猫好きの俺が、クラス一の美少女と猫友になった話

白い彗星

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第14話 女子とのお出掛けはどうすれば?

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「…………夢じゃない、よな」

 自室にて奏は、スマホを片手につぶやいた。何度も何度も、画面を凝視する。
 しかし、いくら画面を見ようと、そこに表示されている文字が変わるわけではない。

 画面に映し出されているのは、"にゃいん"のトーク画面。
 トーク相手は猫屋敷 星音ねこやしき しおんであり、いつもならばそこには彼女の飼い猫シロの写真と、一言二言の台詞があるのみだ。

 だが、今回は違った。

『来週末の猫カフェ、楽しみにしています』

「……夢じゃないよなぁ」

 先ほどと同じ言葉を吐きつつ、奏はベッドの上に身を投げ出す。

 今日の昼休み……いつもシロの写真をくれる星音へのお返しとして、猫カフェの無料チケットを渡した。
 それは二枚で、星音が友達と行けばいいと思って渡したものだ。

 だが、受け取った星音の反応は……


『……立宮くん、私を誘ってはくれないのですか?』


「あれはずるいだろ……」

 あんなことを言われて、奏から星音を誘わない、という選択肢は存在しなかった。
 自分から女子を、しかもあの猫屋敷 星音を誘うなど、普段なら考えられないことだ。

 結果として奏は星音を誘い、星音はそれを承諾した。
 もしこれで断られていたら、星音に弄ばれたとして心が折れていたところだ。

 あの台詞……しかもその際、頬を染め、頬を膨らませていたのは、果たして狙っているのだろうか。
 だとしたらとんでもない悪女だ。そうでなければ、とんでもない天然だ。

「うーん、女の子と休日に出かける……これってもう……」

 ベッドの上でもだえる奏。
 休日に異性と出かけることの意味を、考えないはずはない。

 その行為は、世間一般的にはデートと呼ばれるものだ。

「おや、ないない。ただ猫カフェ行きたいだけだっての」

 自分で考えて、否定する。
 これはデートではなく、ただ猫カフェに一緒に行く相手に自分が選ばれただけ……

 なぜ自分なのかは……まあ、他に猫派の友達がいないとか、そういうことだろう。

「深く考えるのやめよ。
 ……来週末、か」

 奏は、壁にかかっているカレンダーを見る。
 来週の、週末……その日が、星音との猫カフェ日だ。

 ちなみに日にちを指定してきたのは、星音だ。
 今週末ではいけないのかと聞いたのだが……


『女の子には、いろいろ準備があるんです』


 とのことだ。

 まあ奏としても、今週末いきなりお出掛けしましょうと言われても、困っただろう。
 隣を歩く星音に恥をかかせないよう、念入りな準備が必要だ。

「なんか、いい服が……なけりゃ週末買いに行くか」

 学生の奏たちにとって、一日丸々自由な時間は休日しかない。
 今週も来週も祝日はないため、週末しかないわけで……そして来週末が、お出掛けなわけで……

 準備期間は、今週末となるわけだ。
 準備を整え、星音とお出掛け……

「……これも返さないとな」

 立ち上がる奏は、鞄からあるものを取り出す。
 それは、チャック付きの袋に入れられた、ハンカチだ。

 白い生地に、端には肉球の模様があるハンカチだ。

 シロと出会ったあの日……星音と話すようになったきっかけとなった、あの時。
 雨の中、公園のベンチで雨宿りしていた二人。雨がやみ、一足先に帰った彼女が、忘れたものだ。

「なんとなく、汚れちゃダメだと思って、保存してるけど……」

 次の登校日に、星音に返すつもりだった。方法は考えてなかったが。
 そのうちに、星音の方から話しかけてきた。

 その衝撃で、ハンカチのことなど頭から抜け落ちてしまい……
 その日の昼休み、今日よくじつの登校中、そして昼休み……すべて、星音の方から話しかけてきた。

「返すチャンス、あったろうがよバカ……」

 自分で自分が情けなく、奏は一人つぶやいた。
 それに……今更ながら、いつも星音の方から話しかけてくれていることに、気づく。

 なんというか、それもなんだか、情けなかった。

「次は、俺から声を……? てか、まずはハンカチ預かってることも言わないとだよな……あぁでも、すぐ返さなかったこと気持ち悪がられたらどうしよう」

 奏の中で、考えが膨らんでいる。
 まさか、女の子のことでこんなにも悩むことがあるなど、思わなかった。

 うんうん唸る奏。すると、突然部屋のドアが開いた。

「お兄ぃ、このマンガの続き貸してー」

 その直後、部屋に入ってくる人物。

「……ノックしろよ」

「えー、いいじゃんめんどいし」

「お前な……親しき中にも礼儀ありって言葉を知らないのか」

「は? もしかしてお兄ぃ、わたしに言えないようなことしてんの? キッショいんだけど」

 我が物顔で部屋に入ってくるのは、立宮 空音たちみや からね。奏の妹だ。
 奏の一つ下の彼女は、今年受験生。来年は、奏が通っている高校に通う予定だ。

「受験生がそんなでいいのかー? 落ちても知らんぞ」

「おあいにく、わたしはお兄ぃと違って頭の出来がいいから。
 てか、冗談でも受験生に落ちるとか言うなっての。キッショい」

 部屋に入り、歩く度に空音の髪が揺れる。肩まで伸ばした黒髪を、サイドテールに結び、右側に流している。
 本棚の前で屈み、マンガを取り出す。

「……そうだな、冗談にしては無神経だった。悪かった」

「は? なにマジに謝ってんのよ、キッショいんだけど」

「どうしろと!?」

 マンガの続きを持って、用が済んだので部屋から退出……するかと思いきや。
 スマホを握り締めたままの奏を、じっと見つめていた。

「なに、どうした」

「いや、なんかうんうん言ってる声が部屋の外まで聞こえてたから……また猫動画見てんのかと思って。
 別にわたしはお兄ぃの性癖にまで口は出さないけど、せめて相手は人間の女にしてよ。キッショい」

「なにが!? 俺お前になんて思われてんの!?」

 妹の思わぬカミングアウトに、奏は目が飛び出るほどに驚く。
 そんな奏を、空音はしらけた目で見ている。

「そんな目で見るなよ! 俺はお兄ちゃんだぞ!
 てかお前だって、猫好きじゃないか!」

「わたしはちゃんと分別ついてるし」

「俺がついてないみたいな言い方やめて!?」

 ツッコミ疲れ、奏はため息を漏らす。
 空音とのやり取りは、いつも通りだ。いや、いつもよりちょっと鋭い気がする。

 人が、女子とのお出かけで悩んでいる時に余計な体力を、使わせないでほし……

「んー……」

「なによ、ジロジロ見ないで」

「いやお前さ……一応女でいいんだよな」

「はぁ? ……せめて相手は人間の女にしてって言ったけどさ。まさか実の妹とか……キッショ……」

「やめろ! 本気の軽蔑の目は!」

 自分の体を抱きしめるように、奏から距離を離す空音。
 もうなにを言っても、犯罪者扱いされそうだ。

 ……本当にこの妹に、女子とのお出かけ相談をしていいものか。
 奏の心は折れそうになっていた。
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