102 / 184
第三章 変わったことと変わらないこと
第101話 応援します!
しおりを挟むわさびを飲むJK。
「五年前から一般普及して、今も人気商品なんですけどねぇ。それに今、女子高生の間では人気ですよ?」
ぐびぐびと、リミはわさびを飲む。
「えぇえ……」
それを、げんなりした様子で聞く由香。五年も前から出回っていて、なにかトラブルがないということは、ヤバいものではなくちゃんとした商品だということか。
それにしても女子高生に人気だとか、なんの冗談だ。
そういえばよく、校内の自販機から飲み物を買った生徒が、緑色の缶を持っているが……その正体はこれか。
学校の自販機にまであるとは。今まで気にしたことがなかった。そして好んで炭酸わさびを飲む女子高生……なんだこのカオス。
「ま、飲み物にまで口出しする権利はないんだけどさ……」
なんであれ、好きならそれでいい。教師とはいえ、飲み物だのなんだのと、そこまで口出しをするわけにもいかないし。
思って、コーラを飲む。うん、やっぱりこれだよこれ。体に染み渡る、この感覚。たまらない。
このわさび味……考えないようにしよう。
「ところで、由香さんはいつタツシ様に告白するんですか?」
「ぶふぅ!」
油断していた。すっかり油断していた。
コーラを飲んでいた最中に、とんでもない爆弾を投下されたものだから、あまりの衝撃にコーラを吹き出してしまう。
その際、近くを歩いていた通行人の男性に、思い切りぶっかけてしまった。慌ててこちらが謝るも、「ありがとうございますっ」となぜかものすごい勢いでお礼を言われた。
かけたコーラを拭く間もなく行ってしまった。
「……大丈夫ですか?」
「げほぐほ! な、なにをいきなり……」
気管に入った。咳き込み、涙目になってしまう。
「だって、想いを寄せていた相手が目覚めたんですよ? 十年ぶりに。これはいくしかないですよ!」
目をキラキラさせて、ぐっと拳を握っている。
その際持っていた缶がベコッとへこんでしまうが、飲みきっていたのか中身がこぼれることはなかった。
いつ告白するかなんて、全く予想していなかった発言に、戸惑ってしまう。そして思った以上にキラキラしたリミの瞳の前に、さすがの由香も困惑気味だ。
「そ、それはまだ、心の準備が……」
「由香さんって、そんなに悩むタイプだったんですか」
「ぐふっ」
ストレートな言葉に、由香がダメージを負う。普段からそう思われていたのだろうか。リミはナチュラルに、相手にダメージを与えることがある。
とはいえ、由香は思考型よりも行動型寄りなのは確かだ。
そもそも心の準備と言ったって、達志が眠っている間にも十年の時間があったのだ。時間の問題でいえば、充分すぎる。
……ただ……
「やっぱり、いざたっくんが起きたら、言おうと思ってた気持ちが揺らいじゃって……」
「なんでしょうこの乙女。くねくねしてるのが妙にえろかわいいです」
本人を目の前にすると、決心が鈍る。自分の中に募ったこの想いは、嘘ではないのに。
……それに、だ。一番の理由は……
「たっくんは確かに目を覚ましてくれた。それは嬉しい。でも……たっくんはあの頃と変わらないまま。私は、十歳も年をとっちゃった」
十年前までは、同い年で同じ世界を過ごしていた。だが今は違う。
教師と生徒という関係ももちろんあるが、それ以上に離れてしまった時間。
達志よりも、十年の歳月を過ごし、年を重ねた。やっぱり達志の年頃なら、同じくらいの女の子と付き合ったりしたいものでは、ないだろうか。
大人になってしまった自分が、達志に想いをぶつけたところで……それはただの迷惑になるのではないか。
そんな気持ちが、拭えない。
こんな想い、さよなにだって、ちゃんと話したことはない。リミが初めてだ。
そして、この想いを聞いたリミはというと……
「申し訳ありません……」
めちゃくちゃしゅんとしていた。耳はへたれ、さっきまではきはきしていたのが、嘘のように落ち込んでいる。
というか泣きそうだ。
「……あっ。そ、そういう意味じゃないんだよ!?」
そこで、気づく。
達志と由香たちの間に、十年間の溝を作ってしまったリミの前でこんなことを言えば、それは当然リミに大きな負担となって、のし掛かる。
気にしてないと言いつつ、こんなことをリミの前で言ってしまうなんて。ああもう私、なにやってんだ。
慌てて、違うよ違うよと告げる。
「あ、あくまで理由の一つだから、ね! それにたっくん、年上好きかもしれないし、むしろこれってチャンスなのかなぁ!」
自分で年齢差を気にした発言をしておきながら、これはチャンスだと手のひらを返す矛盾っぷり。自分でもなに言ってるのかわからなくなってきた。
そこへ、いきなり顔を上げたリミが言う。
「由香さん……私、由香さんがタツシ様に想いを伝えられるよう、協力します! 応援します!」
「えぇっ?」
リミも、なにを言ってるのかわかってるのだろうか。落ち込んでいる最中に、なにかの決意でも固めたらしい。
胸元に持ってきた手を、ぐっと握りしめている。
ちなみに持っていた缶は、もうベッコベコだ。
「由香さんのお手伝い……それが、由香さんに対する私の償いです!」
「えぇっと……」
償いだと、そんなことまで言われてしまった。
この目はあれだ、こうと決めたら引き下がらない目だ。昔から見ているからわかる。
その気持ちは、嬉しかったりもする。応援してくれるのは純粋に嬉しい。
ただ……それが、償いという義務感に押し潰された故の気持ちなら、そうは思えない。
「応援、協力は嬉しいんだけど……いいの? リミちゃんは」
「え?」
由香の気持ちを応援……その気持ちに、本当に迷いも何もないのなら、大歓迎である。
だがそうでないのなら……
「私がたっくんに告白したとして、もし付き合うなんてことになったら……リミちゃんは、本当にそれでいいの?」
まだ恋も知らないこの子に、辛い気持ちを強いることになるかもしれない。そう、心配があった。
「えぇ、タツシ様と由香さん、大好きな二人がくっつくなら、これ以上の幸せはありませんよ」
そんな心配をよそに、リミは迷いも何もない、ただ純粋な笑顔で答えるのだった。
……その後、帰宅したリミは、まだ帰ってきていない達志を気にして、ルーアに電話を掛けた。
10
お気に入りに追加
298
あなたにおすすめの小説

異世界でネットショッピングをして商いをしました。
ss
ファンタジー
異世界に飛ばされた主人公、アキラが使えたスキルは「ネットショッピング」だった。
それは、地球の物を買えるというスキルだった。アキラはこれを駆使して異世界で荒稼ぎする。
これはそんなアキラの爽快で時には苦難ありの異世界生活の一端である。(ハーレムはないよ)
よければお気に入り、感想よろしくお願いしますm(_ _)m
hotランキング23位(18日11時時点)
本当にありがとうございます
誤字指摘などありがとうございます!スキルの「作者の権限」で直していこうと思いますが、発動条件がたくさんあるので直すのに時間がかかりますので気長にお待ちください。
『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!(改訂版)
IXA
ファンタジー
凡そ三十年前、この世界は一変した。
世界各地に次々と現れた天を突く蒼の塔、それとほぼ同時期に発見されたのが、『ダンジョン』と呼ばれる奇妙な空間だ。
不気味で異質、しかしながらダンジョン内で手に入る資源は欲望を刺激し、ダンジョン内で戦い続ける『探索者』と呼ばれる職業すら生まれた。そしていつしか人類は拒否感を拭いきれずも、ダンジョンに依存する生活へ移行していく。
そんなある日、ちっぽけな少女が探索者協会の扉を叩いた。
諸事情により金欠な彼女が探索者となった時、世界の流れは大きく変わっていくこととなる……
人との出会い、無数に折り重なる悪意、そして隠された真実と絶望。
夢見る少女の戦いの果て、ちっぽけな彼女は一体何を選ぶ?
絶望に、立ち向かえ。

転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す
エルリア
ファンタジー
【祝!第17回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞!】
転売屋(テンバイヤー)が異世界に飛ばされたらチートスキルを手にしていた!
元の世界では疎まれていても、こっちの世界なら問題なし。
相場スキルを駆使して目指せ夢のマイショップ!
ふとしたことで異世界に飛ばされた中年が、青年となってお金儲けに走ります。
お金は全てを解決する、それはどの世界においても同じ事。
金金金の主人公が、授かった相場スキルで私利私欲の為に稼ぎまくります。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

スキルガチャで異世界を冒険しよう
つちねこ
ファンタジー
異世界に召喚されて手に入れたスキルは「ガチャ」だった。
それはガチャガチャを回すことで様々な魔道具やスキルが入手できる優れものスキル。
しかしながら、お城で披露した際にただのポーション精製スキルと勘違いされてしまう。
お偉いさん方による検討の結果、監視の目はつくもののあっさりと追放されてしまう事態に……。
そんな世知辛い異世界でのスタートからもめげることなく頑張る主人公ニール(銭形にぎる)。
少しずつ信頼できる仲間や知り合いが増え、何とか生活の基盤を作れるようになっていく。そんなニールにスキル「ガチャ」は少しづつ奇跡を起こしはじめる。

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

家の猫がポーションとってきた。
熊ごろう
ファンタジー
テーブルに置かれた小さな瓶、それにソファーでくつろぐ飼い猫のクロ。それらを前にして俺は頭を抱えていた。
ある日どこからかクロが咥えて持ってきた瓶……その正体がポーションだったのだ。
瓶の処理はさておいて、俺は瓶の出所を探るため出掛けたクロの跡を追うが……ついた先は自宅の庭にある納屋だった。 やったね、自宅のお庭にダンジョン出来たよ!? どういうことなの。
始めはクロと一緒にダラダラとダンジョンに潜っていた俺だが、ある事を切っ掛けに本気でダンジョンの攻略を決意することに……。

ペット(老猫)と異世界転生
童貞騎士
ファンタジー
老いた飼猫と暮らす独りの会社員が神の手違いで…なんて事はなく災害に巻き込まれてこの世を去る。そして天界で神様と会い、世知辛い神様事情を聞かされて、なんとなく飼猫と共に異世界転生。使命もなく、ノルマの無い異世界転生に平凡を望む彼はほのぼののんびりと異世界を飼猫と共に楽しんでいく。なお、ペットの猫が龍とタメ張れる程のバケモノになっていることは知らない模様。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる