猫好きの俺が、クラス一の美少女と猫友になった話

白い彗星

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第5話 猫好きの同志として

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「れれれれれ、連絡……先?」

「えぇ。どうしたんですそんな顔をして」

 昼食中、突然現れた猫屋敷 星音ねこやしき しおん。彼女は、奏を捜しているような口ぶりだった。
 クラス一の美少女である彼女が、自分を捜していた……それだけでも驚きなのに、だ。

 その理由は、連絡先を交換しよう、というものだった。

「えっと……すみません、いやでしたか?」

 いつまで待っても奏からの返答がないことに、星音は不安げな表情を浮かべる。
 それを見て、奏は慌てたように口を開いた。

「ちち、違くて! いやなんて、そんなこと全然なくて!
 ……ただ、なんで俺なんか、と……」

 奏は、普段あまり人と関わらない。なので、スマホの連絡先に登録されている人間と言えば、学校の人間であれば友達の猪崎 新太いのさき しんただけだ。
 女子どころか、登録人数自体が少ないというのに。

 対して相手は、十どころか百の桁は連絡先に登録していそうだ。イメージだが。

「なんで、ですか……理由が必要ですか?」

「え?」

「私が、立宮くんと連絡先を交換したと思ったから。これだけでは、不満ですか?」

 どうして、俺なんかと……その問いかけに対する答えは、奏の予想もしていないものだった。
 彼女は、ただ単純に……奏と、連絡先を交換したいと、思ってくれたのだ。

 あっけにとられる奏。しかしここで、ようやく気付いた。
 星音を、立たせたままだということに。

「ごごご、ごめん! ここ、どうぞ!」

 女の子を立たせたままだなんて。奏は慌てて、自分の隣を手で払い汚れを落としてから、指し示す。
 その行動に、星音はきょとんとしていた。

「ええと……いいのですか? 誰か、座っていたのでは」

「気にしないで!」

 そこに残されているのは、新太が残して行った残骸だが、そんなもの関係ない。
 そそくさと、片づける。

 しかし、ここに来て奏はまたも気づく。自分の隣に座らせるなんて、キモくないか俺、と。

「あぁ、えっと、俺は退くから……」

「では、失礼しますね。ふふ、男の子とこんなに近いのは、少し緊張しますね」

 よし俺がここから退こうそうしよう、と奏が腰を持ち上げようとしたところで、躊躇なく星音が隣へと座る。
 教室でも、席は隣同士だってこんなに近くはない。

 くすくすと笑う星音の姿に、奏は見惚れてしまっていた。

「それで、連絡先ですけど……」

「ぇ……」

「もし他に理由が必要なら、そうですね……猫好きの同志、ということでどうでしょうか」

 うーん、と顎に指を添えて、考えた彼女は……スマホを見せ、連絡先交換の理由を口にする。
 それは。奏にとって納得できる理由では、あった。

 そもそも、まさか星音から連絡先交換しようと言われて、驚きはしても断る理由なんてないのだ。

「えっと……お願いします」

「はい。では、"にゃいん"を開いてください」

 互いにスマホを操作し、アプリを開く。
 友達登録すれば、お手軽にメッセージのやり取りなどができる、便利なアプリだ。

 奏がQRコードを表示し、それを星音が読み取る。
 たったそれだけの行為が、奏にとっては心臓が張り裂けそうだった。

(ち、近い近い……! それに、なんかいいにおいも……あぁ、しっかりしろ俺!)

 邪念を振り払う奏の葛藤に、星音は気づいてはいない。
 やがて読み取りが終わり、友達登録が完了する。

 早速、星音からスタンプが送られてきた。よろしくお願いいたします、といった旨のスタンプだ。
 その横に表示されているのは、星音のアイコンだ。

「……シロ、なんだ。アイコン」

「えぇ。他になにを使えばいいかもわからなかったので、使わせてもらってます」

 アイコンに映っている、星音の飼い猫シロ。それを見て、星音は表情を緩ませた。
 愛しいものを見ている、そんな表情だった。

 そして奏もまた、似たようなスタンプを送った。

「……立宮くんのアイコンも、猫?」

 表示されている奏のアイコンは、黒猫の写真だった。

「えっと、猫は飼っていないんでしたよね?」

「うん。だからこれは、近所で見つけた野良猫を撮ったやつ。変、だよね」

「いえ、そういう意味ではなくて……本当に、猫が好きなんだなと」

 奏のアイコンは野良猫の写真。それを見て、星音はどこか微笑ましそうな表情を浮かべていた。
 これは、変ではないと。

「……ん、どうかしました?」

 ふと、じっと見られていることに気付いた星音が首を傾げた。

「あ、えっと……気分を悪くしたらごめんだけど……教室では、そんな風には笑わないのにな、って思って」

 思わず顔をじっと見てしまっていたことに、奏は恥ずかしさを覚える。
 下手にごまかすのも悪い気がしたので、正直に口にした。

 それを聞いて、星音は少し驚いたような表情を浮かべた。

「私、教室で笑えてませんでしたか?」

「いや、そうじゃないんだけど……」

 今まで、星音の笑顔はとても美しく、どこか芸術品のようなものだと思っていた。
 だが、今の……というか、猫の話をしているときの星音の笑顔と比べると……教室での笑顔は、作り物のような気がしたのだ。

 もちろん、これは見比べたからそう思っただけで、教室での星音が作り物だなんて言うつもりはないが。

「今の笑顔の方が、楽しそうって言うか……ごめん、うまく言えない」

「楽しそう、ですか」

 まさかそんな指摘をされるとは、思っていなかったのだろう。
 考え込むように、星音は黙ってしまう。

 それを見て、怒らせてしまったかもしれないと、奏は慌てていた。
 もし不快な思いをさせたのなら、すぐにでも謝るべきだ。

 だが、星音の表情は怒っているものではなく……どこか、納得の感情を、含んでいた。

「そう、ですね……そうかもしれません。
 私、立宮くんとお話しているのが、楽しいんです」

「!」

 口角を上げ、微笑む星音の髪を、風が躍らせる……
 奏を見るその目は、とても優しいもので……このままでは、吸い込まれてしまいそうになる。

 これは、とんでもない殺し文句だ……

(い、いやいや、違う違う! 俺との会話じゃなくて、猫の会話をするのが、楽しいだけだって! 勘違いすんなよ、立宮 奏!)

 男なら、その言葉に溶けてしまうだろう。だが奏は、寸前で踏みとどまる。

 今のは、ただの言葉のあやだ。深い意味などない。そう、自分に言い聞かせる。
 クラスの中でも目立たない自分が、こうしてクラス一の美少女と話せているだけ、奇跡なのだ!

 そうやって、自分を無理やり納得させている奏には、「あ、他の方との会話が楽しくないわけではなくてですね……」と自身の言葉を慌てたように訂正する星音の言葉は、聞こえていなかった。
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