14 / 263
死に戻り勇者、軌跡を辿る
迎えと旅立ち
しおりを挟む俺が『スキル』を授かることになった十五歳の誕生日……その、僅か数日後のことだ。ついに、俺の運命を変える出来事が、起こることになる。
ある朝のこと。村中に響く、気高き馬の鳴き声。それは、運命の歯車が動き出したことを、意味していた。
村の入り口に。国の兵士隊が現れる。相も変わらず仰々しく鎧に身を包み、馬を走らせ村の門をくぐる。
そして、先頭にいた兵士が、馬から降り、声を張り上げる。その姿には、見覚えがある。
「我らは、ファルマー王国国王、ザラドーラ・マ・ファルマーの直属の兵士隊である! 私は兵士長のリデューダ・カイマンだ!」
……なんか、初めてこの村に来た時も、同じこと言ってなかったか?
ともあれ、そこにいたのは以前、この村がモンスターの群れに襲われた時、兵士を引き連れ駆けつけてくれた、リデューダさんだ。
やっぱり、あの頃とあんまり変わらないように見える。よほど美容に気を付けているのか、顔立ちはしっかりし、艶めいた緑色の髪は輝いてすらいるようだ。
「今回は、とある『スキル』を持つ者を、国王の命の下迎えに来た!」
「とある『スキル』……カイマン様、それは?」
「【勇者】だ」
村人の質問に答えるその声が、届いた瞬間……村人は驚いた表情を浮かべ、次いで俺を見た。
当然だ、国の兵士、それも兵士長が俺を迎えに来たなんて聞いたら、みんな俺を見る。
「む……そこの、少年か?」
「はい。俺が【勇者】の『スキル』を先日授かった、ロアです」
「ロアか……いい名だ」
リデューダさんは、俺に近づいてくる。うわあ、やっぱり美人だな、前世も思ったけど。
それから、リデューダさんは俺の体をじっと見つめる。少しドキドキする。彼女の方が少し背が高いので、俺が見上げる形だ。
「なかなか、鍛えているようだな」
「あはは……趣味で」
この会話は、前世ではなかったな。
俺が鍛えたのは、あらかじめ【勇者】を得るとわかっていた今回だからだ。前世では、そのようなことはなかったからな。
この二度目の出会いこそが、俺が『スキル』【勇者】を実感した瞬間だ。そして、勇者の重さを知ることになる。
「いきなりですまない。我々と一緒に、来てくれないだろうか」
「俺は、構いませんよ。でも……」
「あぁ、ご両親への挨拶も済ませなければな」
なんだか言い回しがドキドキしてしまうが、彼女は冷静な顔だ。
そんな彼女を実家へと案内し、両親と会わせる。そして、【勇者】の真の意味を、俺たちは知ることになるのだ。
「息子さんを、国へとお連れしたいのです」
「いきなり、王都にと言われても……」
「【勇者】とは、いずれ復活する魔王という邪悪な存在を討ち倒せる可能性を持った、数少ない存在なのです。どうか、国の……いえ、世界のために」
リデューダさんは、頭を下げる。国の兵士長が一介の村人に頭を下げるなんて、前代未聞だ。
それだけ、この案件は重要ということ。両親、特に母さんは俺を抱きしめて話すまいとしていた。
「ろ、ロアにそんな危ないことをぉ……」
「……ロア、お前が決めなさい」
最終的には、父さんが母さんを引き離し、俺に選択権をくれた。
前世の俺は、迷ったものだ。なんせ、いきなり世界がどうと言われても、すぐに決断できるはずがない。
だが、今回は違う……今回は、迷いはない。そして、迷いながらも結論を出した、同じ答えを出す。
「俺、行くよ。誰かの、役に立ちたいんだ」
これがきっかけとなり、俺は村を出ることとなる。もちろん、すぐに行きますとはならず、お別れのために村では大々的なお別れ会が開かれた。
各々と別れを惜しんだり、旅の準備をしたり……結果的に、出発することになったのは、リデューダさんが来てから三日後のことだった。
「ロア、元気でね」
「しっかりやるんだぞ、ロア」
「うん。必ず、また帰ってくるから……必ず」
そうだ……俺は、世界を救い、その上で生き延びる。
仲間に殺される運命を、変える!
「では、行くぞ!」
「ヒヒィイイイイン!」
俺は村を出る。兵士たちに囲まれ、馬に乗り、出発した。
リデューダさんは俺を安心させるためか、度々隣に来て話しかけてくれた。王国には、【探知】という『スキル』持ちがおり、それは目的の『スキル』を持った人間がどこにいるのか、探すことができるのだ。
精度を高めれば、『スキル』を持つ人間がどのような人間なのかも、わかるという。今回、俺をすぐに見つけたのも、そのためだ。
そして、俺は初めての……前世の記憶を抜きにして、初めての国へと、訪れることとなる。
0
お気に入りに追加
239
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
お持ち帰り召喚士磯貝〜なんでも持ち運び出来る【転移】スキルで異世界つまみ食い生活〜
双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ひょんなことから男子高校生、磯貝章(いそがいあきら)は授業中、クラス毎異世界クラセリアへと飛ばされた。
勇者としての役割、与えられた力。
クラスメイトに協力的なお姫様。
しかし能力を開示する魔道具が発動しなかったことを皮切りに、お姫様も想像だにしない出来事が起こった。
突如鳴り出すメール音。SNSのメロディ。
そして学校前を包囲する警察官からの呼びかけにクラスが騒然とする。
なんと、いつの間にか元の世界に帰ってきてしまっていたのだ!
──王城ごと。
王様達は警察官に武力行為を示すべく魔法の詠唱を行うが、それらが発動することはなく、現行犯逮捕された!
そのあとクラスメイトも事情聴取を受け、翌日から普通の学校生活が再開する。
何故元の世界に帰ってきてしまったのか?
そして何故か使えない魔法。
どうも日本では魔法そのものが扱えない様で、異世界の貴族達は魔法を取り上げられた平民として最低限の暮らしを強いられた。
それを他所に内心あわてている生徒が一人。
それこそが磯貝章だった。
「やっべー、もしかしてこれ、俺のせい?」
目の前に浮かび上がったステータスボードには異世界の場所と、再転移するまでのクールタイムが浮かび上がっていた。
幸い、章はクラスの中ではあまり目立たない男子生徒という立ち位置。
もしあのまま帰って来なかったらどうなっていただろうというクラスメイトの話題には参加させず、この能力をどうするべきか悩んでいた。
そして一部のクラスメイトの独断によって明かされたスキル達。
当然章の能力も開示され、家族ごとマスコミからバッシングを受けていた。
日々注目されることに辟易した章は、能力を使う内にこう思う様になった。
「もしかして、この能力を金に変えて食っていけるかも?」
──これは転移を手に入れてしまった少年と、それに巻き込まれる現地住民の異世界ドタバタコメディである。
序章まで一挙公開。
翌日から7:00、12:00、17:00、22:00更新。
序章 異世界転移【9/2〜】
一章 異世界クラセリア【9/3〜】
二章 ダンジョンアタック!【9/5〜】
三章 発足! 異世界旅行業【9/8〜】
四章 新生活は異世界で【9/10〜】
五章 巻き込まれて異世界【9/12〜】
六章 体験! エルフの暮らし【9/17〜】
七章 探索! 並行世界【9/19〜】
95部で第一部完とさせて貰ってます。
※9/24日まで毎日投稿されます。
※カクヨムさんでも改稿前の作品が読めます。
おおよそ、起こりうるであろう転移系の内容を網羅してます。
勇者召喚、ハーレム勇者、巻き込まれ召喚、俺TUEEEE等々。
ダンジョン活動、ダンジョンマスターまでなんでもあります。

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~
くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】
その攻撃、収納する――――ッ!
【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。
理由は、マジックバッグを手に入れたから。
マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。
これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。

神々に見捨てられし者、自力で最強へ
九頭七尾
ファンタジー
三大貴族の一角、アルベール家の長子として生まれた少年、ライズ。だが「祝福の儀」で何の天職も授かることができなかった彼は、『神々に見捨てられた者』と蔑まれ、一族を追放されてしまう。
「天職なし。最高じゃないか」
しかし彼は逆にこの状況を喜んだ。というのも、実はこの世界は、前世で彼がやり込んでいたゲーム【グランドワールド】にそっくりだったのだ。
天職を取得せずにゲームを始める「超ハードモード」こそが最強になれる道だと知るライズは、前世の知識を活かして成り上がっていく。

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-
ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。
自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。
いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して!
この世界は無い物ばかり。
現代知識を使い生産チートを目指します。
※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~
一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。
しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。
流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。
その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。
右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。
この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。
数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。
元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。
根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね?
そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。
色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。
……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる