目覚めた世界は異世界化? ~目が覚めたら十年後でした~

白い彗星

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第三章 変わったことと変わらないこと

第117話 幼なじみの距離感

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 さよなの部屋で、ポーズを取らされている達志と猛。
 さよなの言葉に、引っかかりを覚えた。

「俺のため?」

 この行為は、達志のためなのだと言う。
 そう、とうなずくさよなは腕を組むが、腕に乗るほど胸がないのが……と、変なことを考えている場合ではない。

 達志のために、達志と猛はポーズを取らされているというのか。いやそれよりも……

「あの、結局俺たちは何をさせられてるんでしょうか?」

「あれ、言ってなかったっけ」

 うんうん、言ってない言ってない。せめて理由がわかれば、こんなに混乱することもなかったのだが。
 説明も一切なしだ。どうやら本人は、説明したつもりでいたようだが。

(さよながなにかに集中すると周りが見えなくなるのは知ってたけど、これほどとは……)

 達志が眠ってしまう前、それよりも以前から……
 読んでいる本に集中しすぎて授業に遅刻、ファミレスでメニュー選びが決まらず一人だけメニューとにらめっこ、ということはあった。
 だが、あの時より悪化……進化している気がする。

 自覚がないというのが、困りものだが。

「達志くん、もうすぐ体育祭でしょ? だから衣装作ろうと思って」

「い……しょう?」

 今ここでなにをさせられているのか、その答えをさよなは告げる。
 だがそれは、予想外のものだった。だってそうだろう。

「え、体育祭って体操着でやるもんじゃないの?」

 そう、体育祭というやつは、学校指定の体操着でやるものではないのか。
 それとも、この十年の間に私服がオーケーになったのか?

「あ、ごめんごめん。衣装って言ってもそんな大それたものじゃなくて。
 リストバンドとか、邪魔にならない小物類をね」

 くすくす笑いながら答えるさよな。今さらだが、なんでこんなことしてるのだろう。あとそれ衣装と言えるのか。

「それはつまり、今俺は俺の衣装のデザインのためにポーズ取ってると」

「うん」

「いや、仕事をしろよ! 自分で余計な手間増やさんでも」

「してるよ! でもそんな大きな仕事はないし、ちょちょいと終わるよ。余計でもないし趣味の範囲だから問題ないの!
 あと達志くんの体の採寸とかもしときたいし!」

 気持ちは……嫌ではない。むしろ嬉しい。趣味の範囲とはいえ、わざわざ自分のために、こうして仕事の時間を割いてくれてるのだ。
 趣味の範囲というか、趣味を仕事にしていると以前言っていたが。

 ならばここは甘えて、うんとカッコいいリストバンドを作ってもらって……リストバンド?

「なあ、リストバンドくらいならわざわざポーズ取る必要なくない?」

「ダメ! こういうのはまず形から入らないと!」

 さいですか。

 どうやらさよなは、小物類とはいえまずはモデルをしっかり観察してやらねば、気が済まないらしい。
 それだけ情熱を持っているということだろうか。

「なあ、なら俺までポーズ取る必要なくね?」

 だがここで不満の声を漏らすのは、猛だ。
 達志の衣装作りのために、なぜ自分までポーズ決めなきゃならないんだという、当然の不満。

 それを、さよなは……

「だってそれじゃ、猛くん暇でしょ? ぼーっと作業見てるより、自分もモデルの一部になったって思った方がまだ楽でしょ?」

 こう切り返した。そもそも、猛を呼ぶ必要すらなかったんじゃ……とは達志は言わない。
 多分、どうせなら一緒にいたかったという思いがあるのだろう。

 猛も、自分が呼ばれた理由も、ポーズを取らされている意味も納得できないでいたが……何を言い返しても無駄だと、早々に黙りこむ。
 こういうのは、さよなは頑固なのだ。意味がなくても、やるしかないのだ。

「ふふ……っていうのは半分冗談。実は猛の応援衣装を作ってて……」

「応援衣装!?」

 ホントに、どこまで本気でどこまで冗談なのか。なんだかこの十年で、小悪魔的要素が増えた気がする。
 多分応援衣装というのは本当なのだろう。そんなこと一言も聞いてないと、猛は驚く。

 なるほど、応援衣装であれば、こうしている意味はある。

「いやいや、応援衣装って、俺が着るのか!? 達志を応援するために!? 学校的にはなんの関係もない俺が!?」

「でも、体育祭には行くでしょ? なら応援しなきゃ」

「行くけど! 応援もするけど衣装って!」

「来るのかよ!」

 やいやいやいやい……三人の、どこか楽しそうな声が響き渡る。
 しかしさよなの「二人とも動かない!」というめいれ……指摘があったため、再び沈黙の場へと戻った。

 とはいえ、さよなの家に来てなんやかんやで一時間。
 体育祭のために特訓して鍛えている達志、大工仕事で鍛えている猛の男二人であったが、さすがに限界が近づいていた。

「なあ……まだ、ですかさよなさん」

「あともう少しだから」

「二十分をもう少しとは言わねえよ……」

 同じ体勢を続けたままというのは、キツい。二十分前にももう少しと言われ、頑張っていたのだが、全然もう少しではない。
 それともさよなの中では、二十分はもう少しの範囲に入るのだろうか。

 それにしたって、だ。

「ホントに、もう少しだから……あ、猛くん。顔もうちょっと傾けて」

 手の動きはおそろしく早いのだ。いったいどれほど正確な衣装を描いているのか。
 というか、これ本当に衣装づくりに関係あるのか。これもうデッサンではないのか。

 ふと、さよなが猛に近寄り、彼の顔に触れる距離まで接近すると、実際に顔に触れ、角度を調整していく。
 その気になれば……さよなが手を引き寄せさえすればキスも、叶うであろう距離感。その距離感に、見ている達志の方が恥ずかしくなる。
 お、大人な空気だ……

(なんだ、いい雰囲気じゃん)

 こうして見ると、二人はお似合いだ。十年前よりも大人びて、しかしあの頃の面影は残っている。
 二人の関係性は、あの頃の幼なじみの関係から変わってはいないのかもしれないが、それでも着実に進展している。多分。

 だって、好きかと聞かれて電話越しでもうろたえていたさよなが、好きな人を相手にここまで距離を詰められているのだ。
 以前ならば、手を繋ぐことにも躊躇していたさよなが。

 告白する勇気がないだけ、それだけなのだ。その勇気さえあれば、きっと二人はすぐに付き合って……

「……っ! ち、ちかっ……ご、ごめんなさい!」

 一人感慨深さにふけっていた達志であったが、その思いは一瞬に崩れた。突然に真っ赤になったさよなが、猛からおもいっきり距離をとったのだから。

(あ、ダメだこれ……)

 頬に手を当て、キャーキャーうろたえている。そこには、十年前よりも距離が縮まった男女の姿はない。
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