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第四章 激動の体育祭!
第142話 ぶつかり合いの結果!
しおりを挟むなにかが飛んできて、達志はそのなにかを、なんとか避けることができた。
どうやら、マルクスの仕業だ。彼は、レースを共に走っていたもう一人を掴み、引っ張り……後ろにぶん投げたらしい。
つまりは、人間砲弾だ。そんなのありかよ、と叫びたい。
結果、後ろを走っていた達志にぶつかりそうになったが、それを避けることに成功したのは幸運だった。
いや、ぶつかりそうになったのではない。マルクスは、完全に達志を狙っていた。
思わぬところで、体が反応してくれたらしい。それでも、体勢を崩してしまったことに変わりはなく……転びそうになり、手をぶんぶん振ってしまう。
バランスをとろうと右往左往する腕……それはなにかを掴んだ。
「おわっ!?」
「ぶはっ!」
幸か不幸か、前方を走るマルクスの服を掴み……そのまま、勢いあまって二人とも転倒。
……するかと思いきや、その場で踏ん張る。
さらに驚くことに、後ろから達志に掴まれているにも関わらず、マルクスはそのまま走るのを続行。
人一人がぶら下がっているため速度は落ちるが、人一人をぶら下げての状態で足を進め続ける。この体のどこに、そんな力があるのだろうか。
「ちょ、そんな引っ張らないでぇ!」
「お前が、離せば、いいだろ!」
ここで手を離せば転ぶ。しかも距離を離されてしまう。
かといってこのまま掴み続けても、ただ引きずられるだけだ。ついていくのもやっとだし。
「なら、寸前で……っておわぁ!?」
「ふん!」
こうなれば、旗を取る寸前でこちらから手を伸ばし、先に取るしかない。勝つためにはそれくらいしないとダメだ。
決してズルくなんてない。ズルくなんてないのだ。
が……そうそううまくはいかない。やると決めるや否や、体勢が大きく崩れる。
マルクスが、強引に達志を引き剥がしにかかったのだ。
なんとか離されないように、必死に掴む達志だが、異様に強い力で振り払われる。人の皮を被ったゴリラじゃないかと言いたくなるくらいに。
握力ゴリラなんて、リミだけで充分だ。
「いでっ」
派手に振り払われた達志は、後頭部強打。地面に打ち付けてしまう。
残念な結果に終わりながらも、振り払われる寸前……達志は、見た。マルクスの額から、なにかが生えているような。
五人で競う、このビーチフラッグス。スタート時には、当然五人いた。
しかし、スタート直後にマルクスタックルにより一人転倒。達志を狙った生徒も、勢い余ってマルクスにやられ、これも転倒。
さらに、スタートし順調に走っていたもう一人は、マルクスに人間砲弾に使われ、顔面を地面に打ち付けた。
残っていたのは、達志とマルクスの二人のみ。
激しい攻防の結果……しがみつく達志を、マルクスは強引に振り払う。
そして……
「っ、つつ……あー、あちゃー……取られちったか」
打ち付けた後頭部を擦り、達志は起き上がる。そして、見た。
達志を振り払ったマルクスの手に、旗が握られているのを。旗は一つゆえに、この種目には二位、三位が存在しない。
そのため、旗を取ったチームの一本勝ちだ。
達志は結局、意気込み充分結果不十分となったわけだ。
悔しいが、不思議とさっぱりしていた。
ちなみにその後の五戦目も、達志所属の赤チームは旗を取れなかった。
なので、ビーチフラッグスではまったく点を取れなかったことになる。
「うぅ、面目ない」
「いやあ、すごかったよ。どんまいどんまい」
ビーチフラッグスが終わり、達志及び赤チーム他メンバーは、テントへ戻る。
五人いて、一点も点が取れなかった。その不甲斐なさに、沈む一同。
しかし、迎えてくれるチームメンバーは、誰一人としてそれを責める者はいなかった。
「確かに勝てなかったのは、残念だったけど、みんな楽しそうだったしね。
特に、勇界くん!」
「お、俺?」
チームメンバー一人一人を労いつつ、蘭花は達志を指差す。
その手で、達志の手を取り、ぶんぶんと振った。
「そうそう、見ていても、楽しんでいるのが伝わってきたよ!」
「お、おう、そうか……」
正直、一生懸命でよく覚えてはいない。
しかし、見る側がそう感じたということは……実際、達志は楽しんでいたのだろう。
「そ、れ、にぃ」
蘭花が、意味ありげに、達志の耳元に顔を近づける。
「いやあ、敵チームなのに、勇界くんのことを応援しているあの子、すごく情熱的だったよ」
「あの子?」
まるで内緒話をするように、蘭花は言う。
一瞬、それは誰のことかと思った。敵チームで、達志のことを応援している人物など。ほとんどの人物は、同じチームの人を応援するはずだ。
しかし、そこまで考えて……達志は、ある一人の人物の顔が、思い浮かぶ。
その人物は、同じチームならばおそらく、いの一番に駆け寄ってくるだろう自信があった。
……リミは、達志の応援を、してくれていた。
「……そっか」
自然と、達志の表情も柔らかくなる。
このあとは、待ちに待った昼食の時間だ……その時に、リミと一緒に食べよう、という話をしている。
その際、お礼を言っておくとしよう。
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