181 / 184
第五章 海に行こう
第180話 人捜しの魔法
しおりを挟む「おーい! リミー!」
いなくなったリミを探し、達志は走り回しながら大声を張り上げる。
だがそれも、賑やかな浜辺では意味なく消えていく。海では開放的な人々が多く、それによって周りの声も大きくなるのだ。
なにより、こんな開けた場所で大声を上げたところで、たかが知れている。
だから、残念なことに達志の声は、彼方に消えていく。
「くっそー、これじゃあ見つけようがないな……」
今は夏休み中で、親子連れやカップルなどたくさんの人が歩き回っている。
そこから、ただ一人の人間を見つけるなど困難な話だ。
連絡手段も今持っていないし、これはちょっと困った事態になった。
「いくらなんでも、一人でほいほい知らないとこに行かないと思うが……いやでもなぁ……」
達志と由香の、確実に誤解を招く状況。
見られた状況が状況だけに、いくら普段冷静なリミでもどんな行動をとるのか予測不能だ。普段なら、みんなの所に戻っているんだろうが……
それとも、その可能性に賭けて一旦みんなの所に戻るか……
考えて、やめる。
「ん……」
だってリミが戻ってなかった場合、なんて説明する。
まさか由香と誤解されたので誤解を解くために探している、なんて言えないだろう。からかわれるのがオチだ。
とはいえ四の五の言っている場合でもない。もしも見つからない時間が長くなる可能性があれば、それはみんなで捜索するしかないわけだが……
だがやはり、一人くらいは散策人数を増やさないと。いくらなんでも達志一人では。
「由香を置いてきたのは失敗だったか? ったく、どこ行ったんだか……」
「誰がです? 捜し人なら手伝いますよ?」
「え、いいんですか? 実は一緒に海に来た女の子が迷子になったみたいで…………って!?」
一人でも多く人手が欲しい時に、嬉しい申し出だ。
こんなご時世だがいい人もいるもんだなと。その申し出をありがたく受けようと、声の主を確認すると……そこにいたのは、先ほど別れたはずのシェルリアとはーちゃんだった。
なんと、この広い砂浜でまた会うとは。この運を、是非ともリミと会うために使わせてほしいものだ。
「どもどもー、セーンパイ! アタシら縁があるねぇ」
「あははー、そうだな」
どうにもこのギャルは苦手だ。驚くくらいにぐいぐい来る。
なぜこんな派手な子と、(一部を除いて)大人しめのシェルリアが仲良しなのだろう。
それとも、正反対だからこそ波長が合うというやつだろうか。
「それで先輩、誰が迷子になったんですか? もしかしてリミ先輩ですか?」
それでもって、疑うことを知らないシェルリアが再度問いかけてくる。
先ほどリミと一緒にいるところを見られたのだ、いくら海に来た時には一緒じゃなかったと話したとはいえ、捜し人がリミであると思うのは当然だろう。
迷子というには正確には違うが……いや、やはり迷子か?
なんにせよ、さっき自分から言ったことだし訂正するのも面倒なので、そのままにしておいた。
「まあ、そうだな」
「大変じゃないですか、こんな広い海ではぐれただなんて! 捜すの手伝いますよ、ね、はーちゃん!」
「へ? あぁ、まあ面白そうだし手伝うよ」
完全善意なシェルリアと、面白半分なはーちゃん。本当に任せて大丈夫だろうか、特にはーちゃん。
「じゃあさー。センパイ、リミセンパイの体の一部とか持ってない? もしくは身に付けてたものでもいいんだけど」
「持ってるか!」
「えー、マジで? 髪の毛一本でも全然いいんだけど」
「持っててたまるか!」
今からリミを探そうという時に、いったいなにを言っているのだこのギャルは。
真剣な顔してなにを言っているのだ。いやマジで。
「なぁんだ使えないセンパイだなあ」
「なにぃ?」
「はーちゃん! えっと、すみません先輩。でも、ふざけてるわけじゃないんです。
はーちゃんは、体の一部でも身につけていたものでも、その人のものだとわかるものがあれば……その人のことを捜すことができるんです!」
つい怒りそうな達志を止めるために、シェルリアが間に入る。
どうやら、達志をからかっていたわけではないらしいというのは、彼女の真剣な瞳からわかるが……
それにしても、その人とわかるものがあればって……犬か?
「ちょっとセンパイ-、今失礼なこと考えたっしょ。犬とか」
「心を読まないでください」
「しっつれいだねえ。でも、センパイの犬にならなってもいいかもわん!」
……しばしの、沈黙。
「………………で、リミを捜すことができるっていうのは?」
「あー、無視しないでよもう!」
プンプン、と頬を膨らませるはーちゃんを、達志は華麗にスルー。この子のあしらい方は、だんだんわかってきた気がするのであった。
「ふふん、けどこれを聞いたら驚くこと間違いなしだよ?」
「ほぉ」
「私はねえ、魔法がつかえるんだけど、その内容はなんと! 人捜し!」
「ほぉ?」
「つまり、誰か捜している人がいるとする。そんな時、その人の体の一部、身につけていたもの……それらがあれば、私に掛かれば捜し人の居場所が一発でわかるってわけ! 人呼んで、捜索魔法!」
「おぉ!」
はーちゃんの使える魔法、それは達志の初めて聞くものであった。
0
お気に入りに追加
298
あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

異世界でネットショッピングをして商いをしました。
ss
ファンタジー
異世界に飛ばされた主人公、アキラが使えたスキルは「ネットショッピング」だった。
それは、地球の物を買えるというスキルだった。アキラはこれを駆使して異世界で荒稼ぎする。
これはそんなアキラの爽快で時には苦難ありの異世界生活の一端である。(ハーレムはないよ)
よければお気に入り、感想よろしくお願いしますm(_ _)m
hotランキング23位(18日11時時点)
本当にありがとうございます
誤字指摘などありがとうございます!スキルの「作者の権限」で直していこうと思いますが、発動条件がたくさんあるので直すのに時間がかかりますので気長にお待ちください。
『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!(改訂版)
IXA
ファンタジー
凡そ三十年前、この世界は一変した。
世界各地に次々と現れた天を突く蒼の塔、それとほぼ同時期に発見されたのが、『ダンジョン』と呼ばれる奇妙な空間だ。
不気味で異質、しかしながらダンジョン内で手に入る資源は欲望を刺激し、ダンジョン内で戦い続ける『探索者』と呼ばれる職業すら生まれた。そしていつしか人類は拒否感を拭いきれずも、ダンジョンに依存する生活へ移行していく。
そんなある日、ちっぽけな少女が探索者協会の扉を叩いた。
諸事情により金欠な彼女が探索者となった時、世界の流れは大きく変わっていくこととなる……
人との出会い、無数に折り重なる悪意、そして隠された真実と絶望。
夢見る少女の戦いの果て、ちっぽけな彼女は一体何を選ぶ?
絶望に、立ち向かえ。

転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す
エルリア
ファンタジー
【祝!第17回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞!】
転売屋(テンバイヤー)が異世界に飛ばされたらチートスキルを手にしていた!
元の世界では疎まれていても、こっちの世界なら問題なし。
相場スキルを駆使して目指せ夢のマイショップ!
ふとしたことで異世界に飛ばされた中年が、青年となってお金儲けに走ります。
お金は全てを解決する、それはどの世界においても同じ事。
金金金の主人公が、授かった相場スキルで私利私欲の為に稼ぎまくります。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

スキルガチャで異世界を冒険しよう
つちねこ
ファンタジー
異世界に召喚されて手に入れたスキルは「ガチャ」だった。
それはガチャガチャを回すことで様々な魔道具やスキルが入手できる優れものスキル。
しかしながら、お城で披露した際にただのポーション精製スキルと勘違いされてしまう。
お偉いさん方による検討の結果、監視の目はつくもののあっさりと追放されてしまう事態に……。
そんな世知辛い異世界でのスタートからもめげることなく頑張る主人公ニール(銭形にぎる)。
少しずつ信頼できる仲間や知り合いが増え、何とか生活の基盤を作れるようになっていく。そんなニールにスキル「ガチャ」は少しづつ奇跡を起こしはじめる。

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

家の猫がポーションとってきた。
熊ごろう
ファンタジー
テーブルに置かれた小さな瓶、それにソファーでくつろぐ飼い猫のクロ。それらを前にして俺は頭を抱えていた。
ある日どこからかクロが咥えて持ってきた瓶……その正体がポーションだったのだ。
瓶の処理はさておいて、俺は瓶の出所を探るため出掛けたクロの跡を追うが……ついた先は自宅の庭にある納屋だった。 やったね、自宅のお庭にダンジョン出来たよ!? どういうことなの。
始めはクロと一緒にダラダラとダンジョンに潜っていた俺だが、ある事を切っ掛けに本気でダンジョンの攻略を決意することに……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる