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死に戻り勇者、軌跡を辿る
国の兵士隊
しおりを挟む……状況は、一気に変わった。
「はぁ……はぁ……!」
「皆、よくぞ持ちこたえた! 駆けつけるのが遅れてすまない!」
「か、カイマン様……」
国の、兵士隊……駆けつけてくれたその存在は、非常に心強い味方だ。これまで防戦一方だった事態が、急転する。
勇ましい兵士の掛け声、馬の走り回る足音、モンスターを斬り刻んでいく音……それらの光景に目を奪われているのか、窓を隠していた大人たちも呆然としている。
その隙をついて、俺は窓の外を見た。そこにあったのは……
「はぁああああ!」
……馬に乗り、戦場を駆け回るがごとく勇敢な立ち振る舞いを見せ、襲い来るモンスターを斬っていく女性兵士の姿だった。兵士の中に、女性は一人だけ……あれが、リデューダさんだ。
後ろで一本に纏めた緑色の髪を振り乱し、まるで踊っているかのようにモンスターを討っていく。彼女も凄まじいが、他の兵士もすごい動きだ。
みるみる、モンスターはその数を減らしていく。中には、気迫に押されたのか村から去っていくモンスターもいた。
「……これで、最後だ」
やがて、終わりのときは訪れた。最後のモンスターを斬り伏せ、村を包んでいた暗雲はようやく晴れた。
「うぉおおおお!」
「やった、生きてる、生きてる!」
「奇跡だぁあああ!」
モンスターの群れに襲われ、一時はどうなるかと思った……だが、その終わりはあっけないと言えば、あっけないものだった。
村人は、それぞれ大喜びだ。外へ飛び出し、抱き合う人たち。安心してか、泣き崩れる人たち。感極まり叫ぶ人たち……
ようやく、平和が訪れたのだと、実感した。
「みな、無事か! 重傷者はいるか!」
今回のモンスターの群れ襲撃の一件で、奇跡的にも死者は出なかった。重傷者もいる、壊された建物や荒らされた畑もある。だが、死んだ者はいない。
もし死者がいたら……そう考えたら、自分の都合など考えずに、たとえ信じてもらえずとも事前にモンスター襲撃のことを話しただろう。
まあ、話しても鼻で笑われていた可能性が大きいが……それがなくても、死者が出ることはなかった。国の兵士隊……彼女たちのおかげで、被害を抑えられたのが、大きい。
「大変、すぐに手当てを!」
「すみません」
怪我をしていた者は多い。だが、この村では傷の手当てに効く薬草を育てている。いくつかの畑は踏み荒らされたが、薬草は無事で、重傷者もそれで事なきを得た。
……結局それ以降、モンスターの襲撃はなくなった。……不気味なのは、どうしてそんなことが起こったのか、俺にもわからないことだ。
勇者としての仕事が片付いたら、この件を調べてみようと思っていた。平民であろうと、魔王を倒した勇者には様々な特権が与えられるからだ。
そんな未来は、訪れなかったが。
「この度は、ご助力感謝いたします!」
「いえ。領地を納める者の務めだと、国王は言っていました。むしろ、我々がもっと早く駆けつけていれば……」
「とんでもない、助かりました」
国の兵士隊、その兵士長、つまり隊長である女性は、国王直属の部下だ。女性であるが、その実力は凶悪なモンスターをものともしないほどに、高い。
名を、リデューダさんと言う。彼女らがこのタイミングで村を訪れた理由。それの発端が、一年前のハイウルフ発見にまで遡る。
ハイウルフの存在を不審に思った村人の一人が、直接国王へと報告したのだ。この村は、国の領地にある。その関係か、一定の期間で村人の何人かが国へと向かう。その際、国から兵士が送られてくるのだ。
国王へ報告といっても、もちろん一介の村人が国王に会うことなどできない。村人は兵士に伝え、その兵士からリデューダさんへ……そして、巡り巡って国王の耳に入ったのだ。
そして、近頃モンスターの動きが活発化していると突き止め、この村に援軍を送ってくれたのだ。そのおかげで、村では死者は出ずに済んだ、というわけだ。
「それにしても、コアウルフだけでなく……コアゴブリンに、コアオーク。コアプテラまで……どうなっているんだ」
リデューダさんが、顎に手を当て疑念を口にする。そう、コアと名のつくモンスターは、どれも凶暴で普通のモンスターよりも戦闘力が高い。
そんなモンスターが、この周辺に現れたこと。コアモンスターは数は多くはない……なのに、今回群れとなって現れたこと。
これらが、どう考えてもおかしいのだ。その原因は、結局わからずじまい。ただ……ここで出会ったリデューダさんとは、今後また、会うことになる。
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