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第二章 異世界っぽい世界で学校生活
第72話 校内二大美少女
しおりを挟む「ごっほん!」
間の前のエルフに、達志が様々な思考を巡らせていたとき。達志の意識を戻すかのように、わりと大きな咳払いが響く。
その咳払いの主は、ジトッと達志を見つめていた。
「ん、どしたのリミ」
「いーえ、べふになんでおないでふお」
「頬が膨らみすぎなに言ってるかわからんのだけど」
かわいらしく唇を尖らせる、頬を膨らませるというのは表現とはしてよく見る。が、今のリミは頬を膨らませすぎて、なにを言っているかわからない。
白い肌がそんなに膨らむと、まるでもちみたいだ。
「ぶふー……な、にゃにを……」
「あ、いやつい……」
そんなもち頬を、ついつい指で押してしまった。
指で押したそれは、まるで空気の抜ける風船のようにしぼんでいき、「ぷひゅー」と口から空気が漏れている。面白い。
当のリミは、その白い頬を徐々に赤くしていく。
「も、もう! タツシ様……もー!」
少し距離をとったリミは、なにを思っているのか、赤い顔のまま手をブンブン振っている。マンガなら、目がバッテンになっていそうだ。
「タツシ……もしかして、トサカイ タツシさん?」
「“イ”サカイね。どこぞのゴリラじゃないんだから……って、俺を知ってるの?」
今のリミとのやり取りを見て、達志の名前に反応したのはエルフ少女だ。
少し間違えていたとはいえ、間違いなく達志の名前を呼んだのだ。だが、達志はまだ名乗っていない。
なのに、なぜ名前を知っているのか? そんな達志の疑問に答えるように、エルフ少女は続ける。
「噂になってたんですよ、一年生の間……いや学年全体で。今日転校生……じゃなくて、十年ぶりに復学する人がいるって」
「マジか、噂って……まあ、話題性には富んでるもんな」
まさかの事実。達志が復学することが、そんな大事になっていたとは。まあ十年ぶりに復学する生徒など、確かに話題作性には充分だ。
しかし、実際には達志のクラスメイトと、教師陣しか事前には知らされていなかったはずだ。
……噂なんて、どこからどう広まるかわからない。最初は一部しか知らなくても、たまたま聞いていた誰かから、どんどん広まっていくことだってある。
そこも含めて『噂』なのだ。
「ん、そういや今一年生って……」
「あ、はい。一年生の、シェルリア・テンです。ですので、私が後輩になりますね。よろしくお願いします、先輩♪」
「おふっ」
ペコリとお辞儀し、名乗るエルフ少女……シェルリア。その笑顔に、そして呼び方に思わずやられてしまった達志は、口を押さえる。
シェルリアはその様子に首をかしげ、リミは相変わらずのジト目を向けている。
その時、向こう側からシェルリアを呼ぶ声が聞こえてくる。
「あ、いけない。戻らないと……」
「あらら、ごめん。なんか引き留めたみたいになっちゃって」
「いえ、とんでもないです。話せて嬉しかったので」
悪いのは引き留めてしまったこちらなのに、それを気にもしていない。
むしろ嬉しかったと語る天使……いや妖精に、ホントいい子だと泣いてしまいそうだ。
最後にもう一度お辞儀をしてから、去っていくシェルリア。振り返り駆け去っていく際に、スカートがふわりと揺れる。
その後ろ姿を見届け、ほぅ、と思わずため息。
「噂通りの……いえ、それ以上の容姿でしたね。神々しい、ってああいうこというんですね」
「噂って……リミ、あの子のこと知ってるの?」
去っていったシェルリア。それを見届けて声を漏らすのはリミだ。
まるで、シェルリアを知っているかのような物言いに、達志は問いかける。
「知っている……そうですね。彼女、有名人ですので。大抵の人は知ってると思いますよ?」
どうやら、リミ個人が、というものではないらしい。有名人なのでみんなが知っている。
……それは、テレビに出ている芸能人、という感覚に近いだろうか。
「有名人……って、そうなの?」
「はい。この学校には誰が呼んだのか、"校内二大美少女"という、学校のアイドル的存在が二人いるそうで。
そのうちの一人が、確か彼女の名前だった記憶があります」
リミが語るのは、シェルリアが校内二大美女のうちの、一人だということ。
校内二大美女、という単語に、達志は聞き覚えがあった。
あれは確か……ヘラクレスが言っていたのだ。そう、リミが人気者なのかという話になったときに、リミは校内二大美少女の一人なのだと、そう言っていた。
……と、いうことはだ。校内二大美少女。その一人がリミで、もう一人はシェルリアということになる。
確かに、そう言われても納得するだけの美貌を、二人とも持っている。
だが……今の言い方に、少々違和感。なので達志は、その違和感を疑問としてぶつけてみる。
「えっと……リミ、ちなみにだけど、その校内二大美少女のもう一人って知ってる?」
まるで、当事者ではなく傍観者のような言い方に、違和感を覚えたのだ。すると、疑問を受けたリミは少し頭を悩ませて。
「さあ……知りませんね。シェルリア・テンの名前も、誰かが口にしてたのを偶然耳にしただけですし。そもそも興味もないですし」
こう答えた。
その興味のない、校内二大美少女というアイドル的存在に、自分が含まれているのを知らないリミであった。
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