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第二章 異世界っぽい世界で学校生活
第94話 ジェンガがぁああああああ
しおりを挟むルーアの口から聞かされた、魔法部の活動内容。
正直、今の話だけだと、ルーアに対する今後の接し方を変えなければならないと思っていたのだが。
「実は、これを提案したのはリミなんですよ」
「リミが?」
そこに出てきた名前に、達志は目を丸くした。完全に予想外だ。てっきり、名ばかりのボランティア活動の発案者も、ルーアだと思っていたのだが。
達志の驚きに、ルーアは「はい」と頷いて……
「魔法部の活動ははじめこそ、魔法を成長させよう、って部活だったんですが……彼女が、せっかくだから人のために魔法を使ってはどうかと言ったんです。
……で、その際に、依頼者からはお金を貰おう、いう話になりまして」
「お金を?」
リミの発案……それはわかった。
しかしリミならば、むしろ無償で奉仕活動をと言いそうだが……
「リミも私の家の事情を知っていたのもありますが……ほら、タダより高いものはない、って言うじゃないですか。
人はタダでなにかしてもらうよりも、お金を払ってでもなにかしてもらったほうが気持ち的に楽なんですよ」
「うーん……まあ、タダでなにか貰うと後からなんか変な要求されそうだし。その気持ちはわかるよ」
「えぇ、つまりそういうことです。それに、例えば魔物退治とかは、業者に頼むよりも格安で受けてますし、そんな法外なお金取ろうってわけじゃないです。
ものによっては、ぶっちゃけノーマネーもあります。けど、基本お値打ち価格でやってますよ」
お金と貰うというからには、逆に言えば半端な仕事はできない。依頼者だけではなく、ルーアたちにとっても、これは新しい試みだ。
……まあぶっちゃけた話、ここで達志がなにをどう思おうと、関係はないのだ。すでにルーアら魔法部の活動は国にも認められ、新聞に載るほどだ。
それで続いているということは、つまりそういうことなのだろう。世間にも、認められていると。
もしかしたら、『学校の活動だからお金をもらうのはどうなんだ』というのも、達志独自の考えなのかもしれない。
だってあれから、十年も経っているのだから。魔物退治なんか、下手をしたら命にもかかわる。この間魔物を目にした達志にはわかる。
それを無償で解決するのも、割に合わない、か。
自身の部活内容について語るルーア。その様子は……お金を貰う貰わないを抜きにしても、魔法部が好きなんだなと思わせるものだった。
「なるほどね」
それからも、いろんなことを話した。魔法部が廃部になりそうだと喚いていた人数不足の件はルーアの勘違いだとわかったり、ルーアはお菓子作りが趣味だとわかったり、なぜか達志の周りの女性関係を聞かれたり。
そして二人は、今……
「よし、この辺か? そーっと……」
「ま、待ってくださいタツ! そこはいけません! 右、右いきましょう!」
「その手には乗らん! そら!」
「うっふぁああああ! ちきしょおぉおおお!」
ジェンガをしていた。木の棒を重ねて塔を作り、塔が崩れないように間の木の棒を抜き取っていく遊びである。
魔法が普及している今の世の中では古典的な遊びではあるが、二人で時間を潰すには最適だった。
ちなみに今、達志に塔を崩させようとしたルーアが隣の棒に誘導しようとしたのだが、失敗に終わったわけだ。
そして次のゲームへ。
「くぬぬ……負けませんよ。すでに四戦四敗……せめて、一度だけでも勝ちたい」
「ジェンガを五回も続けられてる俺自身に驚きだよ」
すでに四回ジェンガを繰り返し、その全てでルーアは塔を崩している。泣きの五回目、なんとか勝ちたかったりするのだ。
「っと、もうこんな時間か……」
「これだけ! せめてこの戦いが終わってから! ね!」
どれだけジェンガの勝ちにこだわるのか、汗を流しながらどの棒を抜くかを迷っている。
もしかして彼女、いつも一人でこんなことをしているんじゃないだろうか。
親はおらず、一人暮らし。しかも学生だ。ともなれば、どうやって時間を潰しているのか。
「なあルーア、なんならもう少しここにいても……」
「あぁあ! 揺れてる! 塔が揺れてる!」
聞いちゃいない。
「あのー?」
「大丈夫、ですよ。お心遣い感謝します、が……別に、一人じゃ、ないですしっ?」
ゆらゆらと揺れる塔。必死に立て直そうとするルーア。言葉の中の違和感に気づく達志。
「うん? 一人じゃない、って。誰か友達と一緒に住んでるとか? 今は留守なのか?」
「とも……うんまあ、そうですね? いやしかし、彼を友達という枠にはめ込んでいいものか……」
木の棒一本に悪戦苦闘しながらも、きっちり話は聞いているらしいルーア。
ルーア曰く、一緒に住んでるらしい誰かは男らしく、しかも友達という枠で収めていいのか微妙なところらしい。
「え、男?マジ?」
その事実に、達志は驚きを隠せない。
男と、一つ屋根の下……サキュバスで夢の話をしていたが、所詮は夢だ。だから、そんな進んでいるとは、思ってもいなかった。
ルーアのことが急に大人に見える。
「え、じゃあ俺がここにいるのヤバいんじゃ……?」
「いやぁ大丈夫でしょう。彼、その辺り寛容ですし」
寛容とは言っても、女の子一人の家に見知らぬ男が乗り込んでいるのだ。
そりゃ向こうに変な勘違いされても仕方ないし、こっちだって気まずい。
「や、そういうわけには。うん、俺はそろそろ帰るよ。その彼によろしくぅ」
「えっ、ちょっとま……あぁあ崩れたぁ! 私のテクニックをもってしてもぉ!」
そそくさと帰ろうとする達志。それに動揺したためか手元がくるい、ジェンガが崩れてしまった。
嘆き悲しむルーアだが、それを気にしてもいられない。
同棲しているという男が帰ってくる前に、一刻も早く去らなければ。最悪、血が流れることに……
ピンポーン
鐘が鳴り響いた。来訪者を告げる鐘だ。
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