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第四章 激動の体育祭!
第141話 だってルール違反じゃないもの
しおりを挟むつまり、テニスがうまければこのビーチフラッグスにも有利なんじゃね? というのが達志の考えだ。
その仮説が正しければ、テニス部副部長であるマルクスが、相当厄介な相手になる。
「ま、俺や身近な人たちがテニス部ってだけで、考えてみれば野球やサッカーにも必要な要素なんだけどな。むしろテニスより必要な場合もあるし、あっはは……」
「お前、大丈夫か?」
さっきは少しイライラしている目をしていたマルクスであるが、今は気味の悪い奴を見るような目をしている。
ちょっとひとり言が多いだけではないか。非常に心外である。
「ふっ……負けないぜ、マルちゃん」
「独り言言ったりいきなり笑ったりカッコつけたり……情緒不安定かお前。あとマルちゃん言うな」
いかにマルクスの実力が上でも、達志とて簡単に負けてやるつもりはない。
ただぶつかり合うだけではなく、頭を使えばいいのだ、頭を。頭突きしようという意味ではない。
他の人間のことは考えず、単純に旗だけを狙って走る。そうすることで、他のメンバー同士を衝突させてしまうか。漁夫の利という言葉がある。
本来ビーチフラッグスは、旗だけを狙う競技なのだが……妨害あり、というルールが、必要以上に他者を意識させてしまっているのではないか。
旗のみを、狙う。こっちのほうが確実かもしれない。うまくいくかはわからないが。
「うし、やったるぜ」
一人気合いを入れつつ、ビーチフラッグススタンバイへ。
五人が横並びにうつ伏せになり、合図である銃の空砲が鳴るのを待つ。ここは魔法じゃなくて普通に銃使うんだ、と思ったのは内緒だ。
うつ伏せなため、いつ合図が鳴るかはわからない。
焦らされるような感覚に陥り、今か今かとその時を待つ。
緊張の一瞬、そして……
パンッ
空砲が鳴り、それを聞いた走者は一斉に動き出す。
人間なのだから、音を耳で感じ取ってから脳へ、そして体全体に伝達するまで、どうしても時間がかかる。
いかに早く、動くことができるかが勝負だ。
「よっしゃ行ぐぉはぁ!」
音を聞き取ってから、出来る限り素早く立ち上がり、そして反転しつつ走り出す。
その流れは、わりと良かったと思う。しかし誤算は、走ろうとした瞬間に横からタックルされたこと。
まさか、これから走り出そうってときに前に妨害があると思っていなかったから、油断していた。
それでも、倒れないようになんとか足を踏ん張り、体勢を崩さないことに成功。
いったい誰が……それは確認するまでもなく、達志の隣にいた人物なのは明らかだ。
「っ……マルちゃん!」
「なんだ、倒れなかったのか」
今しがた負けないことを誓ったマルクスが、そこにいた。見ると、達志とは反対側にいる選手は、すでにマルクスタックルにより倒されている。この男、両側の選手をいっぺんに倒すつもりだったのだ。
というかどんだけ素早くタックルしたんだ。
なんとか倒されるのは阻止するものの、予想外の妨害にあってしまったのは事実。
ゆえに達志のスタートは遅れてしまうし……敵はマルクスだけではない。
「うぉらぁ!」
「うぉう!?」
マルクスから妨害を受けたのだから、当然反対側にいる選手からも妨害を受けることは予想できる。
なので、回避に意識が集中する。旗のみを狙うつもりが、さっそく作戦失敗だ。
マルクスに体勢を崩されかけたことが、結果的にもう一人からの妨害を避ける結果になり……勢いあまった相手は、そのままマルクスへタックルしていく。
やたらがたいのいい体だ、マルクスといえど、まともに受ければひとたまりもないだろう。
「っとっ」
そのままマルクスに衝突、あわや二人とも転倒……となってくれれば理想的だった。
しかしマルクスは、突撃してくる巨体に焦ることはない。
巨体に手を伸ばし……触れる。すると、巨体が進行方向を変え、大きく転倒したではないか。
「げぇっ」
まさか力で押し返すのではなく、相手の力を受け流し自分への被害をなくすとは。
それも、突進してくる相手をだ。やはり厄介な敵である。
相手に触れるのはありなのか、とも思ったが、タックル妨害がありなのだから、せめてそれをかわすことくらいはありなのだろう。
「って、速ぇ!?」
そうやって分析しているうちに、マルクスは一気に走り出してしまう。
それに、マルクスに倒された二人を放っておいて、残り一人もすでにスタートしている。
たった数秒にも満たない攻防とはいえ、致命的な瞬間だ。
慌てて走り出す。その後ろ姿を追いかけるように、駆け出す。
単純な走りでは勝てなくても、妨害ありならばチャンスはある。つまり……
「これなら、どうだ!」
手を伸ばし、狙うはマルクスの服。服を掴んで引っ張ってしまえば、一気に抜くことができるはずだ。
妨害行為がルール違反でない以上、なにをしてでも勝てばいいのだ。
卑劣な行為ではない。だってルール圏内だもの。
魔法による妨害はない。それはルール違反だし、そもそもマルクスは魔法を使えない。
「もらっ……」
「残念だったな!」
服を掴めるまであと一歩……そこまできたところで、なにかが飛んでくる。
「わっ」と声を上げ、反射的にのけぞる。そのおかげで、なんとか避けることができたが、そのおかげで体勢を崩してしまう。
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