目覚めた世界は異世界化? ~目が覚めたら十年後でした~

白い彗星

文字の大きさ
上 下
177 / 184
第五章 海に行こう

第176話 子供の作り方

しおりを挟む


 三人からあらぬ誤解を受け、珍しく猛が狼狽えている。これはこれで貴重な体験であるが、そろそろ本人の意見も聞いた方がいいだろうと達志は判断する。
 確かに猛はモテるが、だからといってそんな無責任なことはしない。

 はずだ。さよなやセニリアの反応を見ても、何か事情がありそうなのは間違いない。

「じゃあからかうのはこれくらいにして……猛、そりゃどこの子だ?」

「え? 猛くんの子じゃないの?」

「え? タケル様の子じゃないんですか?」

「……」

 赤ちゃんを本当に猛の子だと思っていたらしき由香とリミは、訳が分かっていないらしい。この二人、似た者同士である。

「もし猛の子なら、ここに来る時点で一緒じゃないのはおかしいだろ。そもそも、猛のことだから結婚したとか子供がいるって報告は真っ先にするだろうさ。
 俺はともかく、由香まで知らないってのはおかしいしな」

「はっ、なるほど」

 ようやく合点のいった由香は、小さくうなずく。とはいえ、見た瞬間あまりの衝撃に息が止まりそうになったのは達志もだ。
 本当に、猛とさよなかセニリアの子でないかと疑った。

 ぶっちゃけた話、この十年の期間があれば猛とさよながとっくにくっついていてもおかしくはなかったのだが……それはそれとして、今は置いておこう。

「で、この子は?」

「あぁ……同僚の子だよ。さっきたまたま会ってな……少しの間だけ預かっといてくれって言われたんだよ」

「ふーん」

「露骨につまんなそうだなお前!」

 赤ちゃんの正体は、同僚の子という……特に面白みのない、ものであった。

「わぁ、赤ちゃんだよ赤ちゃん」

「か、かわいいですね」

 猛の疑いが晴れた途端、リミと由香は赤ちゃんの傍へと移動する。
 あまり人見知りしない子なのか、これだけ大勢に囲まれてもおとなしくしている。

「あー」

「ん、私? ね、ねえ、抱いていいのかな?」

「まあ自由にしていいって言ってたしな。けど丁重に扱えよー?」

「合点!」

 赤ちゃんが手を伸ばす先には、由香が。その仕草に母性本能をくすぐられたのか、瞳を輝かせながら猛に問う。
 あまりのかわいさにハァハァ言ってるし、下手をしたら通報ものだ。

 猛のお許しも出たので、恐る恐る由香は赤ちゃんを抱っこする。腫れ物を触るように、そっと……腕の中に人間一人が、すっぽりと収まる。

「ふわぁ……」

 直に赤ちゃんを抱いた由香の顔は、めちゃくちゃ緩み切っていた。それも、無理のないことではあるが。
 由香は子供が好きだから教師になったのだ。赤ちゃんを目の前にしたら平静を保ってはいられないだろう。赤ちゃんも、どうやら喜んでいるようだし。

 そうやって、赤ちゃんを抱く由香は……当然水着姿だ。それを見る達志と猛は、互いに同じようなことを考えていた。

「なあ達志……」

「あぁわかってる……なんか人妻みたいで、えろいな」

 頭の中がピンクな二人。そんな二人を見て、さよなは小さくため息を吐いて一言。

「男って、バカだなぁ」

 由香が赤ん坊をあやし、男二人がバカなことを考えていた頃。
 それを見守るリミはというと……

(赤ちゃん……子供かぁ……)

 赤ちゃんについてを考えていた。赤ちゃんについてといっても、そこまで難しいことではない。それはつまり、誰もが通る道であろう。
 ……『赤ちゃんって、どうやってできるのだろう』と。

 無論リミは高校生……高校生ともなれば、その手の知識は知っていてもなんら不思議ではない。だがリミは、その手の知識を、欠片ほども知らないのだ。
 なにせ、子供の作り方どころか恋心すら理解していないリミだ。
 お姫様であるが故に、その手の色恋沙汰問題からは充分慎重に触れられてきた。

 つまりは、めちゃくちゃ箱入りなのだ。

(コウノトリが運んできたのかしら……)

 なのでリミが知っている知識といえば、この程度。ずいぶん昔からあるおとぎ話のような言い伝え。コウノトリが赤ちゃんを連れてくる。
 しかしそんなものが言い伝えというか真実の知識ではないというのは、リミも薄々気がついている。
 魔法の発展したこの世界で、そんな昔話を信じられるものか。

 よって、リミに今子供がどうやってできるかの知識はなく……考えているうちに……

「子供って、どうやってできるんだろう」

 と、口に出してしまうのはもはや必然であった。

 呟く程度の小さな声だったはずだ。しかし、それはどうやらこの場にいる全員に聞こえてしまったらしい。
 振り向き、顔を赤くする者、または青ざめる者……と、反応は様々だが……これがみんな驚愕している反応なのは、リミにもわかる。

「あ、あの皆さん……?」

「姫! どうしたんですかいきなり! タツシ殿に何かされましたか!?」

「おい」

 いの一番に反応したのは、セニリアだ。リミの肩を掴み、ものすごい形相を浮かべている。揺さぶるその姿は軽くホラーだ。

「い、いやそうじゃなくて……赤ちゃんって、かわいいなって。そう、思って……」

 それが真実なのだから、こう答えるしかない。もっとも、それでセニリアが納得したかは微妙なところだが。
 とりあえずセニリアから解放され、ほっと一息。

 それから、改めてみんなの顔を見回して……ただただ、困惑だ。なぜこうも慌てているのかが。

「えっと……私、まずいこと聞きました?」

「まずいっていうか……ここでその質問が来ること自体予想外だったから。ところで、ホントに知らないの?」

「はい」

 なんて純粋な瞳で答えるのだろうか。これを見ては、とてもリミが嘘をついているとは思えない。
 とはいえ、高校生でその知識量は果たして大丈夫なのだろうか。

 かといって、ここで真実を話すというのも気が引ける。

「おい由香……学校でそういうこと教えてないのかよ」

「私保健担当じゃないもんー」

 目をばってんにして答える由香を見ながら、達志は思い返す。確かあの学校の保健教師は……パイア・ヴァンという名のヴァンパイアだったはずだ。
 保健教師且つヴァンパイアなのに血が苦手という、ある意味ヤバい人物だ。

 ヒャッハーが学校テロを起こした時に、達志含め怪我してもらった人は治療してもらっていたはずだ。
 あの人物が、子供の作り方をレクチャー……ダメだ、想像できない。

「ええと、リミちゃん? そういうことは、人前で聞くことじゃあないんだよ?」

 と、赤ちゃんを抱えた由香は先生らしく、どっしり構えて注意をする。

「じゃあ由香さんは知ってるんですね? 教えてください!」

「ふぇっ?」

 思わぬカウンターに、動揺して由香は赤ちゃんを落としそうになる。が、すんでのところで踏ん張りそれを防止。

 その顔は、予想以上に赤かった。
しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

異世界でネットショッピングをして商いをしました。

ss
ファンタジー
異世界に飛ばされた主人公、アキラが使えたスキルは「ネットショッピング」だった。 それは、地球の物を買えるというスキルだった。アキラはこれを駆使して異世界で荒稼ぎする。 これはそんなアキラの爽快で時には苦難ありの異世界生活の一端である。(ハーレムはないよ) よければお気に入り、感想よろしくお願いしますm(_ _)m hotランキング23位(18日11時時点) 本当にありがとうございます 誤字指摘などありがとうございます!スキルの「作者の権限」で直していこうと思いますが、発動条件がたくさんあるので直すのに時間がかかりますので気長にお待ちください。

『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!(改訂版)

IXA
ファンタジー
凡そ三十年前、この世界は一変した。 世界各地に次々と現れた天を突く蒼の塔、それとほぼ同時期に発見されたのが、『ダンジョン』と呼ばれる奇妙な空間だ。 不気味で異質、しかしながらダンジョン内で手に入る資源は欲望を刺激し、ダンジョン内で戦い続ける『探索者』と呼ばれる職業すら生まれた。そしていつしか人類は拒否感を拭いきれずも、ダンジョンに依存する生活へ移行していく。 そんなある日、ちっぽけな少女が探索者協会の扉を叩いた。 諸事情により金欠な彼女が探索者となった時、世界の流れは大きく変わっていくこととなる…… 人との出会い、無数に折り重なる悪意、そして隠された真実と絶望。 夢見る少女の戦いの果て、ちっぽけな彼女は一体何を選ぶ? 絶望に、立ち向かえ。

転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す

エルリア
ファンタジー
【祝!第17回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞!】 転売屋(テンバイヤー)が異世界に飛ばされたらチートスキルを手にしていた! 元の世界では疎まれていても、こっちの世界なら問題なし。 相場スキルを駆使して目指せ夢のマイショップ! ふとしたことで異世界に飛ばされた中年が、青年となってお金儲けに走ります。 お金は全てを解決する、それはどの世界においても同じ事。 金金金の主人公が、授かった相場スキルで私利私欲の為に稼ぎまくります。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

スキルガチャで異世界を冒険しよう

つちねこ
ファンタジー
異世界に召喚されて手に入れたスキルは「ガチャ」だった。 それはガチャガチャを回すことで様々な魔道具やスキルが入手できる優れものスキル。 しかしながら、お城で披露した際にただのポーション精製スキルと勘違いされてしまう。 お偉いさん方による検討の結果、監視の目はつくもののあっさりと追放されてしまう事態に……。 そんな世知辛い異世界でのスタートからもめげることなく頑張る主人公ニール(銭形にぎる)。 少しずつ信頼できる仲間や知り合いが増え、何とか生活の基盤を作れるようになっていく。そんなニールにスキル「ガチャ」は少しづつ奇跡を起こしはじめる。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

家の猫がポーションとってきた。

熊ごろう
ファンタジー
テーブルに置かれた小さな瓶、それにソファーでくつろぐ飼い猫のクロ。それらを前にして俺は頭を抱えていた。 ある日どこからかクロが咥えて持ってきた瓶……その正体がポーションだったのだ。 瓶の処理はさておいて、俺は瓶の出所を探るため出掛けたクロの跡を追うが……ついた先は自宅の庭にある納屋だった。 やったね、自宅のお庭にダンジョン出来たよ!? どういうことなの。 始めはクロと一緒にダラダラとダンジョンに潜っていた俺だが、ある事を切っ掛けに本気でダンジョンの攻略を決意することに……。

ペット(老猫)と異世界転生

童貞騎士
ファンタジー
老いた飼猫と暮らす独りの会社員が神の手違いで…なんて事はなく災害に巻き込まれてこの世を去る。そして天界で神様と会い、世知辛い神様事情を聞かされて、なんとなく飼猫と共に異世界転生。使命もなく、ノルマの無い異世界転生に平凡を望む彼はほのぼののんびりと異世界を飼猫と共に楽しんでいく。なお、ペットの猫が龍とタメ張れる程のバケモノになっていることは知らない模様。

処理中です...