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第三章 変わったことと変わらないこと
第116話 幼なじみたちとの交流
しおりを挟むファミレスでシェルリアと出会った。
「あ……はーちゃん! お待たせ」
「ホントにだよ、ファミレス入ってきたはいいけど、過ぎてったかと思えばいきなり立ち止まってんだもん。アタシが迎えに来なかったら永遠と話してたんじゃないの?」
「そ、そんなことないよ」
振り向き、シェルリアはにこにこと笑顔を浮かべている。
対してその正面にいる、はーちゃんと呼ばれた女の子は不機嫌そうだ。
それもそうだ。待ち合わせに現れた相手が、自分をすっぽかしていきなり知らない男と、話に花を咲かせ始めたのだから。
だが、それも本気で怒っているわけでは、なさそうだ。
「ごめんごめん。ちょっと先輩と会っちゃって」
手を合わせ謝るシェルリアだが、顔には笑顔を浮かべて舌を出している。
てへぺろ、というやつだ。正直かわいい。
どうやら相当に気心が知れた仲のようだ。ガシガシと頭をかいたはーちゃんは、「はぁ」と軽くため息を漏らした後、「まあいいよ」と告げる。
シェルリアとはいい友人らしい。
が、その見た目は一言で言ってしまえば、ギャルだった。褐色の肌に、染めたのか地毛かはわからないが金髪を、お団子にして頭の右側に乗っけている。
ちなみに達志眼によると、胸はシェルリアより大きそうだった。
「センパイねぇ……ってことは、テニス部の? んじゃ、こっちの筋肉おっさん? やっべふけすぎじゃね!?」
先輩と聞き、はーちゃんが目を向けたのは達志……ではなく、猛だ。どうやら体つきからそう判断されたのだろうか。確かに、運動をやっていると思われても仕方ない。
それにしても猛、そこまで老けているとは思えないが……女子高生からすると、そうなのだろうか。
知らないうちにバカにされたっぽくなった猛は、ぷるぷる震えている。これは、ちょっとイライラしてきている。
「ち、違うよ! こっちの人!」
「えぇ……うっそ! こんなナヨったのが!? 超ウケるんですけど!」
いつの時代のギャルだよ、と言いたくなる言葉遣い。
それはそうと、こちらをなめきっているその態度……ちょっとだけイラッとする。ちょっとだけ。ホントだよ。
「は、はーちゃん! す、すみませんお二方……ほら、行くよ!」
「あっはははは!」
これ以上はまずいと思ったのか、バカ笑いしているはーちゃんの背中をいそいそと押していくシェルリア。
元々はーちゃんが座っていた席に戻る途中も、度々シェルリアは頭を下げてきていた。
なんだろう、この組み合わせは。
腐ったエルフとくそったれなギャル。なんと異色の組み合わせだろうか。
「……行くか」
「……そうだな」
嵐が通りすぎたのを確認してから、二人は席を立った。
始めこそ、どうか俺と猛で変な妄想をしないでくれ……と願っていた達志だが、もうそれどころではなさそうだ。
とりあえず店を出てからも、シェルリアはともかくはーちゃんの話題に触れるのは、やめておいた。
それから、たいした話題もないままに歩いていると、プルルル、と着信音が鳴った。
「お、さよな?」
スマホを見ると、そこには幼なじみさよなの名前が表示されていた。
なんだろう。とりあえず、電話に出る。
「はい、もしも……」
『達志くん今暇? 学校休みだよね、部活も休みだよね、リミちゃんから聞いたよ! ってわけでウチに来てくれない? もしかしてお友達と一緒? え、猛くん? なら二人でおいでよ! ってか来て!』
「……はい」
電話に出て、聞かれるままに答え、すごいまくしたてられ、電話が切れた。
訳も分からないまま、その後さよなの家に行った。
出迎えるさよな。挨拶もそこそこに、あれよあれよと部屋に連れていかれた。
初めて入る、十年後のさよなの部屋。それにドキドキする……まもなく、ポーズを取らされ、十分が経過していた。
「……なあ、今どうしてこんなことになってんだっけ」
「さあ……」
理由も説明されないまま、ポーズを取らされ、達志と猛は、混乱している。
混乱している、としか言葉が出てこないほどに、混乱している。
二人は、指示された通りにポーズを取り、かれこれは同じ姿勢なのだ。たとえ動かなくていいとわかっていても、長い時間同じ姿勢でいろと言われるのはつらい。
いや、動いてはいけない、というのはつらい。
どうしてこんなことをしているか、その理由を聞きたいのだが……
「ほら、二人とも、動かない」
「「はい……」」
目の前の美少女……幼なじみである五十嵐 さよなは、その隙も与えてくれない。
普段物静かな彼女が、物事に打ち込む姿は、真剣そのものだ。
紙になにか描いているようなので、デッサンをしているのだろうか。職業がデザイナーの彼女がこうしているということは、なにか仕事でもしているのだろうか。
それにしても、自分たちがポーズを取る理由がわからないが。
真剣に取り組むその姿に、幼なじみとはいえ思わず見惚れてしまう。
彼女が大人になっていれば、なおさらだ。十年分の、大人の色気というやつが出ている。
黒いタイトスカートから伸びた脚は、黒タイツにより覆われている。
なんでスーツなんだろう、と突っ込みたくなる格好ではあるが……美人のスーツ姿というのは、なんかこう、ぐっとくる。
(脚長っ……それに、やっぱきれいな顔してるよな。物静かだからミステリアス美少女って人気あったもんな。
物静かな分大人になって、妖艶さも合わさったというか……いかんいかん。さよなは猛が好きなんだ、そんな変な目で見ては……)
「達志くん、ぼけっとしない!」
「ほぁ!?」
同じ姿勢を続けてばかりで、退屈だったからであろう。考え事にふけっていた達志に、怒鳴るような声。
気づけばさよなの顔が、目の前にあるではないか。
これには思わず、変な声が出てしまう。
「さ、さよな? あの、顔ちかっ……」
「あんまりぼーっしないの。これは達志くんのためでもあるんだから」
見慣れたはずの、見慣れていない幼なじみの顔。それが目の前にある。
やはり面影はあるとはいえ、美少女から美女になった彼女の顔が至近距離にあるというのは、心臓に悪い。
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