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死に戻り勇者、軌跡を辿る
みんなで訓練
しおりを挟む「はっ、はっ……」
まずは、体を作り込むことから始まる。さすがに、【勇者】のおかげで身体能力が上昇しているとはいえ、今までただの平民だった男がいきなり戦闘に参加するのは無理だからだ。
前世では、体を鍛えるのはここが初めて……村でも、村の手伝いなんかをして力はついていっただろうが、自発的に鍛えようと思ったことはない。
なので、走り込みだけでもすぐに疲れてしまった。しかし、今は同じことをやっていても、息切れすら起こさない。
「ほぉ……田舎暮らしのもやしっ子かと思ってたが、意外に体力あるじゃねぇか。訓練場の周りを三周してもその程度か」
「あはは、どうも」
「うむ……ロアよ、この国に来るより前から、体を鍛えていたのか? じっくり見ては悪いと思っていたので昨日は気にしていなかったが、こうして見るとなかなかに筋肉がついている」
今俺は、ゲルドとドーマスさんの指導の下、走り込みを行っていた。それから筋力トレーニングと続き、まずは基礎体力を上げる手筈だ。
だが、俺が思った以上に動けるので、訓練メニューを変えることも考えているようだ。
二人は、俺が想像よりも動けないと思っていたのだろう。現に、前世では俺は全然だったしな。今回は鍛えていて正解だった。
とはいえ、まさか「【勇者】の『スキル』を授かって王都に来ることがわかっていたので、事前に鍛えてたんですよ」なんて言えるはずもない。
「む、村で畑仕事とか手伝ったり……あと、走るのとか好きだったので」
「ほぉ、感心感心」
嘘ではない……が、まったくの真実でもないだけに、素直に信じているドーマスさんを見ていると心が痛い。
とはいえ、この分だと俺の訓練メニューも大幅に短縮されそうだ。前世じゃ基礎体力上昇に一週間以上かけていたが、今回はすんなりと次のステップに進めそう。
「ま、仲間のレベル上昇率が高いってのは、悪くねぇ。なんなら、魔族退治はお前に任せて、俺は後ろであの二人と優雅にお話してるってのもアリだな!」
「アリなわけないだろう」
相変わらずゲルドは、軽い雰囲気だ。これで戦闘になると一切の容赦もなくなるのだから、恐ろしい。
さて、そのゲルドが話す、女性陣はというと……
「二人とも、なかなか筋がいい……特にリリーは、その年でそこまで動けるとは」
「えへへ、前から兵士さんにいろいろ教えてもらってたから」
「シャリーディアも……正直、神官なんてろくに動けもしない人たちだと思っていたんだけれど」
「まあ、間違ってもないですね。私は、昔友人とよく体を動かして遊んでいただけですよ」
「へぇー、意外」
女性陣は女性陣で、互いに教えあっているようだ。
別に男性陣と女性陣にわかれよう、と提案したわけではない。だが、うまい具合に男性陣前衛、女性陣後衛と別れている。
その関係で、それぞれ動きを、教えられる人が教える感じだ。俺には、ゲルドとドーマスさんが近接の戦い方を。シャリーディアとリリーには、ミランシェが自分の身の守り方を。
後衛は、援護系であるために狙われやすい。時には前衛が間に合わないこともある。そのために、自分の身くらいは自分の身で守れるよう、訓練するのだ。
「かぁー、あっちはいいねぇ和気あいあいと」
「こっちだって似たようなものだろう?」
「ぜんっぜん違うね! 女っ気のねぇむさ苦しい野郎どもと、向こうを比べてみろ! 天と地の差だろ!」
……ゲルドの言わんとすることはわかる。ただ、これは遊びでなく訓練であって……別に、華やかさとかは求められていない。
とはいえ、別にずっと男性陣女性陣に別れているわけじゃないんだ。ある程度になったら、今度はチームプレーを育むため合同の訓練に挑む。
この中で、それぞれ相性のいい戦い方や、コンビネーションを見つけていく。ゲルドの【鑑定眼】とミランシェの【百発百中】のような、それだ。
「どうにもならんことを言っても仕方ないだろう。ロア、少し休憩したら、次のメニューだ」
「はいっ」
不服そうなゲルドを尻目に、俺の訓練は続いていく。
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