目覚めた世界は異世界化? ~目が覚めたら十年後でした~

白い彗星

文字の大きさ
上 下
124 / 184
第三章 変わったことと変わらないこと

第123話 伝えてもどうしようもない想い

しおりを挟む


 幼なじみの、二人きりの時間に、少しばかり照れくささを覚える。

「まあ……慣れたっちゃあ慣れたな」

 クラスには慣れたか。その問いに、達志は答える。
 由香は副担任ではあるが、副担任であっても、クラスの詳細まではわからないだろう。

 ただ、達志としても難しいところ問題だが。とりあえず、慣れたことにはしておくこととする。

「そっか。……もうすぐ体育祭だもん、クラスのみんなとは仲良くね?」

「クラスで協力するのは対抗リレーくらいだから、あんま関係ないけどな」

 先ほどまでの気まずい雰囲気は、いつしかなくなり、二人だけの教室に二人だけの声が響いていく。
 お互いに軽口をたたき合ったり、笑い合ったり……

 あまり長くはない、それでも楽しい時間。一旦会話が途切れ……達志は気づいていないが、軽く深呼吸をした由香が、切り出す。

「たっくんはさ……好きな子、できた?」

「っ!? ごほごほっ……は、はあ!?」

 今までの話とは、まったく関係のない話。
 まさかいきなりそんなことを言われるとは思わず、なにか飲んでいたわけでもないのに、思わず咳込んでしまう。

 由香は、あくまでも窓の外を見ながら、口を動かしていた。
 ……夕日のせいだろうか。その頬は赤く、なっているように見えた。

「な、なんでそんなことを……」

「ほら、ウチのクラス、可愛い子多いじゃない。それにリミちゃんとは、同じ家に住んでるし……」

「そ、それとは話が別だろ。別に俺は……」

「あ、もしかして他のクラス? それとも学年?」

「いない! いないって!」

 なんなのだろう、めちゃくちゃぐいぐいくる。女の子は、恋バナが好きだと聞いたことがあるが、そのせいだろうか。
 それでいて、少し悲しそうな雰囲気があるのは、気のせいだろうか。

「確かに可愛い子は多いし、リミはいろいろよくしてくれるけど……好きとかじゃ…」

「ふーん。なら、気になる子もいない? 好きとはわからなくても、気になる子!」

「あのなあ、なんでそんなにぐいぐい来るんだ……」

 思わぬほどに、由香は前のめりだ。
 しかし、いくら幼なじみで副担任でも、そこまでぐいぐいくる必要はないだろう。お前には、関係ないことなんだから。
 ……そう、言おうと思った。

 だが、由香に視線を向けた瞬間……言葉が吹き飛んだ。
 声色は、他人の恋路を楽しむ者のそれ。しかし、その眉は下がり、眼鏡の中の瞳は、まるで不安そうに揺れている。

 先ほどまで、窓の外を見ていた。その体は、達志に向かい合い、身を乗り出さん勢いだ。

 その姿に、達志の想いは……わからなくなる。なんでこんな顔をしているのか。なんでこんな必死なのか。
 その姿に、思い出すのは……十年前、彼女に、如月 由香に抱いていた、想い。

 病室で、彼女に再会したとき……胸が、高鳴った。その気持ちがなんであるか、少しわかっていた。
 こんな顔を向けられては、自分の想いを全部ぶちまけたくなる。

「……そう言うお前は、どうなんだよ。モテるんじゃないか? 同僚の人とか……」

 だが、それを言ってはいけない。
 十年前なら……いや、同じく時を刻んだ間柄ならともかく、そうではないのだ。

 達志は十年前の高校生のまま。対して由香は、十年の歳月を経て大人になり、教師という夢を叶えた。
 そこへ、この想いを伝えてどうなるというのか。

 夢を叶えた由香の、邪魔にしかならない。教師に、生徒が想いを伝えることの意味を、考えろ。
 それに、大人になった今の由香に対して感じているこの想いが、本当に十年前のままなのかも、わからないのだ。

 再会した由香に、確かに胸は高鳴った。しかし、十年経った今の由香を、達志は知らない。
 そんな状況で、彼女のことを……と、伝えることなど、できない。

「……」

 なので、強引にでも話を変えた。変えたのは話というより、標的をだが。
 こう言ってしまえば、由香は取り乱してごまかせるはずだ。なにせ、今の由香がモテないはずがないのだ。

 教師や生徒、他にも想いを寄せる相手は多いはず。
 自分で話を変えておいて、そう思っただけで、胸が痛むのはなぜだろう。

 達志の話を受け、由香は……

「……私は…………私は、ね……!」

 苦しそうに胸を押さえて、切なげな瞳を向けてくる。まるで、自分の中にある気持ちを、今にでもぶちまけようかというように。

 ……お互いに好きな人、気になる人はいないのかという話……それが、どうしてこうなったのだろう。
 そして今、放課後の教室で、二人きりというシチュエーション。

 多少の悪戯のつもりで、問い返したつもりだった。
 てっきり、照れながら、そんな人はいないだの、教えないだの、そんな空気になると思っていた。

 だが……達志を見つめる由香に、そんな雰囲気はない。真剣な瞳で達志を捉え、胸元を押さえ深呼吸を繰り返している。

「…………私……」

 頬が赤いのは、夕日のせいだろうか。瞳が潤んでいるのは、気のせいだろうか。
 でなければ、この雰囲気はまるで……

 そして由香は、覚悟を決めたように口を開く。達志は、息を呑む。

 次に由香の口から紡がれる言葉、それを聞き逃さないように……全神経を、集中させて。
しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

異世界でネットショッピングをして商いをしました。

ss
ファンタジー
異世界に飛ばされた主人公、アキラが使えたスキルは「ネットショッピング」だった。 それは、地球の物を買えるというスキルだった。アキラはこれを駆使して異世界で荒稼ぎする。 これはそんなアキラの爽快で時には苦難ありの異世界生活の一端である。(ハーレムはないよ) よければお気に入り、感想よろしくお願いしますm(_ _)m hotランキング23位(18日11時時点) 本当にありがとうございます 誤字指摘などありがとうございます!スキルの「作者の権限」で直していこうと思いますが、発動条件がたくさんあるので直すのに時間がかかりますので気長にお待ちください。

『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!(改訂版)

IXA
ファンタジー
凡そ三十年前、この世界は一変した。 世界各地に次々と現れた天を突く蒼の塔、それとほぼ同時期に発見されたのが、『ダンジョン』と呼ばれる奇妙な空間だ。 不気味で異質、しかしながらダンジョン内で手に入る資源は欲望を刺激し、ダンジョン内で戦い続ける『探索者』と呼ばれる職業すら生まれた。そしていつしか人類は拒否感を拭いきれずも、ダンジョンに依存する生活へ移行していく。 そんなある日、ちっぽけな少女が探索者協会の扉を叩いた。 諸事情により金欠な彼女が探索者となった時、世界の流れは大きく変わっていくこととなる…… 人との出会い、無数に折り重なる悪意、そして隠された真実と絶望。 夢見る少女の戦いの果て、ちっぽけな彼女は一体何を選ぶ? 絶望に、立ち向かえ。

転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す

エルリア
ファンタジー
【祝!第17回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞!】 転売屋(テンバイヤー)が異世界に飛ばされたらチートスキルを手にしていた! 元の世界では疎まれていても、こっちの世界なら問題なし。 相場スキルを駆使して目指せ夢のマイショップ! ふとしたことで異世界に飛ばされた中年が、青年となってお金儲けに走ります。 お金は全てを解決する、それはどの世界においても同じ事。 金金金の主人公が、授かった相場スキルで私利私欲の為に稼ぎまくります。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

スキルガチャで異世界を冒険しよう

つちねこ
ファンタジー
異世界に召喚されて手に入れたスキルは「ガチャ」だった。 それはガチャガチャを回すことで様々な魔道具やスキルが入手できる優れものスキル。 しかしながら、お城で披露した際にただのポーション精製スキルと勘違いされてしまう。 お偉いさん方による検討の結果、監視の目はつくもののあっさりと追放されてしまう事態に……。 そんな世知辛い異世界でのスタートからもめげることなく頑張る主人公ニール(銭形にぎる)。 少しずつ信頼できる仲間や知り合いが増え、何とか生活の基盤を作れるようになっていく。そんなニールにスキル「ガチャ」は少しづつ奇跡を起こしはじめる。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

家の猫がポーションとってきた。

熊ごろう
ファンタジー
テーブルに置かれた小さな瓶、それにソファーでくつろぐ飼い猫のクロ。それらを前にして俺は頭を抱えていた。 ある日どこからかクロが咥えて持ってきた瓶……その正体がポーションだったのだ。 瓶の処理はさておいて、俺は瓶の出所を探るため出掛けたクロの跡を追うが……ついた先は自宅の庭にある納屋だった。 やったね、自宅のお庭にダンジョン出来たよ!? どういうことなの。 始めはクロと一緒にダラダラとダンジョンに潜っていた俺だが、ある事を切っ掛けに本気でダンジョンの攻略を決意することに……。

ペット(老猫)と異世界転生

童貞騎士
ファンタジー
老いた飼猫と暮らす独りの会社員が神の手違いで…なんて事はなく災害に巻き込まれてこの世を去る。そして天界で神様と会い、世知辛い神様事情を聞かされて、なんとなく飼猫と共に異世界転生。使命もなく、ノルマの無い異世界転生に平凡を望む彼はほのぼののんびりと異世界を飼猫と共に楽しんでいく。なお、ペットの猫が龍とタメ張れる程のバケモノになっていることは知らない模様。

処理中です...