13 / 263
死に戻り勇者、軌跡を辿る
『スキル』を授かる日
しおりを挟むついに、俺が『スキル』を授かる時が来た。
『スキル』を授かるのは、十五歳になった時だが、正確には十五歳になった七時間後……つまり、当日の朝七時だ。
なので、この村では朝から、村人全員で新たな成人の誕生を見守るのが、風習となっている。
「…………」
本当なら、この瞬間にディアもいて、ディアが『スキル』を授かる瞬間にも俺がいたかった。だが、それはこの時間軸でも叶わなかった、当然だが。
『スキル』を初めて授かるときは、なにをどうすればいいかわからなかったが……
なにをする必要もない。ただ、待てばいいのだ。なにをしなくても、その時は来る……!
「!」
瞬間、予感があった。その直後……
『十五歳の誕生日、おめでとうございます。『スキル』を獲得しました』
「あ……」
声が、聞こえた。頭の中に、まるでそれが当然であるかのように。
それは男のものとも、女のものともわからない声色だった。ノイズがかかっているような、それともクリーンなような、そんな変な感覚。
「お、おい、来たかロア?」
「しっ」
俺の反応を見て、湧き立つ父親(カール)を母親(マーシャ)が小突いている。
そう、『スキル』を授ける声はこれで終わりではない。その『スキル』名を、告げるのだ。
『あなたの『スキル』名は、【勇者】です。詳細は後々、確認をお願いします。改めて、おめでとうございます』
「……【勇者】」
やはり、俺が得る『スキル』は【勇者】だったか。ここまで前世の展開をなぞっているから、十中八九そうだとは思ったが。
というか、ここまできて【勇者】じゃなかったら、俺の今後の計画が全部崩れる。
「ふぅ……終わったみたいだ」
「おぉ、おめでとうロア! で、『スキル』はなんだ? 父さんのような【火炎】か? 母さんのような【飛行】か?」
「あなた、落ち着きなさい」
「あはは」
そういや、前世でも父さんは、今みたいに喜んでくれたな。
俺以外の人間の行動も、やっぱり変わらないってわけだ。
「俺の『スキル』は、【勇者】だってさ」
「ゆ、ゆう……? なんだ、そりゃ。聞いたことないなぁ」
「そうねぇ」
「わしもじゃ」
「俺も知らねえな」
両親含め、村の人たちは口々に知っているか、知らないを繰り返す。ま、知らないのも当然だろう。
【勇者】とは、一般的には存在すら知られていない『スキル』。それほどまでに、珍しいのだ。
「それで、なにができるんだ?」
「ええと……身体能力の強化、とかみたいだね」
「【怪力】とかとは違うのか?」
「他にもいろいろできるみたい」
『スキル』の能力詳細は、その『スキル』について知りたいと念じれば、できることが頭の中に浮かんでくる。もっと詳細に『スキル』の能力を知る方法もあるが、そのためには王都にまで行かないといけない。
ま、ほとんどの『スキル』は『スキル』名でできることがわかる。
中には似たようなものもある。たとえば【飛行】と【念動力】……これは要は、浮かせるだけか、飛べるのか、との違いだ。
「ま、こまけえことは後回しだ!」
「そうだな、これでまた一人、成人の仲間入りだ!」
「おうよ! 俺の息子のめでたい日だ! 飲むぞー!」
「はぁ、飲みたいだけでしょう。朝からやめときなさいよ」
大人たちは、盛り上がっている。子供が大人になるその瞬間を祝いたいのは本音だが、それにかこつけて飲みたいというのも、また本音だ。
……まだ、朝なんだけどな。
「ほら、ロアも来い! この村一番の酒飲ませてやる!」
「あなた、そんないきなり! ロアにはこの軽いお酒からの方がいいに決まってます!」
いつの間にか、止める側だった母さんも酒盛りに参加している。仕方ない、行くか。
前世では、俺は飲まされ過ぎてダウンしてしまった。だが、今回はそうはいくまい。
うまくかわして、この場を乗り切ってみせるとも。
「……あと、数日か」
大人たちのところへ向かう最中、俺は呟く。あと数日もすれば、王都から俺を迎えに、リデューダさんを筆頭に王国の兵士がやって来る。
この村で過ごすのも、あと少しか。そんな気持ちが、湧いてきた。今度こそは、絶対に、この村に帰ってこよう。
……ちなみに飲みつぶれはしなかったが、翌日二日酔いになった。
0
お気に入りに追加
240
あなたにおすすめの小説
異世界でトラック運送屋を始めました! ◆お手紙ひとつからベヒーモスまで、なんでもどこにでも安全に運びます! 多分!◆
八神 凪
ファンタジー
日野 玖虎(ひの ひさとら)は長距離トラック運転手で生計を立てる26歳。
そんな彼の学生時代は荒れており、父の居ない家庭でテンプレのように母親に苦労ばかりかけていたことがあった。
しかし母親が心労と働きづめで倒れてからは真面目になり、高校に通いながらバイトをして家計を助けると誓う。
高校を卒業後は母に償いをするため、自分に出来ることと言えば族時代にならした運転くらいだと長距離トラック運転手として仕事に励む。
確実かつ時間通りに荷物を届け、ミスをしない奇跡の配達員として異名を馳せるようになり、かつての荒れていた玖虎はもうどこにも居なかった。
だがある日、彼が夜の町を走っていると若者が飛び出してきたのだ。
まずいと思いブレーキを踏むが間に合わず、トラックは若者を跳ね飛ばす。
――はずだったが、気づけば見知らぬ森に囲まれた場所に、居た。
先ほどまで住宅街を走っていたはずなのにと困惑する中、備え付けのカーナビが光り出して画面にはとてつもない美人が映し出される。
そして女性は信じられないことを口にする。
ここはあなたの居た世界ではない、と――
かくして、異世界への扉を叩く羽目になった玖虎は気を取り直して異世界で生きていくことを決意。
そして今日も彼はトラックのアクセルを踏むのだった。
【完結】異世界で小料理屋さんを自由気ままに営業する〜おっかなびっくり魔物ジビエ料理の数々〜
櫛田こころ
ファンタジー
料理人の人生を絶たれた。
和食料理人である女性の秋吉宏香(あきよしひろか)は、ひき逃げ事故に遭ったのだ。
命には関わらなかったが、生き甲斐となっていた料理人にとって大事な利き腕の神経が切れてしまい、不随までの重傷を負う。
さすがに勤め先を続けるわけにもいかず、辞めて公園で途方に暮れていると……女神に請われ、異世界転移をすることに。
腕の障害をリセットされたため、新たな料理人としての人生をスタートさせようとした時に、尾が二又に別れた猫が……ジビエに似た魔物を狩っていたところに遭遇。
料理人としての再スタートの機会を得た女性と、猟りの腕前はプロ級の猫又ぽい魔物との飯テロスローライフが始まる!!
おっかなびっくり料理の小料理屋さんの料理を召し上がれ?
~唯一王の成り上がり~ 外れスキル「精霊王」の俺、パーティーを首になった瞬間スキルが開花、Sランク冒険者へと成り上がり、英雄となる
静内燕
ファンタジー
【カクヨムコン最終選考進出】
【複数サイトでランキング入り】
追放された主人公フライがその能力を覚醒させ、成り上がりっていく物語
主人公フライ。
仲間たちがスキルを開花させ、パーティーがSランクまで昇華していく中、彼が与えられたスキルは「精霊王」という伝説上の生き物にしか対象にできない使用用途が限られた外れスキルだった。
フライはダンジョンの案内役や、料理、周囲の加護、荷物持ちなど、あらゆる雑用を喜んでこなしていた。
外れスキルの自分でも、仲間達の役に立てるからと。
しかしその奮闘ぶりは、恵まれたスキルを持つ仲間たちからは認められず、毎日のように不当な扱いを受ける日々。
そしてとうとうダンジョンの中でパーティーからの追放を宣告されてしまう。
「お前みたいなゴミの変わりはいくらでもいる」
最後のクエストのダンジョンの主は、今までと比較にならないほど強く、歯が立たない敵だった。
仲間たちは我先に逃亡、残ったのはフライ一人だけ。
そこでダンジョンの主は告げる、あなたのスキルを待っていた。と──。
そして不遇だったスキルがようやく開花し、最強の冒険者へとのし上がっていく。
一方、裏方で支えていたフライがいなくなったパーティーたちが没落していく物語。
イラスト 卯月凪沙様より
俺は善人にはなれない
気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。
異世界に転生して社畜生活から抜け出せたのに、染み付いた社畜精神がスローライフを許してくれない
草ノ助
ファンタジー
「私は仕事が大好き……私は仕事が大好き……」
そう自己暗示をかけながらブラック企業に勤めていた伊藤はある日、激務による過労で27年の生涯を終える。そんな伊藤がチート能力を得て17歳の青年として異世界転生。今度は自由な人生を送ろうと意気込むも――。
「実労働8時間? 休日有り? ……そんなホワイト企業で働いていたら駄目な人間になってしまう!」
と過酷な労働環境以外を受け付けない身体になってしまっていることに気付く。
もはや別の生き方が出来ないと悟った伊藤は、ホワイト環境だらけな異世界で自ら過酷な労働環境を求めていくのだった――。
これは与えられたチート能力と自前チートの社畜的労働力と思考を持つ伊藤が、色々な意味で『なんだこいつやべぇ……』と周りから思われたりするお話。
※2章以降は不定期更新
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
駆け落ち男女の気ままな異世界スローライフ
壬黎ハルキ
ファンタジー
それは、少年が高校を卒業した直後のことだった。
幼なじみでお嬢様な少女から、夕暮れの公園のど真ん中で叫ばれた。
「知らない御曹司と結婚するなんて絶対イヤ! このまま世界の果てまで逃げたいわ!」
泣きじゃくる彼女に、彼は言った。
「俺、これから異世界に移住するんだけど、良かったら一緒に来る?」
「行くわ! ついでに私の全部をアンタにあげる! 一生大事にしなさいよね!」
そんな感じで駆け落ちした二人が、異世界でのんびりと暮らしていく物語。
※2019年10月、完結しました。
※小説家になろう、カクヨムにも公開しています。
神々の間では異世界転移がブームらしいです。
はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》
楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。
理由は『最近流行ってるから』
数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。
優しくて単純な少女の異世界冒険譚。
第2部 《精霊の紋章》
ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。
それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。
第3部 《交錯する戦場》
各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。
人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。
第4部 《新たなる神話》
戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。
連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。
それは、この世界で最も新しい神話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる