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第五章 海に行こう
第183話 さらば海
しおりを挟む「ご心配を、おかけしました!」
達志に連れられみんなが待つ場所に戻ってきたリミは、まず一番にみんなに謝罪として頭を下げた。
それに対して猛やさよなは笑いながら無事でよかったと言ってくれたが、その分セニリアとみなえからはきつい説教があった。
元々リミの保護者的存在であるセニリアはともかくとして、みなえにとってもリミはもはや娘のようなものだ。
セニリアほど表面的に心配していなかっただけで、実はものすごく心配していたのだ。
もしもあと少し戻るのが遅かったら、警察に連絡していたところだ。
一人でどこかに行ってしまい、危ない目に遭ったらどうするのだと、リミは砂浜の上で正座させられていた。
「お叱りはあの二人からで充分だろ」
とは猛の言葉。猛も言いたいことがないわけではなかったが、確かにあの二人にあれだけ絞られれば、リミも反省しただろう。
リミがいなくなった一端は達志や由香にもあるので、次に怒られる可能性があり後が怖いのだが。
ちなみに、一人置いてきてしまった由香はというと……
「リミちゃーん! 心配したよー!」
先ほど戻ってきて、リミがいなくなった報告を受けて居ても立っても居られなかったらしい。一人飛び出そうとしていたところを、さよなたちが止めていた。
そして今リミの無事を知り、彼女を滅茶苦茶抱きしめている。
なにはともあれ、これで一件落着……のはずだったが……
「……お、お疲れ、たっくん……」
「お、おう……」
達志と由香の間に流れる、なんともいえない微妙な空気だけは、変わらず流れていて。
それに、果たして何人が気付いているのだろうか。
「じゃアタシら、戻るんで!」
「あぁ、助かったよ」
「ではまた、先輩」
シェルリアとはーちゃんは、リミが無事見つかり戻ってきたのを見届けてから、自分たちの荷物が置いてある場所へと戻っていった。
あの二人……特にはーちゃんには、リミを探してもらう過程で大きく世話になった。
今度なにかお礼をしようと誓う達志だった。
ギャルの好きそうなものってなんだろう。
「じゃ、そろそろ帰りますか」
気づけば、もう日が沈んでいる。リミが戻ってきてからも少し遊んでいたのだが、それももう終わりらしい。
楽しい時間というのは、早いものだ。
帰る準備をしていく最中も、達志と由香の様子はどこかよそよそしく……それに気づいている猛やさよなも、どう声をかけていいのかわからない。
なにかあったことはわかっても、さすがになにがあったかまでは聞けない。
実際にあの現場を見てしまったリミは、なおさらに話しかけることができない。
気持ちが腫れたとはいえ、それとこれとはまた別問題なのだ。
「……」
「……」
結果、帰ってきてから達志、由香、リミの三人は、互いにあまり話さなかった。
なにがあったかは当人しか知らないものなので、他の人もなにが起きていたかはわからない。
そそくさと荷物を片付け、纏めてから車へと戻っていく。
その最中、リミが足を止めて海に振り向いているのが、達志はわかった。
「リミ、みんな行っちゃうぞ」
「はい。
……あの、タツシ様。私がこんなこと言うのもおかしな話ですけれど、今日、とても楽しかったです」
「……うん、そうだな」
「また、みんなで来たいですね。海に」
「……あぁ、そうだな」
海を眺めたままのリミの言葉に、達志は笑って答えた。
来年みんながどうなっているかは、わからない。達志たちは学生でも、猛たちにはそれぞれの生活が、仕事がある。
今日のように、みんなの予定が合わせられるのか……それは、誰にもわからない。
「きっと、またみんなで来られるさ」
少しの名残惜しさを感じつつも、海を去る。いろんなことがあったため、みな心身疲れきっている。
帰りの車の中では、結局運転しているみなえと助手席に座っているセニリア以外、全員が眠ってしまっていた。
「ああもう、こんなだらしない……」
「ふふ、まるでリミちゃんのお母さんね」
よだれを垂らして眠るリミをいちいち気にするセニリアを見て、みなえは軽く微笑む。
みなえは、この中の誰よりも表面的にははしゃいではいなかったが……きっとこの中の誰よりも、一番嬉しかったのだ。
またこうして、息子と海に来ることが……遊びに来ることができて。
十年前のあの日……意識不明となり、いつ目を覚ますかわからない状況に陥った息子の姿に、どれほど絶望したか。その気持ちは、本人にしかわからない。
由香、猛、さよなだってそうだ。幼なじみを、急に失って……その時なにを思っていたのか。母親とは別の、深い悲しみがあったに違いない。
リミだって、自分を助けてくれた人物が、自分の代わりに事故にあって眠ってしまったのだ。まだ幼いながらも、彼女はいつもお見舞いに来ていた。
セニリアだって、リミの護衛兼保護者として同じ気持ちだ。
誰もが、達志が戻ってきて、一緒に遊びに来られてよかったと、思っている。もう何度、最悪の想像をしたかわからない。
それでも、信じて待ち続けてよかった。みなえだけではない、みんながそう思っている。
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