目覚めた世界は異世界化? ~目が覚めたら十年後でした~

白い彗星

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第三章 変わったことと変わらないこと

第101話 応援します!

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 わさびを飲むJK。

「五年前から一般普及して、今も人気商品なんですけどねぇ。それに今、女子高生の間では人気ですよ?」

 ぐびぐびと、リミはわさびを飲む。

「えぇえ……」

 それを、げんなりした様子で聞く由香。五年も前から出回っていて、なにかトラブルがないということは、ヤバいものではなくちゃんとした商品だということか。
 それにしても女子高生に人気だとか、なんの冗談だ。
 そういえばよく、校内の自販機から飲み物を買った生徒が、緑色の缶を持っているが……その正体はこれか。

 学校の自販機にまであるとは。今まで気にしたことがなかった。そして好んで炭酸わさびを飲む女子高生……なんだこのカオス。

「ま、飲み物にまで口出しする権利はないんだけどさ……」

 なんであれ、好きならそれでいい。教師とはいえ、飲み物だのなんだのと、そこまで口出しをするわけにもいかないし。
 思って、コーラを飲む。うん、やっぱりこれだよこれ。体に染み渡る、この感覚。たまらない。

 このわさび味……考えないようにしよう。

「ところで、由香さんはいつタツシ様に告白するんですか?」

「ぶふぅ!」

 油断していた。すっかり油断していた。
 コーラを飲んでいた最中に、とんでもない爆弾を投下されたものだから、あまりの衝撃にコーラを吹き出してしまう。

 その際、近くを歩いていた通行人の男性に、思い切りぶっかけてしまった。慌ててこちらが謝るも、「ありがとうございますっ」となぜかものすごい勢いでお礼を言われた。
 かけたコーラを拭く間もなく行ってしまった。

「……大丈夫ですか?」

「げほぐほ! な、なにをいきなり……」

 気管に入った。咳き込み、涙目になってしまう。

「だって、想いを寄せていた相手が目覚めたんですよ? 十年ぶりに。これはいくしかないですよ!」

 目をキラキラさせて、ぐっと拳を握っている。
 その際持っていた缶がベコッとへこんでしまうが、飲みきっていたのか中身がこぼれることはなかった。

 いつ告白するかなんて、全く予想していなかった発言に、戸惑ってしまう。そして思った以上にキラキラしたリミの瞳の前に、さすがの由香も困惑気味だ。

「そ、それはまだ、心の準備が……」

「由香さんって、そんなに悩むタイプだったんですか」

「ぐふっ」

 ストレートな言葉に、由香がダメージを負う。普段からそう思われていたのだろうか。リミはナチュラルに、相手にダメージを与えることがある。
 とはいえ、由香は思考型よりも行動型寄りなのは確かだ。

 そもそも心の準備と言ったって、達志が眠っている間にも十年の時間があったのだ。時間の問題でいえば、充分すぎる。
 ……ただ……

「やっぱり、いざたっくんが起きたら、言おうと思ってた気持ちが揺らいじゃって……」

「なんでしょうこの乙女。くねくねしてるのが妙にえろかわいいです」

 本人を目の前にすると、決心が鈍る。自分の中に募ったこの想いは、嘘ではないのに。
 ……それに、だ。一番の理由は……

「たっくんは確かに目を覚ましてくれた。それは嬉しい。でも……たっくんはあの頃と変わらないまま。私は、十歳も年をとっちゃった」

 十年前までは、同い年で同じ世界を過ごしていた。だが今は違う。
 教師と生徒という関係ももちろんあるが、それ以上に離れてしまった時間。

 達志よりも、十年の歳月を過ごし、年を重ねた。やっぱり達志の年頃なら、同じくらいの女の子と付き合ったりしたいものでは、ないだろうか。
 大人になってしまった自分が、達志に想いをぶつけたところで……それはただの迷惑になるのではないか。
 そんな気持ちが、拭えない。

 こんな想い、さよなにだって、ちゃんと話したことはない。リミが初めてだ。
 そして、この想いを聞いたリミはというと……

「申し訳ありません……」

 めちゃくちゃしゅんとしていた。耳はへたれ、さっきまではきはきしていたのが、嘘のように落ち込んでいる。
 というか泣きそうだ。

「……あっ。そ、そういう意味じゃないんだよ!?」

 そこで、気づく。
 達志と由香たちの間に、十年間の溝を作ってしまったリミの前でこんなことを言えば、それは当然リミに大きな負担となって、のし掛かる。

 気にしてないと言いつつ、こんなことをリミの前で言ってしまうなんて。ああもう私、なにやってんだ。
 慌てて、違うよ違うよと告げる。

「あ、あくまで理由の一つだから、ね! それにたっくん、年上好きかもしれないし、むしろこれってチャンスなのかなぁ!」

 自分で年齢差を気にした発言をしておきながら、これはチャンスだと手のひらを返す矛盾っぷり。自分でもなに言ってるのかわからなくなってきた。
 そこへ、いきなり顔を上げたリミが言う。

「由香さん……私、由香さんがタツシ様に想いを伝えられるよう、協力します! 応援します!」

「えぇっ?」

 リミも、なにを言ってるのかわかってるのだろうか。落ち込んでいる最中に、なにかの決意でも固めたらしい。
 胸元に持ってきた手を、ぐっと握りしめている。

 ちなみに持っていた缶は、もうベッコベコだ。

「由香さんのお手伝い……それが、由香さんに対する私の償いです!」

「えぇっと……」

 償いだと、そんなことまで言われてしまった。
 この目はあれだ、こうと決めたら引き下がらない目だ。昔から見ているからわかる。

 その気持ちは、嬉しかったりもする。応援してくれるのは純粋に嬉しい。
 ただ……それが、償いという義務感に押し潰された故の気持ちなら、そうは思えない。

「応援、協力は嬉しいんだけど……いいの? リミちゃんは」

「え?」

 由香の気持ちを応援……その気持ちに、本当に迷いも何もないのなら、大歓迎である。
 だがそうでないのなら……

「私がたっくんに告白したとして、もし付き合うなんてことになったら……リミちゃんは、本当にそれでいいの?」

 まだ恋も知らないこの子に、辛い気持ちを強いることになるかもしれない。そう、心配があった。

「えぇ、タツシ様と由香さん、大好きな二人がくっつくなら、これ以上の幸せはありませんよ」

 そんな心配をよそに、リミは迷いも何もない、ただ純粋な笑顔で答えるのだった。


 ……その後、帰宅したリミは、まだ帰ってきていない達志を気にして、ルーアに電話を掛けた。
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