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第二章 異世界っぽい世界で学校生活
第76話 あっ、野生の魔物があらわれた!
しおりを挟むマルクスとの試合。せめて、食らいついてやろうと覚悟を決めて……マルクスのサーブを、受けた。
いや、受けられなかった。
「……ナニ、アレ……」
壊れたロボットのように、達志は首を動かす。後ろ……ボールの到達点を見る。
テニスコートの外と中とを仕切る金網……それにボールが埋まっており、尚も勢い良く回転していた。
よく見ると煙も出てないか、あれ。あんなのマンガでしか見たことない。あんなのどうやってんだ。どんな力だ。
他の部員は、なんの驚きも見せていない。つまり、あれがまぐれの威力でもなんでもないということだ。
唯一、部員ではないリミは、目の前の金網に埋まっているボールを見て、言葉を失っている。
「やっぱりまだ、コントロールが定まらんな。だが……次は入れる」
それを行った当の本人は、不満そうだ。ボールの威力がどうあれ、フォルトには変わりないのだから。
だが、次は入れる……と言葉通り、その目も語っていた。
背筋に緊張が走る。あんなのいったい、どうすれば……
「いくぞイサカイ。これで……終わりだ!」
二球目……運命のサーブが放たれる。それは今度は、狙い狂うことなく、達志のコートへと迫る。
正直、あんなの打ち返そうとしたら、腕が持っていかれるんじゃないだろうか。
それでも……こうなったらやってやる!
目では追えているのだ。だから、到達点に先回りし、構えて、そして……
「キャウン!」
ベコッ……という音を立てて、勢いの乗ったサーブボールは……突如コートに入り込んできた、なにかに、ぶつかった。
一ゲーム先取で勝利が決まる、この試合。というか体験入部。
そのマッチポイント、これを取られればマルクスの勝ちという大事な局面での、マルクスのサーブ。
放たれた速球サーブは、一球目と違い狙い狂わず襲いかかる。それを打ち返すか、はたまた打ち逃すか……二つに一つ、運命の大一番。
……の、はずだった。だがそれは、コート内に侵入してきた何者かによって妨害される。
「……はっ……え?」
一瞬、何が起きたのかわからなかった。ボールは速かったが、目で追えてはいたのだ。ボールの到達地点を予測し、そこに先回り。
打ち返すための姿勢を取った達志の視界に……黒い物体が映った。
どこから飛び出してきたのか。ボールは見事にそれにぶつかった。
ボールが直撃した黒い物体は、まるで犬のような鳴き声を上げて、その場に倒れた。
「え、なに……? ど、動物……?」
我に返った達志は、倒れた黒い物体に、ゆっくりと視線を移す。
どこからか動物が迷い込んで、運悪く飛び出してきた……そのタイミングで、マルクスのサーブが直撃してしまったのだろうか。
だとしたら、無事か確認しないと。だから、達志はそのまま近づこうと足を踏み出して……
「近づくな! イサカイ!」
「へ……」
怒鳴るようなマルクスの声に、肩を震わせた達志が足を止めたのと、黒い物体が動いたのは同時だった。
それは、赤い瞳を達志に向け、倒れた体勢から飛び上がるように立ち、踏み込み飛びかかる。
突然のことに、何が起きたかわからない達志は、逃げるという選択肢すら浮かばないまま、黒い物体の餌食に……
「うらぁ!」
「ギャウ!」
なる直前、気合いの入った声がどこからか聞こえた。かと思えば、次の瞬間には黒い物体が吹き飛んでいた。
そしてその場に残されたのは、黒い物体に直撃した反動で地面に落ち、ぼんぽんと跳ねているテニスボール。
まさか……と、向こう側にいるマルクスを見る。
すると彼は、サーブを打った直後と同じポーズを取っている。
これはあれだ。向こう側にいるマルクスが打った球が、あの黒い物体に直撃したのだ。
しかも、直撃した勢いで、黒い物体が吹っ飛んだのか。
「タツシ様ー! ご無事ですか!? 怪我は!? どこか痛くないですか!?」
呆然とする達志の下へ駆け寄ってくるのは、リミだ。
ぴょんぴょんと跳ね、その焦りを体で表現しているかのよう。
トサカゴリラに、達志がちょっと傷つけられただけであの事態だ。もしもまた達志の身に何かあったとしたら……ここは血の海に、いや氷の海になる。
「うん、大丈夫……ってか、あれ何?」
そもそも、大丈夫云々の前に。コート内に乱入してきた、黒い物体の正体すらわかってないのだ。
生き物だろうか、という程度の認識だ。
「あれは……魔物です」
倒れている黒い物体の正体。問いかけのようなその言葉に、リミは答える。
その言葉を聞いて、達志はしばし沈黙。
だってそうだろう。試合中にいきなり乱入してきた生き物が、魔物だなんて言われても素直に受け入れられない。
少し前に、魔物についての話をしていたが……こんなにも、当たり前のように現れるものなんだろうか。
パッと見、黒い体毛に覆われたオオカミ……といったところだろうか。
「なんで、魔物がこんなとこに……? 飼ってるわけじゃないんだよね?」
「飼いませんよ、あんな危険な生き物。少し前からちょくちょく学校にも現れてたんですが、ここ最近になって頻繁に現れますね」
「こわっ!」
魔物がここにいる理由は、リミも知らないらしい。最近だとよく現れるらしい。
事実なのかもしれないが、そんな、近所の子供がよく遊びに来る感覚で言わなくても……
同時に、リミの様子を見て納得した部分はある。
魔物が頻繁に現れる世界なら、学校でのテロもたいしたことないんだろうな、と。
「にしても、たくましすぎない?」
誰一人……あの純真そうな、エルフ少女であるシェルリアさえ、なんの反応もない。慣れた光景だとでも言わんばかりだ。
異世界っぽい世界恐ろしすぎる。
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