目覚めた世界は異世界化? ~目が覚めたら十年後でした~

白い彗星

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第四章 激動の体育祭!

第149話 楽しいのが一番

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 さて、部活対抗リレーも折り返し。そんな中で、ルーア所属の魔法部、第三走者がスタート位置に立っていた。
 そこにいたのは、達志もよく知る人物、スライムのヘラクレス……なのだが。
 その姿は、少々異様だ。

 スライムボディは、いつも通り。しかし、そこには本来ないはずの、長い脚が生えていた。
 いつもは、ぷよんぷよんと、跳ねるようにして移動しているヘラクレス。

 しかし今の彼には、脚が生えている。スライムボディに長い脚が生えているという、非常にアンバランスな体型。

「うお、すげ……」

 その姿に、達志は思わず声を漏らした。
 部活対抗リレーは競争ではないとはいえ、魔法部はわりと上位を走っている。少なくとも、テニス部よりは先だ。

 今走っているのは、第二走者のマルクス。果たして、後ろからヘラクレスのあんな姿を見て、どう思うのだろう。
 達志ならぶっ倒れるのかもしれない。

「お、走り出した……マルちゃんも、別に気にした様子はないわな」

 脚だけではなく、にょきっと腕まで生やし、タスキを受け取るヘラクレス。一応リレーという名目上、バトンパスがある。
 しかし、部活によってはバトンを持ったまま走ることができない。そのため、バトンの代わりとなったのがタスキだ。

 タスキを受け取り、スライムボディに通していく。そして走り出すと、周囲からはざわざわとした声が。
 中には悲鳴のようなものも聞こえる。

「私たちは見慣れましたが、あの姿で走るのはなかなかショッキングな姿でしょうねぇ」

「そ、そうね……」

 もし事前に、ヘラクレスがあんな走り方をすると聞いていなければ、達志も悲鳴を上げていたかもしれない。
 なんというか、普通に怖い。

「そういや、魔法部はなんか魔法使いながら走らなきゃダメなんだろ。お前以外。
 ヘラはなんかやってんの?」

「彼は助っ人なので、別にその縛りはないですよ。
 周囲を驚かせる走り、という点では、あれで充分では?」

「それもそうか」

 しかも、思ったより足が速い。どんどん、迫ってくる。
 というか、次の走者……つまりルーアにタスキを渡すために走っているわけで。達志にとっては、こちらに迫ってきているようにも見える。

 普通に怖い。

「さて、と。ではタツ、お先に失礼しますよ」

「どや顔やめろ。すごいのはヘラだからな」

 一足先に、次の走者……ルーアへと、タスキが渡る。
 走り出す彼女の背中を見送りつつ、達志もスタート位置へとついた。

「お、タツじゃん。がんばー」

「おーう」

 走り終えたヘラクレスは、スライムボディに戻っていた。ずっとあの姿でいられても怖いので、助かるが。
 他の選手も、続々とタスキを渡している。

 そんな中で、デニス部第三走者であるシェルリアが、たどり着く。

「す、すみません先輩……はいっ」

「いや、謝ることもないだろ。気楽にいこうぜ」

 足の速さはともかく、シェルリアはラケットの上でボールをバウンドさせながら走るのは、苦手なようだ。
 ただ……見ている分には、とてもいい目の保養になった。

 なんせ、走っていたのは校内二大美少女の一人である、シェルリア・テンだ。
 少しドジった感じで走っている姿は、観客を多いににぎわせた。

「よっ、ほ……」

 達志の番となり、タスキを受け取る。ラケットの上で、ボールをバウンドさせつつ、走り出す。
 集中力が必要な行為だ。だが、達志はスムーズにそれをこなし、足を進めていく。

 元々、テニスに本格的に参加するのは、もっと体力がついてから、と決めていた。
 そのため、ラケットとボールに慣れるため、ラケットの上でボールをバウンドさせて、馴染ませようとしていた。

 そのおかげで、やりやすい。ただでさえ、競争ではないのだから、落ち着いてやることができる。

「おぉ、速いなイサカイ」

「どうもっ」

 周りを気にせずに進んでいたためか、気づいた時には第五走者に引き渡すところだ。
 ほっと一息つき、達志はタスキを渡す。

 第五走者の先輩は、颯爽と走っていく。その後ろ姿を見ながら、達志は周囲を見た。

 ……みんなが、盛り上がっている。体育祭でしか味わえない、熱。
 それを受け、胸が高鳴るのを、感じていた。

「はぁ、はぁ……た、タツ、なかなか、速いですね……」

「おぉ、ルーアじゃん」

 遅れてゴールしたルーアが、膝に手をつき、肩で息をしている。
 どうやら、知らないうちにルーアを抜き去っていたようだ。

「俺、ボールを落とさないように気を付けて走って……そもそも、足もあんま速くないと思うんだけど」

「言わないでください」

 ルーアは、魔法に関してはその威力は一級品だ。そう、魔法に関しては。
 だが、身体能力は、そこまで高くないらしい。

 普段、魔法部の活動で体を動かしてはいるが……それはそれだ。
 運動は、苦手だ。苦手ったら苦手だ。

「なあ、なんか魔法で、身体強化とかできないのか? ルーアの魔力なら、相当速くなるだろ」

「私にそんな器用な魔法が使えるとでも?
 それに、身体強化の魔法は、見ている方も地味だからって使用許可は下りてねえんだ」

「へぇ」

 そうやって話しているうちに、どうやら次々とゴールしていっているようだ。
 順位は関係ないため、みな純粋に楽しんでいる。

 達志にとっても、とてもいい経験に……いや、いい思い出になった。
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