6 / 43
第6話 おすそ分けです♪
しおりを挟む「かーなーでー」
「ぅおっ!?」
背後から、地の底から響くような声がして、奏は反射的に肩を跳ねさせた。
そして振り返ると、そこには先ほどトイレに行った、新太の姿があった。
「な、なんだお前か。脅かすなよ」
「驚いたのはこっちだよ! なんだよあれ!」
「あれ?」
「さっきまで、猫屋敷さんと話してたろ!」
興奮気味に話す新太が指摘するのは、先ほど奏と会話をしていた猫屋敷 星音のことだ。
そして新太は、奏の隣を指差す。
そこは先ほどまで星音が座っていた場所で、その前は新太が座っていた場所だ。
「まあ、な」
「まあなじゃねぇだろ!」
とんでもなく興奮している新太を前に、奏は冷静だった。
なんというか、自分よりも慌てている人間がいると、落ち着いてしまうのだ。
新太は、ここに星音がいたのだとうるさく話している。
その星音は、ついさっき鳴った予鈴を受け、一足先に教室に戻っていった。
なので、奏もそろそろ戻らないとまずいわけだが……
「なあ新太、興奮するのはいいけど、戻ろうぜ。休憩終わっちまう」
「なんでそんな冷静なんだよ!」
「なんでお前はそんな騒いでるんだよ」
荷物を片付け、教室に戻る準備を進める奏。
とはいっても、すでにゴミもまとめているため、そこまで準備するものもないのだが。
近くのゴミ箱にゴミを捨て、奏は教室に向かって足を進める。
「お前、説明しろよ!」
「わ、わかったよ……けど、時間ないしまた今度な」
「えぇー」
えぇー、じゃない。
「……」
それから、騒がしい新太を適当にあしらいながら、奏は教室に戻る。
ふと、視線を向けた先には、窓際の席にいる猫屋敷 星音の姿が目に入った。
彼女に視線を向ける者は多いが、当の彼女は窓の外を見ていた。
……ふと、星音の首が動き……その視線は、とある場所へと向いた。
そして、うっすらと、笑みを浮かべた。
「!」
教室に入るため扉の近くにいた奏は、その視線を受け息を呑む。
星音が、奏に向かって微笑んだ……そう、感じてしまったからだ。
だが……
「おい、今猫屋敷さん俺に微笑んだぞ!」
「ばっかそりゃ俺だよ!」
「いやいや僕に決まってんだろ!」
扉付近にいた男子たちは、声を押し殺して騒ぎ始める。
視線がこちらに向き、微笑みを向けられれば誰しも、それが自分に向けられたものだと思ってしまう。
いや、思いたいのだ。
奏もまた、これはきっと気のせいだろう……変に期待するな、と自分を戒める。
その直後、後ろから担任が、教室へと入ってきた。
「うーい、席つけー。授業始めんぞー」
わいわいと湧いていた教室は、徐々に静まりを取り戻していく。
奏も自分の席へと、戻った。これから、午後の授業だ。
眠くならないように、集中しないとな……と思っていたときだ。
スマホから、着信を知らせるバイブが震える。
学校では、音が鳴ってしまわないようにバイブモードにしている。
奏は周囲に気づかれないように、スマホの画面を操作し、届いたメッセージを見た。
そこに表示されていた名前は……先ほど連絡先を交換したばかりの、猫屋敷 星音だった。
『ウチのシロ、おすそ分けです♪』
「!?」
表示されたのは、写真。そこには、一匹の白猫……星音の飼い猫であるシロが、映っていた。
しかも、ただ映っているわけではない。
猫じゃらしのような猫用のおもちゃに向かって、猫足を繰り出している。躍動感ある、写真だ。
「ぁ……!」
やばい、と思った奏は、とっさに口を閉じた。
その理由は、実に単純。このままでは、あまりの衝撃に叫んでしまいそうだったから。
奏にとって猫の写真は、素晴らしい価値のあるものだ。猫好きだが家の事情で猫を飼えない奏にとっては、ネットで猫の写真を探る時間は至高の時間だ。
その猫の写真が、星音から送られてきた。
"猫屋敷 星音からメッセージが送られてきた"。"猫のハチャメチャな写真が送られてきた"。
どちらか一方だけでも、奏にとっては大事件だというのに……
「猫屋敷さんから、猫の写真が……」
それも、かなり勇ましくそれでいてかわいい写真だ。
これまで数々の猫写真を見てきた奏には、わかる。これは、猫を真に愛している人にしか撮れない、写真だと。
こんな写真をおすそ分けしてくれるなんて、これは菓子折りの一つでも渡したい気分だ。
ただ……
(なんで、わざわざ授業中……?)
下手をしたら、授業中に奏の悶絶声が響き渡ることになっていた。
それはまずいし、そもそも、だ。
あの真面目な猫屋敷 星音が……授業中に、スマホで写真を送ってくるなどと。しかも『♪』つきで。
ふと、星音の席へと視線を向けた。彼女はすまし顔で授業を受けているのか、それとも……
(……あっ……)
……こちらを見ている星音と、目があった。
彼女は奏を、見つめていた。その表情は、どこかいたずらめいたもの。
とっさに、奏は姿勢を戻す。
(た、たまたまだよな?)
たまたま、星音も奏を見ようとした……奏が星音を見たタイミングと、たまたま合っただけだ。
そうでなければ……いや、それは考えすぎというものだろう。
もし、タイミングが合っただけだとしたら……それはそれで、運命的なものを感じる、気もするのだが。
その後奏は、メッセージを返した。『素敵な写真ありがとう』と。
すると、星音から猫のスタンプが返ってくる。黒猫が敬礼して、にゃと鳴いているスタンプだ。
(……なんか、イメージ変わるな)
授業中に、こんなやり取りをしているだなんて。
彼女にも、ちょっとおちゃめな一面が、あるのかもしれない。なんだか今まで知らなかった一面を知れて、嬉しい。
それからメッセージのやり取りは止まり、授業を受けるのを再開するが……奏の頭は、送られてきたシロの写真で、いっぱいだった。
10
お気に入りに追加
21
あなたにおすすめの小説
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

体育座りでスカートを汚してしまったあの日々
yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

まずはお嫁さんからお願いします。
桜庭かなめ
恋愛
高校3年生の長瀬和真のクラスには、有栖川優奈という女子生徒がいる。優奈は成績優秀で容姿端麗、温厚な性格と誰にでも敬語で話すことから、学年や性別を問わず人気を集めている。和真は優奈とはこの2年間で挨拶や、バイト先のドーナッツ屋で接客する程度の関わりだった。
4月の終わり頃。バイト中に店舗の入口前の掃除をしているとき、和真は老齢の男性のスマホを見つける。その男性は優奈の祖父であり、日本有数の企業グループである有栖川グループの会長・有栖川総一郎だった。
総一郎は自分のスマホを見つけてくれた和真をとても気に入り、孫娘の優奈とクラスメイトであること、優奈も和真も18歳であることから優奈との結婚を申し出る。
いきなりの結婚打診に和真は困惑する。ただ、有栖川家の説得や、優奈が和真の印象が良く「結婚していい」「いつかは両親や祖父母のような好き合える夫婦になりたい」と思っていることを知り、和真は結婚を受け入れる。
デート、学校生活、新居での2人での新婚生活などを経て、和真と優奈の距離が近づいていく。交際なしで結婚した高校生の男女が、好き合える夫婦になるまでの温かくて甘いラブコメディ!
※特別編3が完結しました!(2024.8.29)
※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。
※お気に入り登録、感想をお待ちしております。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる