96 / 184
第二章 異世界っぽい世界で学校生活
第95話 男と同棲してまして
しおりを挟む男と同棲しているらしいルーア。一人暮らしだと言っていたではないか、という恨み言は、今は置いておこう。
今は留守にしているらしいので、今のうちに帰ろうと思っていた矢先……
チャイムが、響いた。
それに、去ろうとしていた足が止まってしまう。これかまさか、彼とやらが帰ってきたのでは?
その音に、いの一番に反応したのはルーアだった。
「お! 彼です! 彼が帰ってきましたよ!」
「え、何でわかるの!」
「この音の感じは彼です!」
「どういうこと!?」
タタタッと駆けていくのを、ただ見ているしかない。仕方ない、こうなれば必死に説明するしかない。自分はただのクラスメイトで、やましいことは何もないと。
諦めの境地。物事には、諦めも必要だ。
ルーアもルーアだ。同棲している彼がいるのに、他の男を連れ込むなんてなにを考えているのか。
「お帰りなさい、ベアくん!」
「ガウ!」
まあどちらにしても、勘違いしてしまうであろう彼には、誤解を生まない説明を……
「……ガウ?」
今、変な声が、鳴き声のようなものが聞こえた気がする。しばしの思考中断。なんなんだろう、この違和感。
勇気を出して、玄関に向かう。
するとそこにいたのは……
「お、タツ、紹介しますね! こちら同棲中のベアくんです!」
「ガウア!」
「クマじゃねぇか!」
でっかいクマがいた。玄関の扉よりもでかい。でかい体を縮こまらせて、入ってくる。
「彼って、まさか……」
「はい、くまのベアくんで……」
「名前が安直すぎる!」
その場に崩れ落ちる。なんかもう、いろいろとキャパオーバーだ。
ルーアの生い立ちだけでもいっぱいいっぱいだというのに、その上クマと同棲だと。
「なんだよこの、思いついたんで取ってつけてみましたみたいな展開はよぉ!」
「やっはタツは、たまにわけのわからないことを言いますね」
「わけのわからないのはお前だよ!」
返ろうとしていた達志は、部屋に戻された。
「それでー、絶対キャシーはカロンのこと好きだと思うんですよねー!」
「ガウガウ!」
「……」
現在再び部屋に戻り、三人……正確には二人と一匹で、テーブルを挟み円になって、床に座っている。
盛り上がるルーアとクマ……ルーア曰く名前ベアくん……は笑いながら、話し合っている。
話し合うとはいっても、達志の目にはルーアが一方的に喋っているようにしか見えないのだが。それでも、相づちを打っているあたり、人の言葉はわかるらしい。
クマってあんな風に笑うんだなとか、そもそもなんでクマと普通に会話成立してんだろうなとか、いろいろ思うところはあるが……
(なんで俺、中二病とクマと仲良くテーブル囲んで恋ばなしてんだろーな……)
完全に帰るタイミングを逃し、なぜか会話が恋ばなに発展してしまい、今に至る。
ちなみに今話題に上がったのは、クラスメイトのキャシーという女子とカロンという男子である。クラス内の恋模様を、ルーア目線で面白おかしく語っている。
達志としても、恋ばなに興味がないわけではない。他人の恋愛ほど面白いものはない、と達志は考えているからだ。
だからこうして、恋ばなに参戦するのもやぶさかではない。
とはいえ……なぜ、初対面のクマと一緒になって、楽しく笑いあわなければいけないのだろうか。いや、今達志は全く笑ってないけども。
(帰りてぇ……)
切に思う。あの時もう少し早く帰ろうと考えてればなとか、そんなことを考えるが、後の祭りだ。
今からでも帰ると言い出せばいいのだが、このクマの気性がわからない以上、下手なことを言えば切り裂かれかねない。
その結果、ルーアとクマの今夜のご飯になるのはごめんだ。
もちろん、そんな物騒なことにはならないと信じたいのだが……
(熊……熊だもんなぁ)
当たり前だが、クマと同じ空間で過ごしたことなどない。それにルーア曰く、ベアくんは彼……つまり男だ。
同棲している女の子が見知らぬ男を連れ込んでいたら、いい気持ちでいるはずがない。普通の男なら。
まあ、それは人間での話。ベアくんは普通どころか人間ですらない。
ベアくんの心境はわからないし、そもそもルーアのことをどう思っているのか。そして逆もだ。
「なぁ、二人はどんな関係なんだ?」
思い切って、聞いてみる。盛り上がっていた二人はピタリと止まり、うーんとルーアが何かを考えている。
顎に指を当てている仕草が、なんだかあざとい。
「ベアくんはですねー、私の家族。お兄ちゃんみたいなものですね」
「おにっ……!?」
予想外過ぎる答えが返ってきた。一つ屋根の下に住んでいるのだから、ある程度以上に親密度は高いと思っていたが……まさかお兄ちゃんとは。
それを聞いたベアくんは、初見でもわかるくらいの照れ笑いを浮かべている。
頬を染めるな頬を。「俺がお兄ちゃんだ!」って言い出しそうだ。
「こうやって抱き着くと、もふもふしてあったかいんですよぉ。彼が来てくれてからは、夜も寂しくなくなりましたし」
「ガウッ」
もふっ、と、女子高生がクマに抱き着くという奇想天外な光景が広がっている。
ルーアはベアくんのお腹に頬擦りし、ベアくんはルーアの頭を撫でている。その様子は、まるで本物の兄弟のよう。
なるほど、ベアくんもルーアのことを妹のように思っているようだ。
そして、何気なく語ったが……彼が来てからは夜も寂しくなくなった、とルーアは言った。それは、両親を失ったルーアの悲しみを、見事にベアくんが埋めてくれたということだろう。
10
お気に入りに追加
298
あなたにおすすめの小説

異世界でネットショッピングをして商いをしました。
ss
ファンタジー
異世界に飛ばされた主人公、アキラが使えたスキルは「ネットショッピング」だった。
それは、地球の物を買えるというスキルだった。アキラはこれを駆使して異世界で荒稼ぎする。
これはそんなアキラの爽快で時には苦難ありの異世界生活の一端である。(ハーレムはないよ)
よければお気に入り、感想よろしくお願いしますm(_ _)m
hotランキング23位(18日11時時点)
本当にありがとうございます
誤字指摘などありがとうございます!スキルの「作者の権限」で直していこうと思いますが、発動条件がたくさんあるので直すのに時間がかかりますので気長にお待ちください。
『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!(改訂版)
IXA
ファンタジー
凡そ三十年前、この世界は一変した。
世界各地に次々と現れた天を突く蒼の塔、それとほぼ同時期に発見されたのが、『ダンジョン』と呼ばれる奇妙な空間だ。
不気味で異質、しかしながらダンジョン内で手に入る資源は欲望を刺激し、ダンジョン内で戦い続ける『探索者』と呼ばれる職業すら生まれた。そしていつしか人類は拒否感を拭いきれずも、ダンジョンに依存する生活へ移行していく。
そんなある日、ちっぽけな少女が探索者協会の扉を叩いた。
諸事情により金欠な彼女が探索者となった時、世界の流れは大きく変わっていくこととなる……
人との出会い、無数に折り重なる悪意、そして隠された真実と絶望。
夢見る少女の戦いの果て、ちっぽけな彼女は一体何を選ぶ?
絶望に、立ち向かえ。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

スキルガチャで異世界を冒険しよう
つちねこ
ファンタジー
異世界に召喚されて手に入れたスキルは「ガチャ」だった。
それはガチャガチャを回すことで様々な魔道具やスキルが入手できる優れものスキル。
しかしながら、お城で披露した際にただのポーション精製スキルと勘違いされてしまう。
お偉いさん方による検討の結果、監視の目はつくもののあっさりと追放されてしまう事態に……。
そんな世知辛い異世界でのスタートからもめげることなく頑張る主人公ニール(銭形にぎる)。
少しずつ信頼できる仲間や知り合いが増え、何とか生活の基盤を作れるようになっていく。そんなニールにスキル「ガチャ」は少しづつ奇跡を起こしはじめる。

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

家の猫がポーションとってきた。
熊ごろう
ファンタジー
テーブルに置かれた小さな瓶、それにソファーでくつろぐ飼い猫のクロ。それらを前にして俺は頭を抱えていた。
ある日どこからかクロが咥えて持ってきた瓶……その正体がポーションだったのだ。
瓶の処理はさておいて、俺は瓶の出所を探るため出掛けたクロの跡を追うが……ついた先は自宅の庭にある納屋だった。 やったね、自宅のお庭にダンジョン出来たよ!? どういうことなの。
始めはクロと一緒にダラダラとダンジョンに潜っていた俺だが、ある事を切っ掛けに本気でダンジョンの攻略を決意することに……。

ペット(老猫)と異世界転生
童貞騎士
ファンタジー
老いた飼猫と暮らす独りの会社員が神の手違いで…なんて事はなく災害に巻き込まれてこの世を去る。そして天界で神様と会い、世知辛い神様事情を聞かされて、なんとなく飼猫と共に異世界転生。使命もなく、ノルマの無い異世界転生に平凡を望む彼はほのぼののんびりと異世界を飼猫と共に楽しんでいく。なお、ペットの猫が龍とタメ張れる程のバケモノになっていることは知らない模様。
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる