目覚めた世界は異世界化? ~目が覚めたら十年後でした~

白い彗星

文字の大きさ
上 下
137 / 184
第四章 激動の体育祭!

第136話 借り物を探して

しおりを挟む


 さて、借り物競争が開始。
 それと同時……

「"アイス・フィールド"!」

「ほらー!!」

 開始直後、リミは魔法を発動させる。
 それにより足場は氷漬けになり、夏だというのに周囲には冷気が漂う。まさにスケートリングのような地面となる。

 予想した通りではあるが、だからといってすぐに対応できるものではなさそうだ。

 実際に、リミ以外のメンバーは転倒したり、生まれたての小鹿のように足をぷるぷるさせたり……万全とは言いがたい状況だ。
 その間、リミ本人はすいすいと滑っていく。

 あの運動靴で、まるでスケートのように。どうやって滑っているのかと、目を凝らすと……どうやら、靴裏を凍らせて、滑りやすくしているらしい。
 あんなこともできるのかと、感心する。

「また種目が変わってる気が……それより、あいつは?」

 このままではうまく動くことが出来ない的な意味で、リミの一人勝ちになってしまうだろう。
 もしやこれが狙いで、リミが出場したのだろうか。運要素かと思いきや、リミの力をふんだんに活用したわけだ。

 他にも動き出しているのが数人いるが、リミとは同じチームのようだ。
 同じチームなら、当然対策はしている。そのため、行動が早い。

 そんな中で、他チームの人間でいち早く行動している人物がいた。
 達志が探していた、同じチームでクラスのバキだ。小柄な男。

 驚くのは、彼の動きだ。
 他のメンバーは、歩くのに手間取っている……というのに、彼はまるで、足場が普通の地面だといわんばかりに、歩き始めたのだ。

「……どうなってんの、あれ。普通に歩いてるけど」

「言ったろ、あいつは研究熱心なんだって。あと発明家でもある。
 大方、靴裏から熱が出る改造とかしてて、氷を溶かしてるんじゃねぇかなぁ」

「へぇー……え、今すごいこと言わなかった? 熱? 改造?」

 今隣からすごいことを言われた気がするが、追及する前に周りがワッと盛り上がる。
 研究熱心と学年トップはともかく、そこから改造なんていろいろぶっ飛んでいる気がするが……それは後で聞くとしよう。
 今は勝負の行方の方が重要だ。

 バキも動き出したが、リミが早くも、借り物の紙が入れてある箱へとたどり着く。
 先に駆け出していたのに加え、スケートのように滑っていたのが大きいだろう。

『緑チーム、ヴァタクシアさんが早くも箱へと到着! 果たしてなにが書かれた紙を引くのでしょうか!』

 司会の実況、観客も盛り上がる中でリミは箱の中へ手を入れ、しばらく模索した後に手を引く。
 その手には、一枚の紙が。

 そこになにが書かれているかで、勝敗に大きく左右する。出来るだけ難しいものであってくれ、と願う達志。
 その思いが通じたのか、リミはその場に立ち尽くし、紙を見つめている。

 その間にも、少し遅れてリミのチームメンバーやバキがたどり着く。
 他のメンバーも、苦労しながらも歩みを進めている。ある裳のは、魔法を活用して。

 しばらく立ち尽くし……ようやく、リミが動き出す。
 キョロキョロと首を動かした後に、目的のものを見つけたのか、その方角へと走り出す。それは、達志が座っている場所と同じ方角で……

「……へ?」

 同じ方角、というよりもまるで、達志を目指しているかのように走るリミ。彼女は、そのまま達志の目の前まで走ってきて、立ち止まる。
 その視線は、一心に達志を見つめていて。

「タツシ様……その、ちょっと着いてきてくれませんか」

 予想だにしない言葉を、言った。
 リミとは、いわば敵対するチームではあるが……そのリミは、達志に着いてきてくれと告げる。

 この状況で着いてきてということは、リミの引いた紙に書いてあるお題が、達志に関係あるということだろう。
 それも、自チームでなくわざわざ他チームである達志ではなければいけない、なにかが。

「えっと……俺?」

「はい、タツシ様です」

 再度確認するが、聞き間違いではない。
 ここで申し出を拒否する……ということはルール違反ではないが、他チームだから、という理由だけでそんな意地悪をするという卑劣なことは、残念ながら今の達志には出来ない。

 また、ほぼありえないとは思うが、お題と一致した人物が一人しかいない場合もあるし。
 なので……

「わ、わかった」

 と、返答。もちろんリミに協力するということは、リミチームの勝利に貢献するということである。
 それは痛いが、それでもリミがわざわざ自分の所に来てくれたのが実は嬉しかったりする。お題の正体はわからないけど。

 お題の内容はなんだろうか。聞こうとしたが、妙にそわそわしている。
 みんなのいるところでは言いにくいことなのだろうか、ならば後で二人になったときにでも聞いてみようか……
 そう考えながら、立ち上がろうとしたとき。

「待つでやんす!」

 特徴的な語尾を持つ言葉に、阻まれる。
 達志の知る中でこんな話し方をするのは、一人しかいない。

「ば、バキ?」

 同チームの小金山 バキ。人間ではあるが、特徴的な容姿、特徴的な言葉遣い、特徴的な名前と、いろんな種族入り乱れるチーム内でも存在感のある人物だ。

 その彼は、他の選手が苦戦している氷の足場を乗り切り、紙を引いたはずだ。
 だというのにここにいるということは、彼のお題もこの付近にあるということだろうか。

「悪いが、たっつんはあっしがもらうでやんすよ」

「……聞き捨てなりませんね。私からタツシ様を奪おうだなんて」

 達志の奪取宣言を告げるバキに、向き合うリミ。心なしか、少し辺りの気温が下がったような気がする。

「ば、バキの目的も俺、なの?」

「えぇ。だからその女にたっつんをやるわけにはいかないでやんすよ」

「タツシ様は渡しませんよ」

 二人の間に火花が散っている気がする。そして台詞だけ聞くと、まるで二人が達志を取り合おうとしている内容ではないか。いや、実際そうなのだが……

「なんか、昼ドラみたいなドロドロ感が……」
しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

異世界でネットショッピングをして商いをしました。

ss
ファンタジー
異世界に飛ばされた主人公、アキラが使えたスキルは「ネットショッピング」だった。 それは、地球の物を買えるというスキルだった。アキラはこれを駆使して異世界で荒稼ぎする。 これはそんなアキラの爽快で時には苦難ありの異世界生活の一端である。(ハーレムはないよ) よければお気に入り、感想よろしくお願いしますm(_ _)m hotランキング23位(18日11時時点) 本当にありがとうございます 誤字指摘などありがとうございます!スキルの「作者の権限」で直していこうと思いますが、発動条件がたくさんあるので直すのに時間がかかりますので気長にお待ちください。

『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!(改訂版)

IXA
ファンタジー
凡そ三十年前、この世界は一変した。 世界各地に次々と現れた天を突く蒼の塔、それとほぼ同時期に発見されたのが、『ダンジョン』と呼ばれる奇妙な空間だ。 不気味で異質、しかしながらダンジョン内で手に入る資源は欲望を刺激し、ダンジョン内で戦い続ける『探索者』と呼ばれる職業すら生まれた。そしていつしか人類は拒否感を拭いきれずも、ダンジョンに依存する生活へ移行していく。 そんなある日、ちっぽけな少女が探索者協会の扉を叩いた。 諸事情により金欠な彼女が探索者となった時、世界の流れは大きく変わっていくこととなる…… 人との出会い、無数に折り重なる悪意、そして隠された真実と絶望。 夢見る少女の戦いの果て、ちっぽけな彼女は一体何を選ぶ? 絶望に、立ち向かえ。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

スキルガチャで異世界を冒険しよう

つちねこ
ファンタジー
異世界に召喚されて手に入れたスキルは「ガチャ」だった。 それはガチャガチャを回すことで様々な魔道具やスキルが入手できる優れものスキル。 しかしながら、お城で披露した際にただのポーション精製スキルと勘違いされてしまう。 お偉いさん方による検討の結果、監視の目はつくもののあっさりと追放されてしまう事態に……。 そんな世知辛い異世界でのスタートからもめげることなく頑張る主人公ニール(銭形にぎる)。 少しずつ信頼できる仲間や知り合いが増え、何とか生活の基盤を作れるようになっていく。そんなニールにスキル「ガチャ」は少しづつ奇跡を起こしはじめる。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

家の猫がポーションとってきた。

熊ごろう
ファンタジー
テーブルに置かれた小さな瓶、それにソファーでくつろぐ飼い猫のクロ。それらを前にして俺は頭を抱えていた。 ある日どこからかクロが咥えて持ってきた瓶……その正体がポーションだったのだ。 瓶の処理はさておいて、俺は瓶の出所を探るため出掛けたクロの跡を追うが……ついた先は自宅の庭にある納屋だった。 やったね、自宅のお庭にダンジョン出来たよ!? どういうことなの。 始めはクロと一緒にダラダラとダンジョンに潜っていた俺だが、ある事を切っ掛けに本気でダンジョンの攻略を決意することに……。

ペット(老猫)と異世界転生

童貞騎士
ファンタジー
老いた飼猫と暮らす独りの会社員が神の手違いで…なんて事はなく災害に巻き込まれてこの世を去る。そして天界で神様と会い、世知辛い神様事情を聞かされて、なんとなく飼猫と共に異世界転生。使命もなく、ノルマの無い異世界転生に平凡を望む彼はほのぼののんびりと異世界を飼猫と共に楽しんでいく。なお、ペットの猫が龍とタメ張れる程のバケモノになっていることは知らない模様。

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

処理中です...