猫好きの俺が、クラス一の美少女と猫友になった話

白い彗星

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第2話 猫好きに、悪い人はいません

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「ふぁあ……」

「よー奏、なんか眠そうじゃん」

 翌日、ホームルーム前に学校に登校していた奏は、自分の席につくなり大きなあくびをしていた。
 その様子を見て、彼に話しかけてくる男子が一人。

「あー、昨日は面白い猫動画見つけちゃってな」

「それで夜ふかしか……相変わらずというか、なんというか」

 奏が眠そうにしている理由……それが、猫動画漁りによる徹夜のせいであったことを知り、彼猪崎 新太いのさき しんたは苦笑いを浮かべた。
 癖っ毛のある茶髪を指先で弄りながら、友人の相変わらずさに呆れているようだ。

 奏は、クラスの中でも目立たない方。地味とまではいかないが、積極的に人と関わろうとしない。
 そんな奏に気さくに話しかけてくれるのが、このクラスのムードメーカー的存在新太だ。

 おかげで、クラスでぼっちになるなんてことはなく、感謝している。口には出さないけど。

「ま、動物の動画って癒やされるもんなー。俺もさー、こないだ……」

 話題一つから、どんどん膨らませてくれる新太は、一緒にいて飽きることはない。
 そんな彼の話に相づちを打ちつつ、奏は寝不足の理由が動画漁り以外にあることを思い出していた。

 なぜなら昨日の出来事は、簡単には忘れられないものだったから……


 ――――――


「……立宮、くん?」

 目の前にいる人物、猫屋敷 星音ねこやしき しおん。彼女もまた、奏と同じく驚いていた。
 二人は、クラスこそ同じだが必要以上の関わりはない。まあ入学からそこまで日が経っているないので当然の部分もあるが。

 席が隣というわけでもなければ、すれ違い様に言葉をかわす仲でもない。
 どこにでもいる、ありふれたクラスメイト同士だ。

「猫屋敷さん……えっと、この白猫って、キミの?」

 このまま、硬直の時間が続くかと思われたが、先に口を開いたのは奏だ。
 早々に意識を戻せたのは、屋根にぶつかる雨音と、手の中にある体温のおかげだ。

 その主、手に抱えている白猫を見せつけるように、奏は手を差し出す。
 すると、白猫を確認した星音の目が、ひときわ大きく開いた。

「シロ!」

「……っ」

 白猫……シロの名を呼び、星音は一歩踏み出す。
 今まで心配していたのを体現するような動き。彼女は手を伸ばし、シロ……を掴み上げている、奏の手の甲に触れた。

 瞬間、奏の肩が跳ねる。女の子に触れられる機会など……それも、あの猫屋敷 星音に触れられる機会など、考えてすらいなかった。
 当の星音は、自分が奏に触れていることにすら気づいてはいない。

「よかった、心配したんだから……」

 シロの姿を確認し、安堵に頬を緩める星音の表情に、奏は思わず見惚れていた。
 学校では、クラス一の美人と評される星音。しかし、実際には学年でも上位だと言われても不思議ではない。
 入学早々、全校生徒が噂するほどの容姿を持つ。

 普段、表情があまり変わらない女子。微笑んだりすることはあっても、それはどこか作り物のような気がしていた。
 だが、今目の前にあるのは、正真正銘……猫屋敷 星音の、ありのままの表情だと断言できる。

「……あっ、ご、ごめんなさいっ」

 しばらくシロを見つめ、ようやく落ち着いたのだろう……自分が、奏の手に触れていたことに気づき、慌てて離れる。
 どうやら、意図的に触れたわけではないらしい。

 シロに触れているつもりで誤って、奏の手に触れたのだろう。
 そんなことあるかと思うが、自身の飼い猫が無事だった現場に遭遇すれば、なくもないのかもしれない。

「い、いや……
 ぶ、無事で良かったよ」

「立宮くんが、見つけてくれたの?」

「俺が見つけたというか、この子が俺を見つけたというか……」

 シロを星音に渡しつつ、奏は答える。
 見つけた、というのはなんだか大げさだ。実際には、雨宿りしていたところにシロが寄ってきただけなのだから。

 優しい手つきでシロを抱き上げ、優しい手つきでシロの頭を撫でる星音。
 シロも安心しているのか、のんきにあくびなんかしている。

 要領を得ない奏の答えに、星音はくすっと笑った。

「ふふ、変なの」

「ぁ……」

 その姿に、そして口調に、奏は驚いたものを見たような表情を浮かべた。
 猫屋敷 星音といえば、教室では誰に対しても敬語だ。その様子からも、物腰丁寧なお嬢様という印象があった。

 そんな彼女が、タメ口で笑っている。それはなんとも新鮮な姿だった。

「え、と……猫屋敷さんって、俺のこと知ってたんだ」

「? 当たり前です、同じクラスなんですから」

「それはそうなんだけど」

 彼女の口調が、敬語に戻ってしまった。もしかしたら、シロを探し当てた安堵で口調が砕けていたのかもしれない。
 少しだけ残念に思いつつも、奏は言葉を続けた。

「ほら、猫屋敷さんって人気者でしょ? だから俺みたいなやつのことなんて、眼中にないのかと……」

「……私、そんなに薄情な人間に見えますか?」

 奏の言葉に、ムッとしたのか頬をふくらませる星音。
 彼女を怒らせてしまったかと、奏は慌てた。

「! い、いや、違くて! そんな、変な意味じゃないというか……!」

「……ふふっ、冗談です」

 身振り手振りで誤解を解こうとする奏。しかし、星音はそれより先に笑い出した。
 くすくすと笑う彼女は、やはり教室での印象とは程遠い。けれど、こっちのほうがいいな、と思った。

 そんなこと、口が裂けても言えないけれど。

「知ってますよ、ちゃんと。そして覚えました。
 猫好きの、立宮くん」

 少し、いたずらっぽく笑う星音の姿に、奏の胸が高鳴る。

「え……ね、猫好きって……そんな、言ったことない、よな? それとも、新太との会話を聞かれてたとか……?」

「いえ、見ていればわかります。先ほど、シロを抱き上げているとき、私にシロを返してくれるとき……その仕草で、わかります」

 奏が猫好きだというのは、新太にしか話していない。まあ自分から話す相手が新太しかいないだけで、別に隠しているわけではないが。
 だから猫好きを、星音が知っているのが疑問だったが……合点がいった。

 奏の、シロに対する動作の一つ一つを見て……そう、確信したのだ。

「それ、だけで?」

「ふふ、私の目を見くびってもらったら困ります。立宮くんが猫好きだというのは、すぐにわかりましたよ。
 そして……猫好きに、悪い人はいません」

 あっけに取られる奏の前で、星音は言った。僅かなほほえみを携えて。
 そんな彼女の背後……先ほどまで降りしきっていた雨が止み、空が晴れていくのが見えた。

 それはまるで、彼女に後光がさしているようでもあった。
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