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第五章 海に行こう
第163話 悩殺わがままボディ
しおりを挟むともかくとして、だ。
「と、とりあえずその水着はダメ。ダメダメ」
「あ、うん……ちょ、ちょっと露出が多くて恥ずかしいから、助かるよ」
さよなの言葉に、愛は恥ずかしそうにしながらうなずく。
しかしそれは、おそらくさよなの危惧しているそれとは違う。
違う、そういうレベルの話ではない。露出も多いが、とりあえず胸だ。そのメロンが、激しくダメだ。
学生の頃から大きくはあったが、いったいなにを食べたらそんなだらしない体になるというのか。
もしや頭に行く栄養が全部胸に行っているのではないか? だから由香は少しお馬鹿だったんじゃないか?
これには一理ある……なぜなら、さよなは昔から由香より頭がよかったから!
そうだ、そうに違いない。これは決して、ひがみとか妬みとかそんなしょうもない理由でけなしているわけではない。
純然たる事実としてあるものを、述べただけだ。絶対に、嫉妬なんて小さな感情に振り回されているわけではない。
「しかし、これは見誤ったわ……まさか由香のバストサイズがこれほどなんて……」
「さ、さよなちゃん?」
自らの目論見が甘かったことを、さよなは知る。これでは、今持ってきたものはすべてサイズが合わないかもしれない。
……まあそれならそれで、いい。
知りたいのはあくまでデザインだ。どれが由香に合っているか、それさえわかればあとはサイズを変更すればいいだけ。
ひとまず、さよなが持ってきたものが無駄になる、なんてことはなさそうだ。
なので、気持ちを落ち着けて一つ咳払い。
「こほん。……よし、由香ちゃん。それ全部、一通り着てみようか!」
「えぇっ、全部っ? これちょっとサイズが小さいと思うんだけど……」
「ぐっ……!」
サイズが小さいことは、着ている由香自身が一番よくわかっている。自ら、ビキニの紐を引っ張ったり布地を撫で付けている。
それだけでも揺れる揺れる。
「と、とにかく、言うとおりにする!」
由香は意図せず、さよなにダメージを与え……それを受けたさよなは、まるで自分にはないものを見せつけられているように感じ、歯を強く噛んでしまう。
せめてもの抵抗か……サイズが小さくて着づらいとしても、それらをすべて着るように、指示する。
その程度のささやかな抵抗しか、できなかった。
その後も、着ては脱ぎ着ては脱ぎを繰り返す。
どれもこれもさすがはさよなが選んだ水着、よく似合っていたが……水着が素材を、より際立たせている。
最終的に、「由香やべー」という結論しか出なくなったが。
それから、時間はあっという間に過ぎていく……
由香の水着選び。それは大変充実した時間で、さよなにとってとても満ち足りたものであった。それは逆に、由香自身着せ替え人形も同様の時間でもあった。
デパートからの帰り道……満足げな表情を浮かべるさよなと、疲れきった表情を浮かべる由香。
同じ時間を過ごしたはずの二人は、まったく正反対の表情を浮かべていた。
「はぁっ……今日はここ最近で、一番有意義な時間だったよ!」
「はぁっ……今日はここ最近で、一番疲れた時間だったよ……」
すれ違えば振り返るほどの美女が、片や幸せ絶頂、片や不幸せ絶頂の表情を浮かべているのだ。
その対極な様子に、道行く人はただただ首をかしげるばかり。
二人がそれぞれ別の感情を抱いている。その、理由は……
「由香ちゃんの水着着せ替え……楽しかったぁ……!」
もう着せ替えと断言してしまうほどに、由香に水着を着せていく行為は楽しかった。
由香という、素晴らしい逸材に好きに水着を着せられるのだ、こんなに幸せなことはない。
デカメロンに対する嫉妬も、吹き飛んでしまうほどの……いや、吹き飛んではいないか。
逆に、見事に着せ替え人形にされた由香の疲労……というより心労は想像する以上のものであったが。
「さよなちゃん……私はどっと疲れたよ」
さよなやルーア、さらにはルーアと同居しているというクマのベアくんの前で、何度となく水着を着ては脱ぎ着ては脱ぎを繰り返して……
先ほどもさよなが言ったが、まさしく着せ替え人形だ。
由香も、始めこそノリノリ……というかノせられていたが、途中からは言われるがままだ。
着せられていくままに従うしかない。
結果、何着かかわいい水着を着ることはでき、その中で一番いいと選んでくれた水着は決まったものの……代償に、由香は大きく疲れていた。
しかも……だ。由香の水着を選んでいるうちに、さよなは自分の水着を選んでしまったのだ。
つまり、さよながどんな水着を選んだのか、由香は見ることができなかったということだ。
「ずるいよ、私ばっかり……」
「ごめんごめん。けど、自分のは自分自身でわかってるからさ。由香ちゃんに、かわいいの着てほしかったの」
確かにデザイナーであるさよななら、誰に選んでもらうより自分で選んだ方が確実だろう。
それに、由香自身にそこまでのセンスはない。
故に、そのこと自体に不満はないが……
「ちゃんと海に行った時まで、私のはお預け!」
由香はたくさん見られたのに、さよなのは全然見ることができてない。それが一番の不満である。
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