目覚めた世界は異世界化? ~目が覚めたら十年後でした~

白い彗星

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第二章 異世界っぽい世界で学校生活

第95話 男と同棲してまして

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 男と同棲しているらしいルーア。一人暮らしだと言っていたではないか、という恨み言は、今は置いておこう。
 今は留守にしているらしいので、今のうちに帰ろうと思っていた矢先……
 チャイムが、響いた。

 それに、去ろうとしていた足が止まってしまう。これかまさか、彼とやらが帰ってきたのでは?
 その音に、いの一番に反応したのはルーアだった。

「お! 彼です! 彼が帰ってきましたよ!」

「え、何でわかるの!」

「この音の感じは彼です!」

「どういうこと!?」

 タタタッと駆けていくのを、ただ見ているしかない。仕方ない、こうなれば必死に説明するしかない。自分はただのクラスメイトで、やましいことは何もないと。
 諦めの境地。物事には、諦めも必要だ。

 ルーアもルーアだ。同棲している彼がいるのに、他の男を連れ込むなんてなにを考えているのか。

「お帰りなさい、ベアくん!」

「ガウ!」

 まあどちらにしても、勘違いしてしまうであろう彼には、誤解を生まない説明を……

「……ガウ?」

 今、変な声が、鳴き声のようなものが聞こえた気がする。しばしの思考中断。なんなんだろう、この違和感。
 勇気を出して、玄関に向かう。

 するとそこにいたのは……

「お、タツ、紹介しますね! こちら同棲中のベアくんです!」

「ガウア!」

「クマじゃねぇか!」

 でっかいクマがいた。玄関の扉よりもでかい。でかい体を縮こまらせて、入ってくる。

「彼って、まさか……」

「はい、くまのベアくんで……」

「名前が安直すぎる!」

 その場に崩れ落ちる。なんかもう、いろいろとキャパオーバーだ。
 ルーアの生い立ちだけでもいっぱいいっぱいだというのに、その上クマと同棲だと。

「なんだよこの、思いついたんで取ってつけてみましたみたいな展開はよぉ!」

「やっはタツは、たまにわけのわからないことを言いますね」

「わけのわからないのはお前だよ!」

 返ろうとしていた達志は、部屋に戻された。

「それでー、絶対キャシーはカロンのこと好きだと思うんですよねー!」

「ガウガウ!」

「……」

 現在再び部屋に戻り、三人……正確には二人と一匹で、テーブルを挟み円になって、床に座っている。

 盛り上がるルーアとクマ……ルーア曰く名前ベアくん……は笑いながら、話し合っている。
 話し合うとはいっても、達志の目にはルーアが一方的に喋っているようにしか見えないのだが。それでも、相づちを打っているあたり、人の言葉はわかるらしい。

 クマってあんな風に笑うんだなとか、そもそもなんでクマと普通に会話成立してんだろうなとか、いろいろ思うところはあるが……

(なんで俺、中二病とクマと仲良くテーブル囲んで恋ばなしてんだろーな……)

 完全に帰るタイミングを逃し、なぜか会話が恋ばなに発展してしまい、今に至る。
 ちなみに今話題に上がったのは、クラスメイトのキャシーという女子とカロンという男子である。クラス内の恋模様を、ルーア目線で面白おかしく語っている。

 達志としても、恋ばなに興味がないわけではない。他人の恋愛ほど面白いものはない、と達志は考えているからだ。
 だからこうして、恋ばなに参戦するのもやぶさかではない。

 とはいえ……なぜ、初対面のクマと一緒になって、楽しく笑いあわなければいけないのだろうか。いや、今達志は全く笑ってないけども。

(帰りてぇ……)

 切に思う。あの時もう少し早く帰ろうと考えてればなとか、そんなことを考えるが、後の祭りだ。
 今からでも帰ると言い出せばいいのだが、このクマの気性がわからない以上、下手なことを言えば切り裂かれかねない。
 その結果、ルーアとクマの今夜のご飯になるのはごめんだ。

 もちろん、そんな物騒なことにはならないと信じたいのだが……

(熊……熊だもんなぁ)


 当たり前だが、クマと同じ空間で過ごしたことなどない。それにルーア曰く、ベアくんは彼……つまり男だ。
 同棲している女の子が見知らぬ男を連れ込んでいたら、いい気持ちでいるはずがない。普通の男なら。

 まあ、それは人間での話。ベアくんは普通どころか人間ですらない。
 ベアくんの心境はわからないし、そもそもルーアのことをどう思っているのか。そして逆もだ。

「なぁ、二人はどんな関係なんだ?」

 思い切って、聞いてみる。盛り上がっていた二人はピタリと止まり、うーんとルーアが何かを考えている。
 顎に指を当てている仕草が、なんだかあざとい。

「ベアくんはですねー、私の家族。お兄ちゃんみたいなものですね」

「おにっ……!?」

 予想外過ぎる答えが返ってきた。一つ屋根の下に住んでいるのだから、ある程度以上に親密度は高いと思っていたが……まさかお兄ちゃんとは。
 それを聞いたベアくんは、初見でもわかるくらいの照れ笑いを浮かべている。

 頬を染めるな頬を。「俺がお兄ちゃんだ!」って言い出しそうだ。

「こうやって抱き着くと、もふもふしてあったかいんですよぉ。彼が来てくれてからは、夜も寂しくなくなりましたし」

「ガウッ」

 もふっ、と、女子高生がクマに抱き着くという奇想天外な光景が広がっている。
 ルーアはベアくんのお腹に頬擦りし、ベアくんはルーアの頭を撫でている。その様子は、まるで本物の兄弟のよう。

 なるほど、ベアくんもルーアのことを妹のように思っているようだ。

 そして、何気なく語ったが……彼が来てからは夜も寂しくなくなった、とルーアは言った。それは、両親を失ったルーアの悲しみを、見事にベアくんが埋めてくれたということだろう。
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