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第四章 激動の体育祭!
第152話 鬼族の力
しおりを挟む芸術点がマイナスになったこともあり、あれ以降赤チームの点数は芳しくなく……気がつけば、達志が出場する種目『騎馬戦』の番になっていた。
このままだと優勝はおろか、上位に食い込むことすら難しい。なぜなら、今現在の順位が五チーム中五位なのだから。
「このままじゃ負けちゃうな……」
「そうだな、こいつは参った」
「あんたのせいでもあるからな!?」
チームに貢献するどころか、マイナスの方向に引っ張っていった筋肉ナルシストに言う。こんな結果になった八割くらいは自分に原因があるというのに、何を言っているのか。
「やれやれ、まだ時代がこの美に追い付いていないようだ」
「そんな時代になったら世界は滅ぶ」
……本当に、なにを言っているのか。先輩だが殴っていいだろうか。うん、いいはずだ。許されるはずだ。
「……だけど、もう行かないと。くそ、後で絶対殴ってやる」
それから、トサカゴリラは先輩として敬うつもりはないし、いいだろう殴って。
あの巨体を殴ったらこっちの手が怪我してしまいそうだから、グローブかなんかを借りて。
変な決意を固め、達志は騎馬戦へ出場すべく入場口へ。
達志以外の赤チームメンバーはクラスの違う人たちばかりなので、名前はよく知らない。
赤チーム自体は、小金山 バキも出場するようだ。小柄だからか、騎手の部分で本人も自身ありげである。
ちなみに達志も騎手である。騎馬だと、上の人を支えられないだろうという配慮の結果である。
「ようし、やったるか!」
……かくして騎馬戦が開始され……あっという間にバキは脱落した。
いや、バキだけではなくほとんどのチームが脱落していた。何なにが起こったのか、わからないほどにあっさりと。
入場し、それぞれが位置につき……スタート。当然周りのチームは動きだし、場は混戦と化していく。そこまでは覚えている。
問題はその後。
混戦する騎馬をすり抜けていくように移動し、その瞬間に騎手のハチマキを奪っていくものがいたのだ。
「マジかよ…」
混戦していた場は、あれよあれよと数えられるまで数が減り、達志ら含めて五つの騎馬しかいない。
その中に、見覚えのある顔があった。
「へ、ヘラ!?」
「ようタツ、なんかえらいことになったな」
騎手として参加しているスライムである、ヘラクレスの姿があった。
スライムが騎馬戦の騎手になっている構図は、なんともシュールである。どうやらこれは、ヘラの仕業ではないらしい。
そしてもう一人、よく知った顔がいる。
「お前もいたのか、マルちゃん!」
「誰がマルちゃんだ!」
マルちゃんことマルクス、彼が騎馬として参加している。
それ自体に驚きはしないが、目を疑う光景がそこにあった。
「……なに、あれ。マルちゃん、アクセサリーでも付けてんの?」
「マルちゃん言うな。貴様はなにを言っているんだ?」
というのも、マルクスの額に、キラリと光るものがあるのだ。
ある……というか、生えている、という表現が正しいかもしれない。
生えている? なにが? 額から生えている? あれは……角に見える。額から角が、生えている?
「え、なにそれ、ファッション? 角? 角!?」
マルクスの額から角が生えている。どれだけ目を凝らしても、そう見える。
ヘラに顔を向けると、彼は頷く。どうやら、達志の目がおかしいわけではないらしい。
「なにを驚いて……あぁ、貴様は知らなかったのか」
「し、知らないって何を……」
「マルちゃんには鬼族の血が流れてんだよ」
「ふー…………鬼族ぅ!?」
マルクスの額から生えているもの……その正体は角のようなものどころか、本物の角。その上、それは鬼のものだというのだ。
大抵のことでは驚くまいと思っていたのだが、これには達志も驚きを隠せない。
だって鬼族だなんて、初めて会ったし聞いたんだもの。
これまでは、リミようにかわいらしい獣人や、ヘラのようなある意味愛くるしい容姿を持った者がいた。
トサカゴリラなどという例外もいるが、基本柔らかいイメージがあったのに、鬼とはなんとも尖ったイメージだろう。
「鬼……マジで? だってそんなこと一言も……」
「聞かれなかったからな」
この野郎。
「でも……魔法は、使えないって」
「阿呆か貴様は。これは血筋……種族によるものだ。魔法は関係ない」
おっしゃる通りだ。
「でも鬼って、角がこう、二つ生えてるもんじゃないの? それは……」
「貴様の古い知識をあてがうな。今では一本角の鬼も珍しくないし……僕は鬼族と人間族とのハーフだからな」
角が一つでも、鬼であることは変わりはない。それに、マルクスは純粋な鬼ではないらしい。
騎馬戦で明かされる、衝撃の事実。
だが、角が生えたからといってそれがなんだというのか。
「へっ、鬼がなんだよ! そんな角なんか生やしちゃって、ただのカッコつけだろ!」
「……ほう?」
ただ見た目が変わっただけで、単なる見かけ倒しではないか。
とはいえマルクスの身体能力は高いことに変わりはないから、注意しなければ……
だが、次の瞬間認識が甘かったことを痛感することになる。
「……これでも、か」
「……なっ?」
決して気を緩めたわけではないが、気がつくと、残っていた五組の騎馬は四組へと減っていた。
マルクス騎馬チームの騎手の手には、ハチマキが。
まさか、今の一瞬で他騎馬のハチマキを、奪ったというのか。
「ふっ、わかったか? 鬼化した僕の身体能力は、飛躍的にアップする」
「……な、なんてこった」
まさかここまで違うとは。鬼化、恐るべし。
改めて達志は気を引き締め、そして改めて思う。
……鬼化したマルクスについていく他の騎手の運動神経やべぇ、と。
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