだ。それを見て、魔物も動きを見せる。
両者の距離は、一気に縮まっていく。
「ガルゥアア!」
魔物の鋭い牙が露に、ゲルドを襲う。しかし、それは何度も見た直線的な動き……ゲルドは、ゆるりとかわしていく。
そして、ゲルドは魔物の懐へと入り……右手に構えた短剣を、握り締めた。
「ここぉ!」
ゲルドの右腕が、伸びる……それは、魔物の六本の足の間を掻い潜るように、魔物の腹へと吸い込まれるようにして……
刃が、魔物の腹に……突き刺さった。
「! 刺さった!?」
「なんで……」
一同、目の前の光景に動揺している。なんせ、先ほどまで短剣は弾かれていたのに、今は深く、突き刺さっているのだから。
なんで、そんなことができるのか……だが、俺は知っている。それが、ゲルドの『スキル』の効果によるものだと。
「グ、オ……!」
「悪くはなかったぜ、いい経験になった。じゃあな」
苦しむ魔物は、短剣を引き抜かれて地に伏せる。その後、少しも動かない……つまりは、絶命したことを意味していた。
ゲルドは、短剣を薙ぎ払い、刃に付いた血を地面に飛ばす。
「おぉ……驚いた。まさか、ここまでとは」
「ま、当然の結果だろ」
戦いの行方を見守っていた老兵士も、この結果に驚いているようだ。いざとなれば、自分が飛び出すつもりだったのだろう。
ゲルドはゆっくりと、俺たちの所へと戻ってくる。
「ゲルドさん、大丈夫ですか? 怪我とかしてませんか?」
「んなヘマしねえ……いや、なんか頭打ったかもな。膝枕してくれたら治りそうだ」
「大丈夫そうですね」
相変わらずの軽口を叩くゲルドに、シャリーディアは安堵の表情だ。
ドーマスさんもミランシェも、それぞれ声をかけている。すごいな……俺とは違って、前世の記憶はないだろうに。傷一つ負わずに、初めて対峙した魔物を倒してしまうなんて。
「しかし、どうして最後はお前の剣が刺さったんだ?」
「単純な話だぜおっさん。そいうつが俺の【鑑定眼】の力だってことだ」
ゲルドの【鑑定眼】は、生き物の弱所を見破る……それは魔物も、勇者も例外ではない。
今まで刃が通らなかった皮膚。だが、その中の弱所……刃が通る部分を突いたことで、魔物に致命傷を与えたのだ。
「あたなも、やるのね……ただの軟派なクズだと思ってたけど」
「ひでぇ言いようだなミランシェ。なんなら、この後二人じっくりと語り合わねえか?」
「ハッ」
うーん、あの女好きの性格がなければな……それだけに、惜しい。
まあ、それもゲルドという人間なのだと、受け入れるしかないのだが。
「どうよロア。摸擬戦じゃお前に勝てなくなってきたが、殺し合いなら俺も捨てたもんじゃねえだろ?」
「あ、あぁ、そうだね」
俺の肩を叩くゲルドは、最近摸擬戦で俺に勝てないことを悔しがっていた。とはいえ、さっぱりした感じの悔しがり方だが。
だが、摸擬戦でなく命の取り合いなら、俺はゲルドに勝てるかわからない。なんせ、ゲルドの【鑑定眼】は相手の命を奪うのに長けているのだから。
もちろん、本気の殺し合いをするつもりは、俺にもこの時のゲルドにもないだろう。
……だが、実際にゲルドの【鑑定眼】で殺された俺にとっては、それは笑うに笑えないものだった。
0
お気に入りに追加
240
あなたにおすすめの小説
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
異世界着ぐるみ転生
こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生
どこにでもいる、普通のOLだった。
会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。
ある日気が付くと、森の中だった。
誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ!
自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。
幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り!
冒険者?そんな怖い事はしません!
目指せ、自給自足!
*小説家になろう様でも掲載中です
無限に進化を続けて最強に至る
お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。
※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。
改稿したので、しばらくしたら消します
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~
一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。
しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。
流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。
その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。
右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。
この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。
数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。
元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。
根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね?
そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。
色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。
……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる