目覚めた世界は異世界化? ~目が覚めたら十年後でした~

白い彗星

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第五章 海に行こう

第161話 クマさんと海に

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 海へ行くため、水着を買いに来た由香。
 なんの運命の悪戯か、その場で幼なじみのさよなと会ってしまい。またなんの因果か、由香の水着を二人で選ぶことになってしまった。

 散々悩んだ挙げ句、いざ自分の水着を選ぼうと意気込んでいた由香のところへ……

「おや、ユカ先生じゃないですか」

 聞き覚えのある……というか、ほぼ毎日聞いている声が耳に届いた。
 まさか、そんなはずはない……

 その考えと同時に、教師である自分が海へ行こうと考えているだから学生である彼女が同じ事を考えていても、全く不思議ではないと、思い浮かぶ。

 つまり、彼女も海に行くため、水着を選びにここに来た……そう考えれば、納得がいく。
 ここは近隣で一番大きなデパート、ならばなおさらだ。

 声の主の当たりをつけ、ゆっくり首を回す。
 ……そこには予想していた通り、自分が副担任を担当するクラスの生徒、黒髪眼帯のロリっ子少女であるルーア・カラナの姿があった。
 そして……

「る、ルーアちゃん……」

「ガウ!」

「とクマァアアアア!?」

 彼女の隣に立つクマに、動揺が隠せない。
 クマである、クマ。

 異世界よりこっちの世界に引っ越してきた住人たち……
 その中には人族はもちろん、リミのような獣人、ルーアのようなサキュバス、さらにヘラクレスのようなスライムと多様な種族がいる。

 種族によっては、リミとは違ったタイプの顔面が獣寄りの獣人だっている。
 だから、それを考えればそんなに驚くことでもないのだが……

「る、ルーアちゃん! そ、そ、その、隣の……!」

「およ? あぁ、ベアくんですか。なんですか、先生もベアくんのもふもふをもふりたいんですか? しょうがないなぁ」

「そういうことじゃない!」

 この世界には、様々な種族がいる。だが、こんな……純粋な獣は初めて見た。
 獣人とはもちろん、魔物ともまた違う。

 普通に、クマだ。

「ほらベアくん、こちらが私のクラスの副担任、ユカ先生です。ユカ先生、こちらベアくんです」

「ガウガウ!」

 しかもさっきからガウガウしか言わない。
 少なくとも、人語を話さないのだ……ルーアたちとはまた別の世界から来たんじゃないだろうか。

 そんなことさえ思ってしまう。

「ところで先生。先生も水着を買いに?」

「……あっ。い、いやぁ私はぁ……」

 純粋なクマの登場に呆気にとられていたせいか、今ここが水着売り場であることを、一瞬忘れていた。
 とっさのことに言葉に詰まるが、そもそも水着を買いに来たのでなければここにはいないのだ。

 なので、観念して正直に話すしかない……のだが。事態は由香を落ち着かせてはくれない。

「あれ、由香ちゃんその子は……とクマ!?」

 由香の水着を選びに行っていたさよなが、戻ってきたのだ。手にはすでに、何着かの水着がある。
 水色に白に黒……実に賑やかだ。帰りたくなってきた。

 さよなはさよなで、由香と一緒にいる女子……の隣にいるクマに面食らっている。

「さよなちゃん。えっと……この子は、私が副担任してるクラスの生徒、ルーアちゃん。
 たっ……勇界くんやリミちゃんとは、友達なの」

「へー。かわいらしい子だね、よろしく」

「ルーアちゃん、この人は私の幼なじみのさよなちゃん」

「おぉ、大人な雰囲気……よ、よろしくお願いします」

 お互いに初対面の、二人。
 それはそうだ、リミとさよなが知り合いなのは、あくまで間に達志という共通の友達がいるから。
 学校に復帰してから達志と知り合ったルーアと、さよなの間に接点はない。

 なので、初対面で初々しく、二人は挨拶している。
 さよななんか、先ほどの変なテンションが嘘なくらいに大人しくなってしまった。

 学生相手とはいえ、初対面の相手では人見知りを発動してしまうということだろう。
 コミュニケーションお化け(達志談)の由香としては、難儀な性格である。

「で、こっちのクマさんが……」

「ベアくんです!」

「ガウ!」

 まあ、クマ相手になら人見知りを発動する自信はあるが。
 人見知りでいいのだろうかそれは。

 なぜ、本物のクマが……? しかも『くん』と言うにはオスだろう。
 オスが、水着売り場にいるのかはわからない。うん、わからない。

「えっと、ルーアちゃん、でいいかな。あなたも、ここへ水着を買いに?」

「えぇ! 夏休みにベアくんと海に行くんですが、そのための水着を……」

「だったら私が選んでいいかなぁ!?」

「ほぁ!?」

 どうやらルーアは、この謎のクマ(ベアくん)と共に、海に行くつもりのようだ。
 このクマとどんな関係なんだとか、どこで会ったのとか、そもそもそれ本名なのかとか、いろいろ聞きたいことはあったが、やめた。

 選ばれた数々の水着、これを今から着るのかという現実、そこへ現れた生徒、謎のクマ……
 ツッコミ所がありすぎて、すでに由香の脳内は限界だ。

「えぇっと……あ、ほら! まずはユカ先生の水着を審査をしないと!」

「それもそうね」

「くっ……って、まさかルーアちゃんまで一緒にいるの!?」

 このままルーアの水着を選ぶのならば、恥ずかしさを軽減できるかもしれない……
 そんなことを考えていたのだが、その目論みは無駄に終わる。

 それどころか、ルーア自らの進言により、由香の水着審査の時間が一気に早まってしまった。
 しかも、まるでルーアもこの場に立ち会うような言い方だ。

「だってユカ先生ほどのドエロボディ、堪能しないほうが失礼ってもんでしょうよ」

「ドエロボディ!? なんて言葉を使ってるの! 私のことそんな風に見てたの!?」

 教え子から、まさかそんな風に見られていたとは……いかに女生徒とはいえ、恥ずかしい。
 己の体を、抱くようにして隠す。だが、その仕草こそエロいのだということに、本人は気づいていない。

 ちなみに、これこそルーアの口からはとても言えないが……サキュバスの能力を使い、クラスの男の子の夢に入っていたとき。そのほとんどに登場するのが由香なのだ。
 恋愛的な意味で想っているものもあれば、思春期の男の子としての意味もある。

 その様々な用途において、クラスの男の子のほとんどは由香にお世話になっていることだろう。
 さすがのルーアも、絶対由香本人には言えないが。
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