目覚めた世界は異世界化? ~目が覚めたら十年後でした~

白い彗星

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第二章 異世界っぽい世界で学校生活

第78話 この後めちゃくちゃ丸焼きにした

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 魔物の登場により、試合中断。
 達志や、テニス部部長ヤーと、部員シェルリアに励まされていた。

「まあ、一人になって落ち込みまくるよりマシか。……なにやってんすか先輩」

「部長でいいよ~。なにって、慰めてあげてるんだよ~。ほれほれー、どうよこのフサフサの感触は」

「あー、なんか昔野良猫にされた猫パンチを思い出して……あ、痛い! ちょ、爪が! 爪が当たってチクチクするんですけど!」

 人とは違う、毛のフッサフサな手。それで頬を突かれているのだが、時折爪がチクチク刺さって痛い。それも、微妙な痛みだ。
 それを見てか、傍らのシェルリアはおかしそうに笑っている。あぁ、笑顔も天使のようだ。
 これを見ているだけで、疲れも痛みも吹き飛んでしまいそう。

 うーん、マルクスに借りを返さなくてはいけないし、なにより人間関係がいい。やはり、テニス部に入ろうか……そう思い始めたときだった。
 聞こえてはいけない声が、聞こえてきたのは。

「やっぱり丸焼きですかね……?」

「いや、切り分けて天ぷらにしても美味いんじゃないか?」

 ……それは、食べ物関係の話だった。そこだけ聞くと、なにか料理をしよう、献立を考えよう、という程度なんだろうという考えだった。
 だが、今の会話……リミとマルクスが話している内容に、なぜか胸騒ぎがする。

 ……いやいや。ないない。考えすぎだ、だってそんなわけがないだろう。

「うーん、悩みますね。なんにでも調理できるけど、調理の幅が広すぎるっていうのも考えものてすよね、魔物って」

「そうだな。肉類にも魚類にも成りうる。調子の仕方によって部類が変わる珍しい生態だ。
 調子の仕方に楽しみを見出す。そこが唯一のいいところと言ってもいいな、魔物の」

「わー! 聞こえない聞こえない!」

 今、はっきりと魔物と口にした。耳を塞ぐが、それはもう遅かった。聞いてしまったし、内容が内容だけに頭にこびりついて離れない。
 今、なんと? 調理? 魔物を? ……マジか。

「いきなりどしたよたーくん。突然叫ぶなんて、思春期かい? おねーさんの猫手に興奮しちゃった?」

「たーくんじゃないし、そんな特殊性癖持ち合わせてないです。
 ……じゃなくて!」

 マルクスをまーくん、達志だからたーくんなのだろうか。
 妙なあだ名を付けられるマルクスの気持ちが、少しはわかった気がする。

 だからといってマルちゃん呼びをやめるつもりはないが。
 だが、今考えるべきは、それではない。

「今……俺の聞き違いじゃなかったら、その……魔物を調理する……つまり魔物を食べるって聞こえたんですけど。
 あはは、まさかね。そんなことあるわけ……」

「食べるよ、魔物」

「食べますよ、魔物」

「聞き違いであってほしかった!」

 かなり嫌な予感を事実だと言われ、頭を抱える。食べるのか……アレを。
 二つの意味で食べられるのか……アレを。

「すげー体に悪そうなんですけど」

「手順を守って調理すればなんの心配もないよ」

「見た目からもう食欲失せるんですけど。シェルリア……さんも、食べるの? 魔物怖いのに?」

「呼び捨てで構いませんよ先輩。えぇ、まあ見た目はなんとか我慢すれば……ゲテモノほど美味しいって言いますし」

 魔物が現れたことどころか、魔物を食べることに関しても動じないのか、ここのは人たちは。
 たくましいのレベルを超えている気がする。

「いやゲテモノすぎだろ! 口の中に触手エイリアン飼ってる奴よ!?」

「お、エイリアンか。なかなかいい例えだね~」

「はい、素敵です」

「食いつくとこ違う!」

 達志の心配は伝わらない。なんでこの二人は、こんなどっしり構えているんだ。
 怖い、今目の前の猫獣人さんとエルフ少女さんが怖いよ。

 あれか、おかしいのは俺なのか? と、ついには自分を疑う達志。周りを見ると、とても馴染んでいる。
 これが普通なのか、この世界じゃ魔物を食うのか。こんなグロい生き物を食うのか。

「それにしても、ウサギちゃんがいてくれて良かったよ。火と水の属性の複合である氷。複雑な魔法な上に、加えて彼女ほどの魔法使いはそうそういない。
 いやぁ、なかなかの大物だし、いい感じに冷凍保存できてよかったよ」

「れい……とう」

 おかしい。途中までリミの優秀さが語られていたはずなのに、最終的に食材の保存方法に至ってしまっている。
 ああ嫌だ、考えたくないが……想像してしまう。

 今おそらく向こうでは、倒した魔物をリミの魔法で凍らせて、文字通り冷凍保存しているのだろう。
 だからリミが呼ばれたのか、納得!

 ……したくない。

「タツシ様ー! タツシ様はどんな食べ方がお好みですかー!?」

「おぅっふ……」

 そのタイミングで、手を振ってやって来る少女がいる。今この時はリミが、未知のゲテモノを食べさせようとしている悪魔に見える。
 普段と変わらない気もする。

 リミお手製の料理といい、リミと食べ物のセットでいい思い出がない。

「いや、俺は……」

「どうします!? この人数ならオススメは丸焼きなんですが、タツシ様が食べたいものがあれば!」

「いや……」

「さあさあ! タツシ様!」

「…………」

「さあ!!」

 この後めちゃくちゃ丸焼きにした。
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