目覚めた世界は異世界化? ~目が覚めたら十年後でした~

白い彗星

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第三章 変わったことと変わらないこと

第124話 抑えきれない気持ち

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 なにかを伝えようとする、由香。
 放課後で二人きり、まるで告白のシチュエーションだ。

 そんなわけない。そう思いながらも、達志は次の言葉を待つ。
 深呼吸を繰り返す彼女の口から、ついに、次の言葉が……

「たっ……」

「おや、タツに由香先生じゃないですか」

 放たれると思ったと同時、どこからか別の声が乱入する。
 それは、甘く呑み込まれそうな空気にあった二人を、正気に戻すには充分で。

 声が聞こえたのは、教室の入り口。
 自然と二人は、弾かれたように顔を向ける。そこにいたのは、眼帯をつけた少女、ルーアであった。

「る、ルーア……?」

「いやぁ、私としたことが忘れ物をしてしまいまして。それより、お二人はなにを?」

「こ、これは……」

 いつの間にか、達志にかなり接近していた由香が、急いで距離を離す。
 しかし、あの場面をばっちり見られてしまったわけで。

 問題は、どこまで聞かれたか、だ。

「る、ルーアちゃん……えっと、聞いてた?」

「はて……なにか話してたんですか?」

 しかしどうやら、その会話までは聞かれていなかったようだ。ルーアの様子は、隠し事をしている風でもない。
 きょとんと、ただ首を傾げている。

「ううん、それならいいの……あ、その私! 職員室に用があるから!」

 聞かれてなかったことにほっとして。
 しかし、さっきまで自分がしていたことを思い出したのだろう。一気に顔を赤くして。そのまま走り出す。

 「おい!」という達志の言葉も聞かず、教室から出て、その場を走り去ってしまう。
 その後ろ姿を見守ることしかできず、伸ばした手は行き先を失う。

「どうしたんでしょう、いつもなら『由香先生じゃなくて如月先生でしょ』って返ってくるのに。様子が変ですねぇ。
 なにかあったんですか? タツ」

 由香がいつもの様子でないことに気づいたルーアは、一緒の空間にいた達志へと視線を向ける。
 だが達志は、心ここにあらずといった風で。

「さ、あ……」

 ただこう返すしか、できなかった。

 ――――――

 職員室に戻った由香は、自分の席に座るなり、そのまま突っ伏してしまう。
 その際机に『ガンッ』と、思い切り頭をぶつけてしまうが、お構いなしだ。

 隣に座る女性教員が「ひっ」と驚いても、お構いなしだ。
 なぜ由香が、こんな状態になっているかというと……

(ななな……なな、何言おうとしてたのわたしーーー!!!)

 つい先ほどの、教室での出来事を思い出して、めちゃくちゃ動揺しているからだ。
 自分がなぜあんなことをしてしまったのか、思い出すだけで顔が熱くなる。

 というか、穴があったら全力で入りたい。


 ガンッ!ガンッ!


「ひっ! き、如月先生?」

 放課後の教室、二人きり、しかも相手は自分が好きだった相手……いや『だった』であれば、あんなことはしないだろう。
 ともかく、異性への告白には、なんともナイスなシチュエーションだ。

 ……それが、同じ生徒同士であったならば、だが。

(違う違う! 確かにたっくんとは幼なじみだけど、たっくんは生徒で私は教師!
 ……だから、あんな……っ、しちゃ、だめなのに……)

 それも、ただの幼なじみという単純な関係ではない。
 達志と由香との間には、十年の時間のすれ違いがある。

 だから十年前のあの時から、普通に時を刻んできた由香自身は今大人になっているが……達志は時間が止まったまま。子供のままである。
 せめて、彼の肉体が時間を刻んでくれていれば、結果は違ったかもしれない。

 そのため、同じく幼なじみ同士で時を刻んできた、猛とさよなとは違う。
 達志だけが、十年前のまま時が止まっているのだ。

 だからこそ、失った時間を取り戻してほしい。
 青春を謳歌、とまではいかなくても、それなりに楽しんで、同じ年代の友達と遊んで、そして……

(……同年代の、彼女だって……)

 達志には、幸せになってほしい。同じ年くらいの子と恋をして、失った分の時間を楽しんでほしい。
 達志が起きた時から、そう決めていたのに。

「ぬがぁああああ!!!」


 ガンッ!


「ひぃっ」

 だというのに、そう決めた自分自身が揺らいでどうする。あのままルーアが、誰かが来なければ、自分は達志に何を口走っていた?

 由香は、達志が好きだ。
 それはいつからだったか……気づいたのは、達志が眠ってから。だが、想いを抱いていたのは、ずっと前からかもしれない。

 もっと早くに気付いていれば……勇気があれば、達志に想いを伝えることが出来たのだろうか。
 だが今それを思ったところで、もう遅い。自分の好きな人は今、高校生としてその人生を送っている。

 そこに、十年も達志を置いていってしまった自分が『好き』だなんて言って、どうする。達志を、大好きな彼を困らせるだけだ。
 そう思って、自分の気持ちを忘れようと思っていたのに……

(ダメだなあ、私)

 いつだったか、リミには達志が好きなことを言い当てられた。
 あの時は動揺から、気持ちに気づかれ、わかりやすいと言われ。挙句リミには、応援を申し入れられる始末。

 極めつけは、自分でも無意識のうちに、達志に対する好き好きオーラが出ているらしいとのことだ。
 達志本人にバレていないだろうことは、まだ救いではあるが。

 決意は固めたはずなのに、いざ達志を目の前にするとそれが揺らぐ。諦めようと思っても、気持ちは全然変わっていないのだ。
 嬉しいような、悲しいような……
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