目覚めた世界は異世界化? ~目が覚めたら十年後でした~

白い彗星

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第三章 変わったことと変わらないこと

第113話 エル腐

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 疑惑のシェルリア。

「なら、明日はマルちゃんと相撲でもしてみようかな……」

「ホントですか!?」

 試しに、カマをかけてみる。もちろん本当に相撲するわけではないし、あくまで反応を調べるだけだ。
 すると、予想以上に食いついてきた。怖い。

「ででででしたら、二人激しく絡み合う感じでお願いします! 友情を深めあった二人が「これからも俺の特訓に付き合ってくれるか」「特訓? お前のすべてに付き合ってやるよ」「バカヤローお前、バカヤロー」みたいなやり取りを交わして!
 その後二人で共に流した汗を流すために二人でお風呂にでも入ってお互いの背中を流してさらに友情を深めてむしろ深める以上までいってもらえると言うことなしなのですが!」

「…………」

 とても綺麗な顔を寄せられ、その口からとても信じがたいこと場を聞いた。聞き違いと思いたいが、さすがに無理だろう。
 目を輝かせ、頬を赤らめ、ちょっと興奮して。まるで、好きな人への告白を語ったみたいだ。
 もしもこれが、自分に対する好意なのだとしたら、言うことなしだ。

 語ったのは、達志とマルクスの……まあしっぽりとした願望だが。

 隠すつもりがないのか、それとも歯止めが効かなくなったのかは知らないが。
 とにかく、一つ言えることがある。

(こいつ、腐ってやがる……エルフじゃねえ、エル腐だ)

 人は見かけによらない、ということだ。

「し、シェルリア……さん?」

「うへ、へへ、ぐぅへへへへ……」

 すでに達志の存在がないものとされているのか、達志の声が届いていない。
 美少女が、しちゃいけない顔でしちゃいけない笑い方をしている。

 その様子に……達志の中の、何かが崩れ去っていく気がした。

(俺の中の、エルフのイメージが……!)

 エルフといえば、森の妖精。
 きれいな金色の髪に、きれいな白い肌。瞳は宝石のように緑色に輝き、そしてエルフの最大の特徴である、尖った耳。

 そのすべての見た目を兼ね備えているエルフ、シェルリア・テンは……しかし、達志の中のイメージと、大きく崩れていた。
 初めて会った時……いや、つい最近までも、まるで本物の妖精のようだと、感じていたのに。

 まさか、達志とマルクスを二人きりにして、いろいろな想像を膨らませているとは、想像すらしていなかった。

「あ、では先輩! そろそろ時間になるので、失礼しますね!」

「え? あ、あぁ……うん、はい」

 友達を待っている、そのついでに達志を待っていたシェルリア。
 彼女は、時計を確認すると、先ほどまでの顔が嘘のような眩しい笑顔を、浮かべる。

 もしや彼女は二重人格なのでは? そう思ってしまうほどに、別人だと感じされる。
 だが、悲しいことにこれは、事実だ。

 そして気になるのが、シェルリアの本性を……彼女がエル腐であることを、他の人も知っているのか、ということだ。
 本人から、言われたわけではない。だが、あれだけの反応を見せられれば、誰だって腐っていると気づく。

 周囲は、彼女が腐っていると知っているのだろうか。

「……どうでも、いいか」

 こんな秘密、とてもではないが一人で抱えきれない。後輩の美少女エルフが、自分と副部長を餌にご飯を食べているかもしれないと。
 だが、こんなこと誰にでも話せることじゃないし、相手がシェルリアの本性を知らなければ「なに言ってんだこいつ」と思われるだけだ。

 ここは、秘密を共有できる人間を見つけるまで、なんとか黙っておいた方がよさそうだ。

「はぁ、帰ろう」

 もう暗くなってくる。いつまでも、一人でテニスコートにい残っているわけにも、いかない。
 達志は立ち上がり、部室へと歩き出す。

 まさか、後輩美少女エルフの知りたくなかった一面を、知ってしまうとは……今日、ちゃんと寝られるだろうか。

「……そうだ」

 部室で着替えている最中、スマホを取り出す。
 この世界で目覚めてからそれなりに経つが、まだスマホウとやらは手に入れていない。別になくても生活できているし、どうやらスマホとスマホウでちゃんと通信できるみたいだ。

 なら、まだ使えるわけだし、わざわざ今のスマホを手放す必要もない。
 空間でぽちぽちやるのはちょっと楽しそうだが、買い替えることになったら考えよう。

 さて、電話帳を開き、その中で目当ての名前を探す。
 画面をスクロール。元々身内以外とあまりやり取りをしていたわけではないが、この中のほとんどは今どうしているんだろうか。

「お、あった」

 探し出したのは、幼なじみ茅魅 猛かやみ たけるの名前だ。
 彼にメッセージを送る。週末、暇だったら飯でも食いに行かないかと。男二人で。

 先ほどのシェルリアの件、思い切って猛に聞いてみようと思ったのだ。もちろん、諸々の名前は伏せる、遠回しに聞くつもりだ。
 男二人なのは、由香やさよなにこんな話聞かせられない、という問題からだ。

 数分後、返信が来た。予定はないので、ぜひ行こうぜというものだった。場所や時間は、また追々。

 週末、幼なじみとの昼食会。その内容が、腐ったエルフの対処に関するものだとは、猛はまだ知らない。
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