猫好きの俺が、クラス一の美少女と猫友になった話

白い彗星

文字の大きさ
上 下
27 / 43

第27話 知っています

しおりを挟む


「ふんふーん♪」

「……」

 現在、星音しおんが暮らしているアパートの一室に、奏はお邪魔している。
 静かな室内に響くのは、トントントン、と食材を切る音。そして鼻唄だ。

 これは、奏が歌っているものではない。星音のものだ。
 キッチンに立つ星音は、食材を切り料理の準備をしながら、鼻唄を歌っていた。

 その姿に、なんだかかわいらしさを感じる奏である。

「立宮くん」

「は、はい!」

 奏に背を向けている星音が、手の動きは止めないまま話しかけてくる。
 ジロジロ見ていることが、バレてしまっただろうか。

 だが、多少は目をつぶってもらいたい。なんせ星音は今、エプロンを着用しているのだ。
 同級生の、エプロン姿……それは、なんだかぐっとくるものである。

 この先、授業で調理実習なんかあれば、他の生徒も星音のエプロン姿を見ることになるのだろうか。
 ……ちょっと、もやっとする。

「テレビ、つけてもいいですよ。音がないと寂しいでしょう」

「いや、俺は……」

 テレビをつけてしまえば、星音の鼻唄が聞こえなくなるからつけたくない……とは、さすがに言えない。
 奏は、膝の上のシロを撫でながら、言葉を選ぶ。

「俺は、シロを愛でてるだけで充分楽しいしさ。もちろん、猫屋敷さんが音があった方がいいって言うならそうするけど」

「ふふっ、そうですか。私は、後ろからシロと立宮くんが遊んでいる音が聞こえるので、充分です」

「さ、さいですか」

 奏はソファーにもたれ、ゴロゴロ喉を鳴らすシロの頭を撫でる。
 先ほどは、足下にすり寄ってきて動けなかった奏だが、今はソファーに深く腰掛け、シロを膝に乗せている。

 あのままだったら、ずっと立ったままを覚悟していたが……
 あの後、シロは奏の足下から離れ、かと思えばソファーに飛び乗り、じっと奏を見ていた。

 まるで、お前もここに座れ、と言っているように。
 そして座ったら、シロが膝の上に乗ってきたわけだ。

「それにしても、猫カフェの猫でもここまで懐いてはこなかったのに……」

 リラックスしているシロを撫でながら、奏は思う。
 猫カフェでは、存分に猫と戯れることができた……が、シロほどリラックスして触れ合った猫は、いなかった。

 猫にも人を好むタイプと、そうでないタイプがいる。だが、猫カフェの猫は、少なくとも人に慣れた猫のはずだ。

「よっぽど人懐っこいってことかなー、シロは」

「……そうですね」

 じゅー、となにかが熱せられる音を響かせ、星音が背中越しに答える。
 卵のいい香りが部屋の中を漂っていく。

 本当に星音が、女の子が自分のために料理しているのだと思うと、ちょっと優越感があった。

「あの、猫屋敷さん。なにか手伝えることとかないかな」

「ふふっ、立宮くんはシロと遊んでくれて大丈夫ですよ」

「でも……」

 さすがにこのまま待っているだけなのも、気が引ける。
 とはいえ、ここは人の家。それも初めての女の子の部屋だ。勝手に動き回るわけにもいかない。

「そのお気持ちだけで、嬉しいです。それに、シロが離れないでしょう?」

「それは、まあ……」

 すっかり、我が物顔で奏の膝の上を占領している、シロ。
 こんなかわいいシロを放っておく選択肢など、奏の中にはない。

「猫屋敷さんは、なにを作ってくれているの?」

「オムライスです。それに、ハンバーグも」

「おぉ」

 今、星音が作っているものを聞いて、奏は目を輝かせた。
 オムライスとハンバーグ。なんせ、二つとも奏の大好物だからだ。

 一人暮らしの女の子の冷蔵庫事情など奏は知らないが、もしも奏のために買いそろえてくれたのだとしたら……
 なんて考えるのは、傲慢だろうか。

「そっか、すげー嬉しいよ。俺、オムライスもハンバーグも大好きなんだよ」

「……えぇ、知っています」

「え、なんて?」

「なんでもありませんよ」

 自身の好物を吐露する奏に、なにか言葉を返す星音だが……その言葉は、じゅわーっというフライパンの熱した音に、かき消されてしまった。
 奏が聞き返すも、星音が素直に答えることはなかった。

 ……奏は、知らない。教室で「好きな食べ物はなにか」で盛り上がっていた奏と新太の会話を、星音が聞いていたことを。

「……あのさ、聞いちゃいけないことだったら、答えなくていいんだけど」

「なんでしょう?」

 料理の音が、心地いい。
 それでも、やはり緊張はあるままだ。なので、会話をして、気を紛らわせたい。

 料理の邪魔に、なったりしないだろうか。

「猫屋敷さんが一人暮らししているのって、なにか理由が……?」

 今まで、気になっていたこと。しかし気になっていたことを聞いて、すぐに奏は後悔する。
 理由もなにも、理由がなければ一人暮らしなんてしないだろう。女子高生の一人暮らしなんて、あぶなっかしい。

 そもそもこんなこと聞けるほど、自分たちは親しくもないだろうに。

「理由、ですか。たいしたことではないんですよ。両親が海外出張に行っていて、今両親がいないだけです」

 その理由を、星音はなんでもないように答えた。

「海外出張……」

「えぇ。高校に入る少し前に。
 もちろん、私も一緒に行かないかと誘われたのですけれど……海外は不安で。それに……」

 奏から、料理中の星音の表情は見えない。
 いつものように凛とした顔をしているのか。それとも寂しがった顔をしているのか。

 あるいは……

「それに?」

「それに……離れたくない人も、いましたからね」

 そう言って振り返った星音は……これまでにないほどの、微笑を浮かべて奏を見つめていた。

 離れたくない人、とは友達のことか。海外に行けば、会うことも難しくなる。
 そう理解した奏だが……なぜだか星音が、自分のことを"見て"いるように、感じた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

体育座りでスカートを汚してしまったあの日々

yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

まずはお嫁さんからお願いします。

桜庭かなめ
恋愛
 高校3年生の長瀬和真のクラスには、有栖川優奈という女子生徒がいる。優奈は成績優秀で容姿端麗、温厚な性格と誰にでも敬語で話すことから、学年や性別を問わず人気を集めている。和真は優奈とはこの2年間で挨拶や、バイト先のドーナッツ屋で接客する程度の関わりだった。  4月の終わり頃。バイト中に店舗の入口前の掃除をしているとき、和真は老齢の男性のスマホを見つける。その男性は優奈の祖父であり、日本有数の企業グループである有栖川グループの会長・有栖川総一郎だった。  総一郎は自分のスマホを見つけてくれた和真をとても気に入り、孫娘の優奈とクラスメイトであること、優奈も和真も18歳であることから優奈との結婚を申し出る。  いきなりの結婚打診に和真は困惑する。ただ、有栖川家の説得や、優奈が和真の印象が良く「結婚していい」「いつかは両親や祖父母のような好き合える夫婦になりたい」と思っていることを知り、和真は結婚を受け入れる。  デート、学校生活、新居での2人での新婚生活などを経て、和真と優奈の距離が近づいていく。交際なしで結婚した高校生の男女が、好き合える夫婦になるまでの温かくて甘いラブコメディ!  ※特別編3が完結しました!(2024.8.29)  ※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、感想をお待ちしております。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

処理中です...