目覚めた世界は異世界化? ~目が覚めたら十年後でした~

白い彗星

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第四章 激動の体育祭!

第134話 怪力女

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 玉が、燃えています。

 なにが起っているのかいまいち理解できないが……見たことありのままを伝えると。
 飛び交う他チームの玉が、次々炎に包まれ、焼失していく。

 そして、それが誰の仕業であるかと言えば……赤チームである、シャオ・リングルによるものだ。

「あいつ、魔法は使えないって言ってたよな……」

「よく見てみな」

 彼は、魔法を使っているわけではない。
 その口から炎を吐き、それが宙に投げられた玉に衝突……燃やし尽くしている。見た目通り、火を吐くのがリザードの特性ということか。

 他の人たちは、能力や魔法で、より多くの弾を入れている。
 対して彼は……一言で言ってしまうならば、他チームへの妨害行為を行っているのである。

「いや、いやいや! いいのあれ!? すっごい妨害してるけど! 自分チームだけど許していいのあれ!?」

「む、胸ぐらを掴まないでくれ……! か、カゴに入った玉でなければ、ある程度の妨害は許されて……」

「ある程度!? ある程度なのあれ!? だいたい、いくら妨害しても、こっちの玉が入らなきゃ意味が……」

「そぉーれ!」

 景気のいい声と共に、玉が、すごい勢いで舞っていく。
 複数の玉が、狙いすまされたようにカゴの中へ吸い込まれていく。

 その主である小宮 蘭花は、楽しそうに玉を操っていく。それは魔法だ。

「……そういや蘭花、風魔法使いだったっけ」

 シャオの炎で他チームの玉を焼き尽くし、その隙に蘭花の風魔法により大量得点を狙う。
 ある意味で、浮遊魔法よりも効率的に入っている。これぞチームワーク。

 開始直後から、他チームに大きな後れを取っていた赤チームは……どんどんその差を縮めていく。
 タイムオーバーになるころには、開始直後からは考えられないほどの、すさまじい数の玉が入っていた。

 ちなみに、他チームからの妨害もあったが、全部蘭花の風魔法で吹っ飛ばしていた。

「……はは、なるほど。これが"魔法ありき"の体育祭ね」

 引き笑いを浮かべる達志の赤チームは、ヘラクレス所属の黄チームに続いての二位だった。

「なっ? なんとかなったろ?」

「なっ? じゃねえよ! なんなのあれ! もはや俺の知ってる玉入れの領域をはるかに超えてるんだけど!」

 第一競技である玉入れが無事(?)終了し、各メンバーが戻ってくる。
 確かに二位という、出だし快調の結果に終わったものの……目にした玉入れ競技は、達志の知っているそれではなかった。

 途中からは炎が吹き荒れ、風が舞い、雨が降ったり砂嵐が起こったり、散々であった。
 もはや魔法合戦、と称してもいいのではないのだろうか。玉入れなのに。

「玉入れ妨害って、あんながっつりした妨害になるとは思わねえよ……
 途中から単なる魔法の飛び合いだったじゃねえか」

「でも見応えあったろ?」

「あったけども! こちとら玉入れしに来てんだよ! 誰が魔法合戦始まると思う!?」

「お前は玉入れはしてないだろう」

「そういう問題じゃなくて!」

 正直第一種目からこれだと、先が思いやられる。
 とはいえ取り乱しているのが達志だけなのを見るに、これが普通なのだろう。

 果たして達志は、ちゃんと体育祭についていけるのだろうか。
 やれやれ体育祭も、この十年でかなり変わってしまったものだ。

「かなりどころじゃねえよ!」

「お、おうどうした」

 もう達志の中で処理しきれなくなりつつあるのだが、それはそれとして置いておこう。
 魔法ありきがこのスタイルだと理解すれば、まだ持ち直せる部分はある。きっと。

 玉入れであれだったのだ。これ以上に驚くことはそうそうないだろう。

「お、そうしているうちに次の種目だぞ」

『続いて、綱引きを開始します……』

「よし、魔法ありなら身体強化でもなんでも使えばいいじゃねえか!」

「なんでちょっと投げやりになってんだよ」

 ともかく気持ちを切り替え、次の種目だ。
 ともあれ、魔法をふんだんに駆使した結果が二位だったのだから、今回も悪い結果にはならないだろう。おそらく。

 身体強化で自身の身体機能を底上げするもよし、先ほどのように魔法で他チームの妨害をするもよし。
 もともと勝つために、やれることはやろうというスタイルだったのだ。ならば遠慮なく……

『優勝は、緑チームです!』

「早ぇええええ!!?」

 自分チームの検討を祈ろう……そう考えていたというのに、あっという間に綱引きが終わってしまった。
 玉入れのように時間制限がないとはいえ、それなりに力が拮抗するだろうし、すぐには終わらないはずだ。

 なにより五チームもあるのだから、そう簡単には終わらない。一チームずつが勝ち抜きをしていくスタイルなのだから。
 そう考えふと、優勝チームに嫌な気配がする。緑、と言っていた。

 そして、優勝チームの出場メンバーを確認するため、目を凝らす……するとそこにいたのは。

「いやあ、しかしやっぱ強ぇなヴァタクシアは」

「リミィイイイ!」

 緑チームは、リミの所属しているチームだ。
 まさかと思ったが、綱引きに彼女も出場していたのだ。

 いくら彼女が、柔道部主将を投げ飛ばすほどの力を持っているとはいえ……彼女一人いるだけで、そこまで戦力に差が出るとは思えないのだが。

「しっかし惚れ惚れすんなー。見ろよここなんか、あの子一人で引っ張ってんじゃねえかってくらいだ」

「ちょっと見せて!」

 後ろで盛り上がる声が聞こえる。どうやら一連の流れを、録画していたようだ。
 例のスマホウだ。魔法によるもので録画機能もあるらしいが、今はそんなことはどうでもいい。

 今の流れを見せてもらうと……そこには、無双している緑チームの姿があった。
 軽々と、まるで相手チームの存在など初めからないとでもいうように。

 その中でも際立つのは……やはりリミだ。
 彼女は一番後ろにいるのだが、もう彼女一人でいいんじゃないかなと言いたくなるほどに、活躍がすごい。録画画面越しでもそれがわかる。

「相手チームにはすげえ体型の奴もいるのに……多分身体強化も使ってるだろうに……リミ、恐ろしい子!」

 彼女を怒らせた日には、軽々抱えられ地面に叩きつけられてしまうだろう。加えてかなりの魔法使い。もうこの子一人でいいんじゃないかな。
 あんな細い腕のどこに、そんな力があるのだろうか。
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