上 下
10 / 263
死に戻り勇者、軌跡を辿る

国の兵士隊

しおりを挟む


 ……状況は、一気に変わった。


「はぁ……はぁ……!」

「皆、よくぞ持ちこたえた! 駆けつけるのが遅れてすまない!」

「か、カイマン様……」


 国の、兵士隊……駆けつけてくれたその存在は、非常に心強い味方だ。これまで防戦一方だった事態が、急転する。

 勇ましい兵士の掛け声、馬の走り回る足音、モンスターを斬り刻んでいく音……それらの光景に目を奪われているのか、窓を隠していた大人たちも呆然としている。

 その隙をついて、俺は窓の外を見た。そこにあったのは……


「はぁああああ!」


 ……馬に乗り、戦場を駆け回るがごとく勇敢な立ち振る舞いを見せ、襲い来るモンスターを斬っていく女性兵士の姿だった。兵士の中に、女性は一人だけ……あれが、リデューダさんだ。

 後ろで一本に纏めた緑色の髪を振り乱し、まるで踊っているかのようにモンスターを討っていく。彼女も凄まじいが、他の兵士もすごい動きだ。

 みるみる、モンスターはその数を減らしていく。中には、気迫に押されたのか村から去っていくモンスターもいた。


「……これで、最後だ」


 やがて、終わりのときは訪れた。最後のモンスターを斬り伏せ、村を包んでいた暗雲はようやく晴れた。


「うぉおおおお!」

「やった、生きてる、生きてる!」

「奇跡だぁあああ!」


 モンスターの群れに襲われ、一時はどうなるかと思った……だが、その終わりはあっけないと言えば、あっけないものだった。

 村人は、それぞれ大喜びだ。外へ飛び出し、抱き合う人たち。安心してか、泣き崩れる人たち。感極まり叫ぶ人たち……

 ようやく、平和が訪れたのだと、実感した。


「みな、無事か! 重傷者はいるか!」


 今回のモンスターの群れ襲撃の一件で、奇跡的にも死者は出なかった。重傷者もいる、壊された建物や荒らされた畑もある。だが、死んだ者はいない。

 もし死者がいたら……そう考えたら、自分の都合など考えずに、たとえ信じてもらえずとも事前にモンスター襲撃のことを話しただろう。

 まあ、話しても鼻で笑われていた可能性が大きいが……それがなくても、死者が出ることはなかった。国の兵士隊……彼女たちのおかげで、被害を抑えられたのが、大きい。


「大変、すぐに手当てを!」

「すみません」


 怪我をしていた者は多い。だが、この村では傷の手当てに効く薬草を育てている。いくつかの畑は踏み荒らされたが、薬草は無事で、重傷者もそれで事なきを得た。

 ……結局それ以降、モンスターの襲撃はなくなった。……不気味なのは、どうしてそんなことが起こったのか、俺にもわからないことだ。

 勇者としての仕事が片付いたら、この件を調べてみようと思っていた。平民であろうと、魔王を倒した勇者には様々な特権が与えられるからだ。

 そんな未来は、訪れなかったが。


「この度は、ご助力感謝いたします!」

「いえ。領地を納める者の務めだと、国王は言っていました。むしろ、我々がもっと早く駆けつけていれば……」

「とんでもない、助かりました」


 国の兵士隊、その兵士長、つまり隊長である女性は、国王直属の部下だ。女性であるが、その実力は凶悪なモンスターをものともしないほどに、高い。

 名を、リデューダさんと言う。彼女らがこのタイミングで村を訪れた理由。それの発端が、一年前のハイウルフ発見にまで遡る。

 ハイウルフの存在を不審に思った村人の一人が、直接国王へと報告したのだ。この村は、国の領地にある。その関係か、一定の期間で村人の何人かが国へと向かう。その際、国から兵士が送られてくるのだ。

 国王へ報告といっても、もちろん一介の村人が国王に会うことなどできない。村人は兵士に伝え、その兵士からリデューダさんへ……そして、巡り巡って国王の耳に入ったのだ。

 そして、近頃モンスターの動きが活発化していると突き止め、この村に援軍を送ってくれたのだ。そのおかげで、村では死者は出ずに済んだ、というわけだ。


「それにしても、コアウルフだけでなく……コアゴブリンに、コアオーク。コアプテラまで……どうなっているんだ」


 リデューダさんが、顎に手を当て疑念を口にする。そう、コアと名のつくモンスターは、どれも凶暴で普通のモンスターよりも戦闘力が高い。

 そんなモンスターが、この周辺に現れたこと。コアモンスターは数は多くはない……なのに、今回群れとなって現れたこと。

 これらが、どう考えてもおかしいのだ。その原因は、結局わからずじまい。ただ……ここで出会ったリデューダさんとは、今後また、会うことになる。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

異世界着ぐるみ転生

こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生 どこにでもいる、普通のOLだった。 会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。 ある日気が付くと、森の中だった。 誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ! 自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。 幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り! 冒険者?そんな怖い事はしません! 目指せ、自給自足! *小説家になろう様でも掲載中です

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

処理中です...