猫好きの俺が、クラス一の美少女と猫友になった話

白い彗星

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第34話 邪魔者は退散しますか

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「はぁ……そんなことがあったのか。俺も見たかったなー、猫屋敷さんのガチギレシーン」

「あら経験あるだろ。猫派犬派のときのを忘れたか」

「あー……」

 現在、昼休み。奏と新太は、いつものように中庭で昼食を食べていた。
 購買で買ったパンをかじりながら、奏はじろっと新太を見た。

「ったく。お前な、こっちは心臓が冷えるかと思ったんだぞ」

「悪い悪い。
 ……けど、冗談抜きでさ。猫屋敷さんが、お前のために怒ったんだろ? 見てみたかったよ」

「……」

 紙パックの牛乳を飲みつつ、奏は思い出す。
 今朝、星音しおんの怒りとも呼べる感情を見た。そしてそれは、奏をバカにされたからというものだ。

 あの後、教室に入ってきた新太たち。それにより、教室の空気は幾分軟化した。


『ちょー、ちょちょ! どうしたのさ星音!』

『……なんでもないですよ、月音つきね

『少し、彼らとお話していただけですから。ね?』

『! あ、あぁ……その、ごめ……』

『謝るなら、私にじゃありませんよね?』

『……わ、悪かった、立宮』

『あ、いや……』


 間に入って来た月音、彼女も険悪な雰囲気を感じ取ったらしい。
 その後、男子生徒が奏に謝罪して……そのタイミングでホームルームの予冷が鳴り、担任が教室に入ってきたことで、状況は終了した。

 新太は当時の状況を、奏から聞いたわけだ。

「にしても、今日はいっつもと違ってちょっと面白かったな」

 新太が思い出すのは、教室での出来事だ。
 いつもなら、休憩時間には星音の周りには人が集まる。

 しかし、今日はいつもと違った。
 昼休みになっても、月音以外の誰も、星音の席に近づこうともしなかった。

「そんだけ猫屋敷さんが怖かったってことかねぇ。
 本人は、気にした素振りは見せなかったけど」

「あぁ……」

 周りに人が居なくて寂しい……とかは、星音は思ってはいないのだろう。
 そもそも、彼女が心を許せる友人は月音だけだ、と言っていた。

 だから、教室でクラスメイトが寄り付かなくなっても、そこまで影響はないのだろう。

「それにしても、言えよなお前。いつの間に猫屋敷さんとそんな関係になったんだよ」

「そんな関係って……ただの、猫友だっての」

「あの猫屋敷 星音とお友達になりたい男子がどれだけいることか」

 じゅうう、と新太は、紙パックの中身を飲み干し、握り潰した。

「まさか、俺のやった無料チケットで猫カフェデートとはね。やるねこのこの」

「で、デートじゃねえよ。てか、あれカップル限定だったぞ。どういうつもりだ」

「あははは」

 こいつ……と、奏は新太を睨んだ。

 クラスメイトには、奏と星音が一緒に出掛けたことしか知られてはいない。
 だが新太には、その出掛け先も話した。

 自分のあげた無料チケットがそのような使われ方をされていたなど、新太は思いもしなかった。

「で、真面目にどんな気分よ。猫屋敷さんが、自分のことで怒ってくれた感想は」

「……なんというか、むずがゆい」

 星音は、学校ではある程度の感情を出すことはなかった。
 学校以外……猫のことになると、彼女のテンションが爆上がりすることを、奏は知っている。

 だが、星音が怒った姿など、見たことがなかった。その表情は冷たく、声にいつもの温もりはなかった。
 それも、誰かのために……自分のために怒ったなどと、奏は今でも信じられないくらいだ。

「けど、猫屋敷さんがあそこまで言ってくれたのに、俺はなんも言えなかったのが……なんつーか、情けなくてな」

「へー」

 あのとき奏は、見ていることしかできなかった。
 星音の迫力に圧倒されたのもあるが、あそこでなにか言うべきではなかったのか……と、後悔している。

「情けなくなんかありませんよ」

「へ?」

 そこに、今朝も聞いた……しかし、今朝とは打って変わって柔らかな感情のこもった、声がした。
 振り向くとそこには……

「ね、猫屋敷さん……」

「どうも」

「アタシもいるよー」

 困ったような表情で笑っている星音と、その隣に立つ犬飼 月音の姿があった。
 奏たちが座っているベンチの側に、二人は立つ。

「猫屋敷さん……あの……」

「ご、ごめんなさい」

 奏が、なにかを言う前に……先んじて、星音は頭を下げ、謝罪を口にした。

「え、いや、なんで猫屋敷さんが謝るのさ」

「その……恥ずかしい所を、見せてしまったといいますか。立宮くんの事情に、勝手に口を挟んでしまって」

 謝罪され、奏は慌てて立ち上がる。
 恥ずかしいことなんてなにもないし、謝ることなんてない。

 少なくとも、さっきのことは……

「俺はその、嬉しかったというか……とにかく、頭を上げて」

 奏の言葉に、星音はようやく頭を上げた。
 その頬は、真っ赤に染まっていた。

 そんな星音を、後ろからぎゅっと抱きしめるのは月音だ。

「いやあ、まさか星音が立宮のために、人前で怒るなんてねぇ。アタシも見て見たかったよ」

「や、やめてください月音っ」

 どうやら、月音もおおよその事情を星音から聞いたらしい。
 ただ、怒った本人からの話というのは、いったいどういう風に伝えられたのだろう。ちょっと気になる奏である。

 それにしても、新太と似たことを言っている。

「ほんじゃ、邪魔者は退散しますかねー」

「おうおう、猪崎は帰れ帰れ!
 ……って、なんでアタシを引っ張るんだよー!」

「お前も行くんだよアホ」

「いーやーだー」

 アタシも話聞くんだ離せー……と、月音は抵抗するが意味はない。
 新太にずるずると引きずられ、校舎の中に消えていった。

 残されたのは、奏と星音のみ。

「えっと……とりあえず、座る?」

「は、はい」
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