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平和な毎日

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 ……ひとつの、小さな村があった。貧しくも、しかし人々は互いに協力しあい、暮らしていく。

 時折王都から訪れる行商人、旅の商人、冒険者……外から訪れる者も少なくなく、彼らを相手に商売したりなんかもして。
 人々は、充実した日々を送っていた。

「ふぅっ、これでよし!」

 さて、ここに一人の少女がいる。
 彼女は、名をリヤと言う。

 村では珍しい黒髪、なにより年相応のかわいらしい容姿から、老若男女から人気があった。
 村には、あまり子供がいなかったのもある。
 彼女は、蝶よ花よと愛でられて、大切に育てられ……今年で、七歳になる。

 そんな彼女は今、畑仕事の真っ最中だ。
 まだ子供だが、貧しい村ゆえに、小さな子供も家の手伝いなどで働いている。

「お疲れ様、リヤ」

 野菜を引っこ抜き、一仕事終えたリヤに話しかけるのは、リヤの母親だ。
 彼女は、一児の母とは思えぬほどに美しい。
 彼女は、名をルデーテと言う。

 リヤの黒髪は、彼女譲りだ。
 元は別の村に暮らしていたが、ひょんなことからリヤの父親と出会い、恋に落ち、このカール村へとやって来た。

「ま、こんなに泥だらけになって。
 かわいい顔が台無しね」

「えへへー」

 汚れた顔で笑顔を浮かべる娘と、それを撫でる母親。
 なんとも微笑ましい光景だ。
 母子二人で、生きてきた絆はなにものにも変えがたい。

 リヤが母親の手伝いをしている理由の大きな理由は、父親がいないこと。
 父親は、リヤが生まれてすぐに亡くなってしまったらしい。

 だから、リヤは父親の顔を知らない。
 そんな自分を、女手一つで育ててくれたのが、母ルデーテだ。

「少し休憩にしましょう。
 家に帰ったら、顔を洗うのよ」

「はーい」

 家に戻る最中、よく声をかけてくれるおじちゃんやおばちゃん。
 小さな村では、村人全員が知り合いだ。

 そこへ、ふと、リヤと同じくらいの背丈の男の子が、やってきた。

「あ、デーくん」

「よ、よう……って、デーくんって呼ぶな!」

 数少ない、村の子供。
 リヤにとっても数少ない遊び相手であるこの少年の名は、デニル。
 だからデーくんだ

 ちなみに彼は、こうしてちょくちょくリヤの下に足を運ぶ。

「今日も畑仕事か」

「うん、そだよ」

「そうか……」

「……」

 こうして毎日のように顔を見せに来るわりには、あまり会話が続かない。
 どこか、照れくさそうにもしている。

 その姿を見て、リヤは思う。

「あんた、私のこと好きなの?」

「! は、はぁ!? んなわけねえし!」

 思ったことを素直にぶつけて、ものすごく否定されてしまうわけだが。
 リヤも、まあそんなことはないだろうなと、思っているわけだが。

 その後も、当たり障りのない会話をして……それを、母は楽しそうに見ている。

「じゃ、またねー」

「お、おう」

 会話を終え、リヤとルデーテは帰宅する。
 仕事終わりに、甘いお菓子とジュースを口にする。これが毎日の楽しみなのだ。

 平和な村、優しい人たち、大好きな母……リヤにとって、これ以上望むものなんてない、幸せな空間だった。
 このまま、ずっとこうして、みんなで笑って過ごしていけるのだと……そう、思っていた。
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