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第二章 異世界っぽい世界で学校生活
第87話 似た境遇
しおりを挟むルーアの過去を聞き、達志も自分の話をする。
これまで、誰にも話せなかったことを。母になら話せただろうが……ずっと一人だった母に、ことりの話をするのは、心苦しかった。
「……いた、ですか」
「あぁ。俺にとってはついこないだのことなんだけどさ。……知ってることを言うけど、俺ちょっとドジって車に轢かれちゃって、十年眠ってたのよ。そんで、十年の時を経てようやくお目覚め。
……そん時に、聞いたんだ。ことり……妹が、轢き逃げにあって死んだって」
ルーアに倣って、というわけではないが、なるべく達志も明るく話すよう努力する。
そうすることで相手に気負わせない……それだけではない。自分の気持ちも、ほんの少しだけ楽になるような気がした。
「それは……辛いですね」
「ルーアにそれを言わせるのも、ルーアの前でそう言っていいのかもわかんないけど……な。
……ま、実感はなかったよ。寝ている間に、家族がいなくなったなんて……悪い夢かと思った」
体感としては、ただ眠って起きただけ。それなのに実際は十年の時が流れ、その間に妹が死んだというのだ。
そう聞かされても実感はなかったが……家では、どうしても思い出してしまう。
いつも後ろをついてきていた、妹のことを。
「そうですか、タツも家族を……ですか。私たち、ちょっとだけ環境が似てるのかもしれませんね」
「……そうだな」
あまり嬉しくない部分ではあるが……自分たちの環境が、少しだけ似ている。自分の手の届かないところで、家族を失った。
こうして判明した境遇……そのせいか、家に来る前より少しだけ、ルーアへの印象が変わった気がした。
少ししんみりしてしまった空気を払拭するように、ルーアはこほんと咳払い。
「ううむ……しかし、タツの妹さんですか。一目お目にかかりたかったですね。きっとかわいらしかったんでしょう」
「それはいったいどういう意味だ。
……それを言うなら、俺だってルーアの親に会ってみたかったよ。ルーアの中二病って、親譲りなのかと思ってたし」
「失敬な、親は普通の人ですよ?」
「自分が普通じゃない自覚はあんのか……」
……お互いの不幸を吐露しあってから数分。
どことなく気まずかった空気だったが、変わらず明るく振る舞うルーアのおかげで、気まずさの壁を越えて会話することができている。
こうして、お互いに亡くなった家族について、話し合えるほどに。
達志にとっても、妹のことについていろいろと語っていた。
「それにしても、私の両親にタツの妹さん……どちらも車が原因ですか。なんだか運命を感じますね?」
「いやな運命だな。俺が眠った原因も車だし」
三つの事故すべてが車によるものとは、嫌な偶然である。
魔法が使えるようになった世界でも、そういった古典的な事故はなくならないらしい。
妹のこと。同居しているリミとセニリアなら、知っていても不思議ではないだろう。しかし、積極的に話す話題でもない。
二人も、達志に対して、同じ理由だろう。わざわざ妹が亡くなった傷を、蒸し返すようなことはしたくない。
結果として、こういう話をする機会はなかった。本当なら、もっと早くに母と、腰を据えて話すべきだったのかもしれない。
鬱憤というか、いろいろ溜まっていたのだ。
「なんか、吐き出すもん吐き出したらちょっとスッキリしたよ。サンキュー」
「そうですか? ならよかったです。溜まったらまたいつでも私がお相手するので、遠慮なく言ってください」
「なんかちょっといかがわしい言い方やめてくんない!?」
狙っているのかたまたまなのか、ルーアの言い回しに達志のツッコミが冴える。
そうして場の雰囲気が和らいだのを確認して、パンッ、とルーアが手を叩く。
「では、達志を家に招いた本来の目的でも果たしましょうかね」
「え…………そうだな」
ルーアの家に来た理由、なんだっけ。この話をするためではない気はするが……
ルーア・カラナさんのお宅にお邪魔した理由なんだっけ、と頭をひねらせる達志。だが、ここはルーアに便乗しておくことにする。
だが、そうそうごまかしは通用しない。
「今、絶対忘れてましたよね?」
「そ……ソンナコトナイヨ」
じー……っと疑いの視線を受けるが、下手な口笛を吹いてごまかそうとする。
それでも視線が消えることはないが、しばらくしてから「はぁ……」とため息が漏れる。
その主は一人しかいないが、それがルーアの呆れからくるものなのかは、わからない。
「ま、いいです。適当にくつろいでてください、準備してきますので」
「準備?」
うーんうーん、とさらに頭をひねらせても、結局この家に来た理由が思い出せない達志。その様子に、準備してくるから待っててくれという。
果たして、なんの準備なのか。
思い出したくても思い出せない。そんな達志を尻目に、立ち上がったルーア。
歩き出そうとしたルーアは、一度達志の顔を見て……ものすごい意地悪な笑みを浮かべて、こう言った。
「えぇ……私がサキュバスであることを証明するための、準備をね」
その言葉を最後に、ルーアは達志の前から去っていった。
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