猫好きの俺が、クラス一の美少女と猫友になった話

白い彗星

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第40話 思い出④

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 ザァアアア…………!!

「……」

「……」

 屋根付きのベンチに、星音しおんと……謎の男の子は、座っていた。
 初対面の相手と、有無を言わさずに隣り合って座っている星音。

 クラスの男の子ともまともに話したことがない星音に、これはハードルが高すぎる。
 まあ、ベンチに座るよう促したのは星音なのだが。

(だって、あのまま立ちっぱなしにさせるわけにも、いかないし……)

 初対面の相手とはいえ……いや、だからこそ、この雨の中ベンチを占領している図太い女だとは思われたくなかった。

 こういうときに、シロがなにかしゃべってくれるといいのだが……
 シロもまた、人見知りなのだろうか。先ほどからおとなしい。

「あの……」

「は、はいっ」

 そんな中、不意に男の子に話しかけられる。
 思わぬことに、変な声が出てしまった。変に思われていないだろうか。

 視線を向けると……手を、差し出されていた。
 一瞬、握手でも求められているのかと思ったが……手に、なにか持っている。

「これ、よかったら」

 それは、ハンカチだった。
 もしや、濡れている自分のために、わざわざ貸してくれるというのか。

 少し警戒しながらも、星音はハンカチを受け取る。

「あ、ありがとうございます」

「きれいな髪してるしさ。濡らしたままだとまずいでしょ」

「きっ……」

 カッ、と顔が熱くなるのを、星音は感じた。まさか、初対面の男の子に、そのようなことを言われるとは。
 とっさに、うつむいてしまう。変に思われてないだろうか。

 いつもは持ち歩いている手鏡も、この場にはない。
 なので星音は、手探りで髪の毛を拭いていく。最近は、伸ばすかどうか迷っている。小学生の頃は、おとなっぽいと言われるのが嫌で、切っていた髪だ。

 服も、濡れてしまっている。いっそ脱いでしまいたいが、そういうわけにもいかないだろう……

「ん?」

 ふと、視線を感じた。隣からだ。
 ちらと、横目で確認する。やはり……というか彼しかいないのだが、視線の正体は彼だった。

 彼が、じっと星音を……いや、星音の体の一部に視線を向けている。
 その視線の先を、追うと……

(む、胸!?)

 彼の視線が、胸元に注がれていることに気付いた。
 瞬間、星音は顔を赤らめた。男の人っていつもそうですね!

 教室でだって、男子からの視線を感じることがある。それがいやらしい意味であると、星音は知っている。
 だから、星音は……胸を隠すように、腕を寄せた。

 そうなると、胸に抱いていたシロを、軽くであるが締め上げてしまう形になり。

「にゃっ」

「あ、あぁ、ごめんねシロ!」

 自分のせいで、シロを締め上げてしまった。その事実に、星音は謝罪する。
 なんということだ。胸を隠すためとはいえ、胸に抱いていたシロを忘れてしまうとは……

 ……おや?

(私、シロを抱いていたから……胸は、見えていないのでは?)

 胸元に注がれていると思われていた、視線。だが考えてみれば、胸元にはシロが抱かれている。
 よって、考えを冷静にまとめてみれば……

「あ、あの……!?」

 それを確認するために、怖いが隣の男の子に視線を向ける。
 すると……男の子は、今にも泣き出しそうな顔をしていた。星音は、ぎょっとする。

 その視線は、やはり星音の胸元……いや、胸元に抱かれている、シロに注がれている。
 まるで、締め上げていたシロを、自分が泣くくらい心配しているかのように。

「……へ?」

 ここでようやく、自分が話しかけられたのだとわかった男の子が、視線を上げた。
 その目に、クラスの男子に感じていたいやらしさは、かけらもない。

「……猫、お好きなんですか?」

「はい、お好きです」

 決定的となる、質問……初対面の男の子に自分から話しかけることに、どれだけ勇気がいることか。
 それに対して、男の子は答えた。めちゃくちゃいい声で、うなずいて。

 つまり、男の子は星音ではなく、星音が抱いていたシロを見ていたのだ。

「えっと……抱いて、みます?」

「え、いいの!?」

 それは、なんとなくの言葉だった。
 しかし、男の子にとってはなんとなくではなかったらしい。星音の言葉に、即座に食いついた。

 目を輝かせ、期待に胸を膨らませている男の子。
 その姿を見ては、だめですとは言えなかった。

「はい。えっと、あ、でもシロ、汚れて……」

「そんなの全然気にしない」

「……じ、じゃあ……」

「お、おう」

 星音は、シロを抱いたままゆっくりと腕を伸ばす。
 対して男の子も、シロを受け取るために恐る恐る手を伸ばして……

 シロは、星音の手の中から飛び出した。

「きゃっ、シロ!?」

 地面に着地したシロは、そのまま星音の足下に移動してしまう。
 それを見届けた男の子は、苦笑いを浮かべた。

「まあ、初対面の相手に気軽に触らせてはくれないか」

「な、なんだかすみません」

「いやいいって。嫌がられて睨まれるのも、それはそれでおいしいから」

「?」

 自分から提案しておいて、期待を壊してしまったことに星音は申し訳無さそうに、眉を下げる。
 普段、星音や両親としか接しないシロ。他の人間相手に、どんな反応を示すのか。

 結果として、シロは初対面の相手には警戒するらしい。それも当然といえば当然だ。

「ところで、キミはどうしてここに?
 俺は野良猫探し回ってたら、急に降られちゃってさ。まいったよ」

「私は……」

 ここにいる、理由。それは両親の海外出張を告げられたためだ。
 感情のままに家を飛び出し、ここにいる。

 こんなこと、初対面の男の子に話しても仕方ない。

「私は、なんと言いますか……この先のことが、不安になって」

 仕方ない、そのはずなのに……気づけば星音は、漠然とではあるが、男の子に話していた。
 両親が海外に出張して……着いていったとしても、残ったとしても。不安なのだ。

 こんなこと、話されたって男の子だって、困るだろう。なのに、なぜだろう。
 誰かに聞いてほしかったのかも、しれない。
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