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第三章 変わったことと変わらないこと
第122話 久しぶりの二人の時間
しおりを挟む昼休憩中に、赤チームのメンバーと交流を深めた(?)達志はその後、普段通りに授業を受け、そして部活へ。
そこでは、普段の練習に加え基礎トレーニングの特訓をこなし、帰宅する。
それが、達志のいつもの風景。だが今日ばかりは、少し違った。
「あ、しまった。教室に忘れ物しちまったか」
さて帰ろうとなった時に、教室に忘れ物をしてしまったことに気付く。
まあ取ってくるだけだ、そんなに時間もかからないだろうと、教室に向かったところ……
「……如月、先生?」
「ん。あ、たっくん」
そこにいたのは、達志の幼なじみであり副担任でもある、如月 由香だ。
由香は達志を見た瞬間、花が咲いたような笑みを浮かべた。
「……って、その呼び方は……」
「だーいじょうぶ、私以外誰もいないから」
にひひ、と笑う由香。
彼女の言うように、周囲には誰もいない。と言っても、どこで誰が聞いているのかわからないのだ。
学校という空間である以上、気をつけたほうがいいとは思うが。
「どうしたの、部活は終わったんでしょ?」
「あぁ、ちょっと忘れ物をな」
「……そっか」
とりあえず自分の席に向かい、忘れ物を探す。案の定、机の中にあったようだ。
「あったあった。由香は、何してんの?」
「あー、たっくんも名前呼び~」
「ぬぐ……」
目的のものを鞄に入れつつ、達志は問う。その際、先ほど自分が指摘したことも忘れ、名前を呼んでしまった。
由香はなにをしているのか。
こう見えても由香は、先生だ。この質問も、あまり意味がない気はするが。
「ん、まあ一応先生だからね。いろいろと」
「はは、だよな」
自分でもなにを聞いているのかと思う。だが、どんなことでも話題が欲しかったのかもしれない。
なぜなら……
「なんか、久しぶりだね。こうして二人で話をするの」
同様のことを、由香も考えていたらしい。そう、最近由香と二人きりで話せていないのだ。
生徒と教師という、近くてある意味遠い間柄。
二人は幼なじみであるが、その関係を公にはしていない、複雑な関係だ。
「そうだな。せっかく同じ学校にいるのにな」
お互い、なかなか時間が合わないというのもある。
もちろん無理やり捕まえれば可能なのだろうが、そこまでして由香の邪魔をするのも忍ばれる。
とはいえ、考えすぎなのかもしれない。他の生徒は、由香と親しげに話している。あのノリであれば、不審に思われないのかも。
「案外、猛やさよなの方が話せてる感があるかもしれないな。この間も……」
「ん?」
「……あ」
教師である由香とは違い、さよなの場合は自営業でやっているから、自分の時間を作りやすい。なので、時間が取れやすい。
猛も、案外自由が効くようだ。
その関係で、猛と共に、さよなの衣装作りに付き合わされたこともあった。
そしてうっかり、そのことが口から滑ってしまって……
「どういうこと? 二人と会ったの? いつ?」
「あー、いやその……」
別に隠していたつもりではない。ないのだが……
由香にバレたら面倒なことになるだとうなと思って、伏せておいたのだ。だが、こうなってしまっては仕方ない。
素直に、この間の出来事を話すと……
「ず、ずるいー! 三人でそんな、楽しそうなことー!」
案の定、面倒なことになった。目に涙を溜めながら、達志を揺さぶる。
自分だけ仲間外れにされたのが、納得いかないのだろう。
「し、仕方ないだろ。その日はお前仕事だって……」
「行ったよ! 連絡もらえれば仕事ほっぽり出して行ったもん!」
「だと思ったから連絡しなかったんだっよ!」
由香に悪いことをしたという気持ちが、ないと言えば嘘になるが……それでも、"そう"なるであろうことは予想できたから、伏せておいた。
……そういえば、達志が目覚めてからまだ、四人で一堂に集まっていないなと、今更ながら思った。
「悪かったよ。ただその……せっかく夢を叶えた由香の、邪魔したくなかったんだよ」
こんなことを言いたくなかったから黙っていたのだが、こうなった以上仕方ない。
視線をそらし、少しでも恥ずかしさから逃れようとする。
おかげで由香の表情は見えないが、揺らされるのが止まったことから、どうやらわかってくれた……
「そんなこと考えて……たっくぅん!!」
「むぐ!?」
……ようだが、突然達志の顔が引っ張られる。次の瞬間には、なにか柔らかくて大きなものに埋まっていた。
ありのままの光景を説明すると……由香の胸に、達志の顔が埋まっていた。
「む、むうぅ!」
「あ、ご、ごめん!」
正直な話気持ちよかったので、もう少し味わっていたかった気持ちもあるのだが……
それはそれとして、うまい具合に口と鼻を塞がれてしまい、呼吸を封じられてしまっていた。
あのままではちょっと危なかったので、多少暴れると離してくれた。
どうやら由香は、感動のあまり抱きしめてしまったらしい。
互いに赤くなった顔で、うつむいて……
「えっと……クラスには、もう慣れた?」
気を利かせてくれた由香が、話題を変える。
こういうのは男の方からなのだと思っていたが、由香に先に気遣われてしまった。
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