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死に戻り勇者、軌跡を辿る
神官と二人きり
しおりを挟む「それで、ロアさんはどこにお住みになりますか?」
城から出たところで、シャリーディアが問いかけてくる。
前世では、ゲルドの誘いに乗って失敗してしまった。だから、今回は最初から別の道を選ぶ。
いきなり前世の展開とは違ってしまうが、まあこれくらいはかまわないだろう。
「そうだな……城に住まわせてもらうってのも、なんか緊張しそうだし……どこか、宿でも借りようかな」
「いいのか?」
「あぁ」
一応、この国で暮らすにあたって国王から、お金をもらっている。これがあれば、しばらくは生活には困らないほどの量が入っている。
それに、もし頼めば追加のお金を貰えるだろう。あんまりそんな真似はしたくないけど。
「それこそ、国王様に頼めば、タダで泊まらせてもらえる宿を用意してもらえるのではないか? 三年もあるのだぞ」
「確かに、そうかもしれませんが……なんか、それだと悪い気がして」
結局、俺は宿暮らしをすることになる。城で暮らすのは落ち着かないし、宿ならば安いところを探せば落ち着く場所も見つけられるだろう。
村を出て、野宿はしたが……それでも人はいた。だが、初めての一人での生活だ。王都に来たばかりの俺は、右も左もわからずに挙動不審だったに違いない。
「では、私はここで。明日から、よろしくな」
「はい!」
一人一人、それぞれ家に帰っていく。ドーマスさん、ミランシェ、ゲルド……残ったのは、俺とシャリーディアだけだ。
道行く人たちの視線が、彼女に向けられているのがわかる。過ぎ去っていく人たちが、男女問わずに振り返っている。
それは、彼女の白く美しい服装に注目が集まっているから……以上に、彼女の美貌によるものが大きい。こんな美人、誰だって見てしまう。本人は慣れているのか、気にした素振りはない。
「ふふ、緊張してます?」
「え!? あ、はは、まあ……」
前世の記憶はあっても、こうして二人きりになって話しかけると、緊張してしまう。まったく、情けない。
シャリーディアはとんでもない美人だ。だからこそ、自分に、誰かどうにか出来る、と考える男はいない。彼女に向けられる視線は多くても、俺に向けられる嫉妬の類の視線はなかった。
「そう身構えることはないですよ。王都には貴族が多く暮らしていますが、平民もたくさんいますから」
そうそう、こうして俺の気を和らげようと、話しかけてくれたっけな。
この王都は、基本的に貴族しか住んでいない……と、彼女の話を聞くまで俺はそう思っていた。だが、実際には平民も、それなりに暮らしている。
代表例としては、やはり商人の類いが多い。国から国へ、商売するために歩き渡る商人は、商品を仕入れたり売ったり一つの場所に何日か滞在するからだ。
他には、冒険者。ミランシェは貴族だが、平民が冒険者になる場合の方が多い。安定しないとはいえ、貴族平民の差なく稼げるのが、冒険者だからだ。
「ここが、私の暮らしている教会です。すみません、送ってもらう形になってしまって」
「いや、これくらいは」
たどり着いたのは、白い外観の立派な教会だ。ここに、シャリーディアたち神官は暮らしている。
「でも、宿の宛てはあるのですか? これから探すとなると……」
「いや、実はさっきよさげなところを見つけたので。シャリーディアを届けたら、そこに行こうと思ってて」
「……そうですか」
さっき見つけた、というのは嘘だ。本当は、前世住んでいた宿に行くつもりだ。
そこは城からそんなに離れていない上に、なかなか安い。俺にとっては、優良な宿といえよう。
「でしたら、今日はこれで。送っていただき、ありがとうございました」
「い、いえ……おやすみなさい」
天使……おとぎ話で聞いた存在だが、天使というものがいるなら彼女のことだな、と思った。
その笑顔に見惚れてしまいそうになる気持ちをぐっと抑え、俺は宿に向かって歩き出した。
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