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死に戻り勇者、軌跡を辿る
【鑑定眼】の使い方
しおりを挟む「ゲルド……」
ゲルドは、不敵に笑っていた。まるで、そこに最高のおもちゃがある、とでも言うように。
短剣を構え、睨むは目の前の魔物。魔物は、今度はいきなり襲い掛かってくることはない……もしかして、ゲルドの雰囲気が変わったことを、感じ取ったのだろうか。
「だ、大丈夫かな……」
「危なくなったら、止めに行く。心配するな」
リリーは心配そうに、ドーマスさんはそんなリリーを安心させるように、頭を撫でる。
ゲルドは言った。次は、俺のターンだ……と。
それは、まるでこれまでは魔物という生き物の動きを観察していたかのような発言だ。凶暴性、攻撃パターン……それらを、ゲルドはこの状況下で観察していたのか。
未知の相手に、そんなことをするなんて……よほど、自分の腕に自信がなければ、出来ないことだ。
「へっ……行くぜ!」
距離を保っていた両者、先に動いたのはゲルドだ。それを見て、魔物も動きを見せる。
両者の距離は、一気に縮まっていく。
「ガルゥアア!」
魔物の鋭い牙が露に、ゲルドを襲う。しかし、それは何度も見た直線的な動き……ゲルドは、ゆるりとかわしていく。
そして、ゲルドは魔物の懐へと入り……右手に構えた短剣を、握り締めた。
「ここぉ!」
ゲルドの右腕が、伸びる……それは、魔物の六本の足の間を掻い潜るように、魔物の腹へと吸い込まれるようにして……
刃が、魔物の腹に……突き刺さった。
「! 刺さった!?」
「なんで……」
一同、目の前の光景に動揺している。なんせ、先ほどまで短剣は弾かれていたのに、今は深く、突き刺さっているのだから。
なんで、そんなことができるのか……だが、俺は知っている。それが、ゲルドの『スキル』の効果によるものだと。
「グ、オ……!」
「悪くはなかったぜ、いい経験になった。じゃあな」
苦しむ魔物は、短剣を引き抜かれて地に伏せる。その後、少しも動かない……つまりは、絶命したことを意味していた。
ゲルドは、短剣を薙ぎ払い、刃に付いた血を地面に飛ばす。
「おぉ……驚いた。まさか、ここまでとは」
「ま、当然の結果だろ」
戦いの行方を見守っていた老兵士も、この結果に驚いているようだ。いざとなれば、自分が飛び出すつもりだったのだろう。
ゲルドはゆっくりと、俺たちの所へと戻ってくる。
「ゲルドさん、大丈夫ですか? 怪我とかしてませんか?」
「んなヘマしねえ……いや、なんか頭打ったかもな。膝枕してくれたら治りそうだ」
「大丈夫そうですね」
相変わらずの軽口を叩くゲルドに、シャリーディアは安堵の表情だ。
ドーマスさんもミランシェも、それぞれ声をかけている。すごいな……俺とは違って、前世の記憶はないだろうに。傷一つ負わずに、初めて対峙した魔物を倒してしまうなんて。
「しかし、どうして最後はお前の剣が刺さったんだ?」
「単純な話だぜおっさん。そいうつが俺の【鑑定眼】の力だってことだ」
ゲルドの【鑑定眼】は、生き物の弱所を見破る……それは魔物も、勇者も例外ではない。
今まで刃が通らなかった皮膚。だが、その中の弱所……刃が通る部分を突いたことで、魔物に致命傷を与えたのだ。
「あたなも、やるのね……ただの軟派なクズだと思ってたけど」
「ひでぇ言いようだなミランシェ。なんなら、この後二人じっくりと語り合わねえか?」
「ハッ」
うーん、あの女好きの性格がなければな……それだけに、惜しい。
まあ、それもゲルドという人間なのだと、受け入れるしかないのだが。
「どうよロア。摸擬戦じゃお前に勝てなくなってきたが、殺し合いなら俺も捨てたもんじゃねえだろ?」
「あ、あぁ、そうだね」
俺の肩を叩くゲルドは、最近摸擬戦で俺に勝てないことを悔しがっていた。とはいえ、さっぱりした感じの悔しがり方だが。
だが、摸擬戦でなく命の取り合いなら、俺はゲルドに勝てるかわからない。なんせ、ゲルドの【鑑定眼】は相手の命を奪うのに長けているのだから。
もちろん、本気の殺し合いをするつもりは、俺にもこの時のゲルドにもないだろう。
……だが、実際にゲルドの【鑑定眼】で殺された俺にとっては、それは笑うに笑えないものだった。
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