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第三章 変わったことと変わらないこと
第111話 ツンデレじゃん?
しおりを挟む思ったよりもすんなりとマルクスの協力を取り付けられ、これで一安心だ。
それはそれとして……
「……なんかめちゃめちゃ熱い視線を感じるんだけど」
先ほどから、こちらを覗いているシェルリアに、ジェスチャーで『成功だ』と伝えようとしたのだが……その彼女から、いやに熱い視線を感じる。
……そんなに、マルクスにちゃんと頼めるかどうか、心配だったのだろうか。
「なあ、シェルリアって心配性な性格なのか?」
「テンか? そんなことはないが……まあ、頼み事を断れない、押しに弱い性格ではあるかもな。
それがいいことか悪いことかは、時と場合によるがな」
同じ部活仲間からの評価。それは見た目からもある程度読み取れた、押しに弱いというものだった。
見た目だけでいうならリミも同様っぽいが、リミは告白をばっさり断る心気がある。氷のような心根が。
となるとシェルリアは、告白はちゃんと断れているのか。逆にこちらが心配になってくる。
あれで告白されない、ということもないだろうし。
「でも……押しに弱いってわりには、さっき俺をぐいぐい押してったよなー」
先ほど、マルクスに頼み事をするように進言したシェルリアは、達志をぐいぐい押していった。とても押しに弱い性格には見えなかったが……
まあ時によるのか、それとも人によるのか。
なにはともあれ、シェルリアの押しのおかげでこれから体育祭まで、マルクスの厳しい指導を受けられるようになったのは、確かだ。
彼なら、達志の体力に合った練習プランを用意してくれるだろう。
「ま、いいや。ともあれこれからよろしくな、マルちゃん!」
「誰がマルちゃんだ」
副部長を任せられるだけあって、テニスの実力は他を圧倒している。
それだけでなく、人並み以上に体力があるのは、これまで見てきてわかっている。
練習を始める前に軽く……軽く三キロのジョギングをした後、腕立て伏せ腹筋スクワットそれぞれ百回を三セット。素振りを百回通した後に、ようやく練習に入るのだが、それで息切れすら起こしていない程度には、馬鹿げた体力の持ち主である。
このメニューは、マルクスオリジナルのものだ。強制はないが、他の部員もやっている……
とはいえ、当然距離や回数は少なくしているが。でなければ、体力以上に時間が消費されるだけだ。
マルクスとしては、体を作ることも大事だがそれ以上に、コートに立ってボールに慣れておけとのこと。なので筋トレで時間をつぶすようなことは避けろと。
さすがは副部長、素晴らしい思いやりである。
ちなみに達志は、一キロ走りきれる程度で、その後の筋力トレーニングは無理だ。よって、玉打ちに時間を割いている。
『貴様が一キロ走りきる間にボクは五キロ走りきる……はぁ、なんて情けない。時間の無駄だからラケットの握り方でも勉強していろ』
こう言われたときには、さすがに心にクリティカルヒットが入った。
返す言葉もないのが余計に悲しかった。
「せんぱーい、お疲れ様でーす」
とまあ、嫌なことを思い出してしまったが。そんな人並み以上の体力野郎マルクスの指示の下ならば、今以上に体を鍛えられることは間違いない。
とりあえず今は忙しいからと、約束を取り付けたのみで終わる。
戻ってきた達志を、シェルリアが手を振りながら迎えていた。
「あ、どうも。なんとかオーケーだったよ」
「むふふ、そうですか……それは大変喜ばしいですね!」
ひとまずは、成功を喜んでくれているのだろうか。
それにしても、マルクスに指導をしてもらう許可をもらっただけで、こうも嬉しそうにするとは。
「ちょっと意外だったけどね。「体力のない貴様を指導するなんて時間の無駄だ」とか言われると思ってたんだけど」
「マル先輩、ああ見えて面倒見いいですから」
「ふむ」
見た目は、子供が見たら一発で泣いてしまうであろう顔をしているのに……その中身は、なかなかに面倒見のいい奴らしい。
ただ、リミ関連になると容赦がないのは勘弁してほしいな、とは本心から思うのだが。
「それに、部活対抗の競技もあることですし」
くすくすと笑いながら、指を立てて話す後輩エルフ様の姿は、やはり絵になる。
これを写真に撮っただけで、売れるんじゃないだろうか。
「あ、やっぱりあるんだ、部活対抗」
「はい。去年見学に来たときにやっていたのは、部活対抗リレーですね。白熱で面白かったです」
部活対抗リレー……とはなるほど、十年前とは変わってない競技も、当然あるらしい。
「なるほど。それは部員たちには、頑張ってほしいな」
マルクスはきっと、勝ちを取りに行くタイプだ。そして勝ちにこだわるなら、体力のない達志を競技に出す必要は、ない。
まさか全員出場しなければいけないルールがあるわけでもなし。
体力のない人間を出さず、体力のある人間で固めるのが合理的だろう。きっと達志がマルクスでもそうする。
まあマルクスにメンバーを選ぶ権利があるかは知らないが。
どのみち、達志は体育祭で恥をかかない程度に、鍛えられればいいのだ。
部活対抗リレーなど、縁のない話だろう。
「ふふ……実は聞いちゃったんですよ、マル先輩と部長が話してるの。あ、これ内緒ですよ」
「聞いちゃった?」
「はい。
やるからには勝つ、が、まずは楽しむことが第一。十年も眠ってて、いろんな楽しみを味わえなかったイサカイには、勝つことよりも楽しむことを優先して参加してほしい……って。
なので、もしかしたら先輩も、部活対抗リレーに出られるかもしれませんよ」
「……マジっすか」
「マジっす」
二人の会話……そして、マルクスの声マネをするシェルリア。マルクスの言葉が、にわかには信じられない。
そんなこと一言も、態度にすら出していなかったのに。
これでは、まるで……
「マジもんのツンデレじゃんかマルちゃん……」
なんだこれ、めちゃくちゃいい奴じゃないか。
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