目覚めた世界は異世界化? ~目が覚めたら十年後でした~

白い彗星

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第四章 激動の体育祭!

第157話 終わり良ければすべて良くない……?

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「ま、まあ猛くんはこんな風にバカ笑いしてるけど、気にするなってことだから」

 達志にもわかっていることだが、一応さよなからのフォローが入る。
 そう、これは猛なりの励ましなのだ。多分。

「はぁ。母さんもごめんな、せっかく体育祭見に来てくれたのに、最後の最後でカッコ悪いとこを……」

「いいのよ。お母さん、達志が元気に動いてるってこの目で見れただけで、もう……うっ!」

「あ、うん……なんて言えばいいんだ」

 達志の一番の後悔は、チームメンバーに迷惑をかけたこと……ではない、実は。
 母に、自分の姿を見ほしかったのだ。

 十年もほったらかしにして、迷惑かけて……だから目覚めた今、せめて息子のカッコいい姿を見てもらいたかったのだ。

 それを詫びるが、当の母みなえは……達志が元気に動き回っていた事実に、震えている。
 その目から涙を流し、セニリアから手渡されたハンカチで涙を拭う。そして鼻もかむ。
 達志の失敗など、達志の健康に比べればどうでもいいようだ。

 なんというか、本当に申し訳ない。

「そんなに落ち込むことないと思いますよ。転んだのは確かに事実ですが……それは、それだけ一生懸命だった、ってことじゃないですか」

「うぅ……そう、なのかな」

 笑う猛、それを叩くさよな、涙を流すみなえ、それをなだめるセニリア……そして、達志の隣を歩くリミは、柔らかい物腰で己の考えを告げる。

 転んではしまったが、それは一生懸命に取り組んだ結果だと。
 だから、その結末が自分の望まないものでも、恥じる必要はない。

「自信を持っていいと思いますよ!」

「そ、うか……うん、そうだな」

「はい!」

「あ、ちなみに転けた例のシーン、ちゃんと録画済みだから」

「うぉー!!」

 恥じなくていい、自信を持っていい……リミの言葉により、せっかくいい気分で終わらせることができそうだったのに。
 突然猛から放たれた言葉に再びうなだれる。

 見せつけてくるスマホの画面には、確かに達志が転んだ一連のシーンが録画されていた。

「もー、猛くん!」

「せっかくタツシ様が立ち直ってくれたのに!」

「いやぁ、悪い悪い。けどこれ、ぷふっ……一生いじれるしよ……」

 さよなとリミの二人による抗議も、猛には通じない。
 この男はこういう奴だよ……と達志は半ば諦めるものの、これが猛のフォルダに残ってしまうのかと思うと歯痒くもある。

 いっそリミの手でスマホを凍らせてしまおうか、とも考えるが、さすがにひどすぎるだろう。
 リミも、猛が達志の幼なじみだからかあまり強硬な手段には出ないようだ。

 そんなやり取りに、達志は内心ではほっと一安心もしていた。
 猛は確かにいじってくるが、それも達志を元気付けようとしてのもの。それはそれとして、やはり動画だけは後で消してもらおう。

「絶対消さないけどな。ま、それはともかくとして、明日から頑張らねーとなー」

 まるで心の中を覗かれたかのように、動画を消さないと念押ししてきた。
 同時に、何やら気になる言葉も続いていたので、達志は気にかかった。

「ん、明日から頑張るって……もしかして、今日の休みのために仕事詰め込みすぎなのか?」

「んや、今日の休みの分はすでに帳尻合わせてるよ。そうじゃなくて、海の……」

「あー!!!」

 もし仕事を詰め込みすぎているなら、それは自分のせいというのが大きいのだろう。
 そう考えた達志であったが、猛は首を横に振る。

 それは違う……と告げる猛がまたも気になる一言を発したところで、今度はリミが大声をあげる。
 なんなのだいったい。

「な、なに? どした?」

「す、すみません、タツシ様に伝えるのをすっかり忘れてました。……あ、あのですねタツシ様!」

 伝え忘れていたことがある。
 達志への報告をすっかり忘れてしまっていたリミは、その場に立ち止まり、達志を見上げる。自然、達志も立ち止まり見返す形に。

「あのですね、もうすぐ学校は夏休みに入るんです。そうしたら、ここにいるメンバーです海に行きませんか!?」

 伝え忘れていたこと……それは、夏休みに計画していた、海へのお出かけについてであった。

「ここにいる、メンバーで?」

「はい!」

 なるほど、身内の参加というわけだ。ここにいるのは、達志、リミ、猛、さよな、みなえ、セニリア……

「あれ、由香は?」

 ふと、思う。ここにいないメンバーのことを。
 そう、由香は教員。達志たち生徒が帰った今も、やることがあるので学校に残っている。

「えっ、あっ、も、もちろんユカさんも! すみません、私うっかりここにいるなんて……」

 一瞬、由香だけハブられたのではと恐ろしい考えが浮かんだが、どうやらその心配はないようだ。
 達志に海への計画を伝えるのを先んじすぎて、てっきり由香もいるものだ、と思っていたらしい。

 まあ、このメンバーであれば自然と由香も混ざっていそうな光景ではある。

「海か、いいね。あぁ、だから猛は、仕事頑張るって?」

「そうそう。一日空けてもらうために、また明日から頑張んないと」

 そうだ、猛はもう社会人……夏休みになれば学校に行かなくていい達志たちと違い、そもそも夏休みというもの自体がないにも等しい。
 今日だって、この日のために猛は頑張ってくれたのだ。

 自営業であるさよなは自分で都合がつけられるが、みなえや教師である由香も、海への計画に反対はないようだ。後は、達志の意見のみ。

 ならば、答えはもう一つしかない。

「なら、行こう海! みんなで!」

 行かない意見など、あるはずもない。
 夏の思い出、その一つをここにいるみんなで刻むのだ!
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