58 / 184
第二章 異世界っぽい世界で学校生活
第57話 頼もしい幼馴染み
しおりを挟む「おいおいおいおいおいやばいやばいやばいやばいやばい死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!」
必死の形相で、迫り来る触手から逃げる達志。捕まれば、絡まれて動きを拘束される……
いやそれどころか、粉々に握り潰されてしまうのは明白だ。
なぜなら触手は、壁や岩や地面に、ことごとく穴を開けているのだから。
「それであんな自在に動くとか、反則だろ! 硬いなら硬いなりの動きをしやがれってんだ!」
「そんな嘆いてても、事態は好転しねえぜタツ」
触手の脅威に対する愚痴。それに応えるのは、頭上に乗るスライム、ヘラクレスだ。
すっかりそこが定着位置になってしまったのか、さっきから乗っかったままだ。
「ほら、すぐ後ろに来てる!」
「わかってるよ! 上に乗ってる誰かさんのせいで、すこーしだけ速度が落ちるんだよ!」
これでも達志は必死だ。いかにすんごく軽いとはいえ、まったく重みを感じないわけではないのだ。
人任せでなく自分で動いてくれ……そんな意味を込めて、ヘラクレスに叫ぶ。
「オイラ自ら走れって? できなくはねえけど……いいの?」
「なんで!」
「だってほら、オイラがどうやって腕を生やしてるか思い出してみ?
自分で走るってなったら、それの足バージョンってことだから。それでもいいなら走るぜ」
スライムだから飛び跳ねて……ではなく、単純に走る、という言い方だ。
これまでのヘラクレスの移動方法は、飛び跳ねて、というものだった。しかし、それは普通の移動方法。
人が走る、というように、速度を出すことを目的としていない。歩く、というものだ。
しかし、スライムでも走ることはできる。ならば、その方法はどのようなものか?
それは、腕を生やすのと同じ原理……その足バージョンだと言う。要は、足を生やして走る、ということなのだ。
……最初、というか今もではあるが、腕が生えているのを見た時は、たいそう驚いた。だって、スライムの体から、腕が生えているのだ。
軽いホラーだ。
それの、足バージョン。スライムの体から足が生えて、その上走っているという、ある意味グロテスクな光景を想像してしまう。
……キモいな、うん。
「俺の肉体面の疲労が多少解消される代わりに精神面にものすごい負荷がかかりそうなのでこのままでお願いします!」
「ん、わかったぜ。いやあ、去年の体育祭、オイラが走った時に、悲鳴やらなんやらが上がった時には、さすがにくるものがあったぜ」
「なんかすんませんでしたあ!」
走らないで一安心……とは違うが、心なしか胸を撫で下したように感じた。胸があるのかもわからないが。
どうやらヘラクレスは以前、全生徒や教師の前で走ったことがあるらしい。足を生やして。
その時の光景を達志は知らないが、もしその時のヘラクレスの姿が達志の想像するものなら……
なるほど確かに、ヘラクレスには悪いが、周りの反応は納得だ。
嫌な記憶……というわけではないのだろうが、それでも、ヘラクレスにとっては苦い思い出なのだろう、多分。
よって結論は、現状維持のまま逃げ続けることとなった。
「それにしてもあのトサカゴリラ、口癖がヒャッハーで触手属性とか、あいつも過剰設定過ぎだろ!」
振り向き、トサカゴリラを睨みつける。背中から、十を超える触手を出し、それを暴れさせている。
その光景は、端的に言って……
「キモい! なんだよあれ、魔法ってかなんの生物だよ! もっと手から出すとかこう、ビジュアル的なこと考えてくれよ!」
背中から触手を伸ばすという、見た目的にあまりよろしくない光景。
魔法なんて万能なものなのだから、あんな変な触手の出し方をしなくても、と思う。
それとも、本人の趣味だろうか。趣味が悪い。
「いやあ、しかしトサカゴリラってよく言ったもんだなタツ。今やゴリラからトサカに加えて触手まで生えてるけど」
「それ俺もすごく思ったけど今言ってる場合かぁあ!」
とにかく逃げる、逃げる、逃げる。
とはいえ、十年の眠りから目覚めたばかりの達志の体力が、そう続くわけもない。
いくら日常生活にさほど支障がないほどに回復したとはいえ、走り続けていれば、体力が常人よりも減るのは、圧倒的に早い。
それでもこうも走り続けられているのは、命の危機に瀕しているからだろうか。
「はぁ、はぁ……そ、そうだ……ヘラ、魔法でどうにかなんない?」
頭上のスライムに、問い掛ける。
まだ見たことはまだないが、彼に魔法の属性を聞いた時、見た目通りの属性を使えると言っていた。
使える魔法はというと、土属性。見た目とは程遠い属性とは思うが、そんなことはどうでもいい。
魔法は使えるのだ。
「さすがにこの数はなぁ……それに、あの触手はあくまで水だから、オイラの魔法とは相性悪そうだし」
暴走族に追いつかれそうなところを、ヘラクレスが出現させた魔法、岩の壁で妨害する。
地面から盛り上がったそれは、達志と暴走族との間を、見事に分断する。
少しだけ足を止め、息を整える。額から流れる汗の量がヤバい。気を抜いたら、ぶっ倒れてしまいそうだ。
「たっ……勇界くん、大丈夫!?」
そんな達也の耳に届くのは、達也を心配する、聞き慣れた声。
またも人前で『たっくん』と呼びそうになりながら、なんとか呼び方を直した由香だ。
「やっほー、ゆかりん」
「もー、先生と呼びなさい。
……すごい汗、息も上がってる。ちょっとじっとしててね。」
生徒からとてもフレンドリーな呼び方をされ、由香は少し怒る。しかしすぐに、視線は達志へ。
まさかこんな情けない姿を見られるとは……達志は、猛とさよなの前では醜態を晒したが、由香の前ではまだちゃんとしていた。
それを、こんな形で見られることになるとは。
不甲斐なさを感じている達志、しかしそんな彼を樹にすることなく、由香は達志の額へと、手をかざす。
手のひらから、あたたかな光が、漏れ出す。
「これ……」
この、包みこんでくれるようなあたたかさ……達志には、覚えがあった。
荒くなっていた息が、落ち着いてくる。疲労が、軽くなってくる。
これは……達志が、この十年ずっとかけられていた魔法。回復魔法だ、
「まさか、この魔法……なんで……」
「ゆかりんは、回復の魔法を使えるのさ」
驚く達志に、短くも的確な言葉が返される。
それは、由香が魔法を。しかも、回復の魔法を使えるという確定情報。
元々この世界の人間も、異世界の人間と過ごすことで魔法を使えるようになる可能性はある……とは、病院で聞いた話だ。
まさか、こうして目の前で見ることになるとは。それも、幼馴染みが使えるようになっていたとは、思わなかったが。
「へぇ……由香らしいな」
小さく、つぶやく。それでも。
火や水、土に風……光と闇と、様々な属性の魔法がある。その中で、どの属性にも属さないという、回復魔法。
それは、いかにも由香らしいと思えた。傷つける力ではなく、癒しを与える力。
その姿は、とてもさっきまで、涙目でバットを振り回していた人物と、同一人物とは思えない。
とても一生懸命で、心強くさえ思える。
……ちゃんと、先生をやっているではないか。
10
お気に入りに追加
298
あなたにおすすめの小説

異世界でネットショッピングをして商いをしました。
ss
ファンタジー
異世界に飛ばされた主人公、アキラが使えたスキルは「ネットショッピング」だった。
それは、地球の物を買えるというスキルだった。アキラはこれを駆使して異世界で荒稼ぎする。
これはそんなアキラの爽快で時には苦難ありの異世界生活の一端である。(ハーレムはないよ)
よければお気に入り、感想よろしくお願いしますm(_ _)m
hotランキング23位(18日11時時点)
本当にありがとうございます
誤字指摘などありがとうございます!スキルの「作者の権限」で直していこうと思いますが、発動条件がたくさんあるので直すのに時間がかかりますので気長にお待ちください。
『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!(改訂版)
IXA
ファンタジー
凡そ三十年前、この世界は一変した。
世界各地に次々と現れた天を突く蒼の塔、それとほぼ同時期に発見されたのが、『ダンジョン』と呼ばれる奇妙な空間だ。
不気味で異質、しかしながらダンジョン内で手に入る資源は欲望を刺激し、ダンジョン内で戦い続ける『探索者』と呼ばれる職業すら生まれた。そしていつしか人類は拒否感を拭いきれずも、ダンジョンに依存する生活へ移行していく。
そんなある日、ちっぽけな少女が探索者協会の扉を叩いた。
諸事情により金欠な彼女が探索者となった時、世界の流れは大きく変わっていくこととなる……
人との出会い、無数に折り重なる悪意、そして隠された真実と絶望。
夢見る少女の戦いの果て、ちっぽけな彼女は一体何を選ぶ?
絶望に、立ち向かえ。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

スキルガチャで異世界を冒険しよう
つちねこ
ファンタジー
異世界に召喚されて手に入れたスキルは「ガチャ」だった。
それはガチャガチャを回すことで様々な魔道具やスキルが入手できる優れものスキル。
しかしながら、お城で披露した際にただのポーション精製スキルと勘違いされてしまう。
お偉いさん方による検討の結果、監視の目はつくもののあっさりと追放されてしまう事態に……。
そんな世知辛い異世界でのスタートからもめげることなく頑張る主人公ニール(銭形にぎる)。
少しずつ信頼できる仲間や知り合いが増え、何とか生活の基盤を作れるようになっていく。そんなニールにスキル「ガチャ」は少しづつ奇跡を起こしはじめる。

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

家の猫がポーションとってきた。
熊ごろう
ファンタジー
テーブルに置かれた小さな瓶、それにソファーでくつろぐ飼い猫のクロ。それらを前にして俺は頭を抱えていた。
ある日どこからかクロが咥えて持ってきた瓶……その正体がポーションだったのだ。
瓶の処理はさておいて、俺は瓶の出所を探るため出掛けたクロの跡を追うが……ついた先は自宅の庭にある納屋だった。 やったね、自宅のお庭にダンジョン出来たよ!? どういうことなの。
始めはクロと一緒にダラダラとダンジョンに潜っていた俺だが、ある事を切っ掛けに本気でダンジョンの攻略を決意することに……。

ペット(老猫)と異世界転生
童貞騎士
ファンタジー
老いた飼猫と暮らす独りの会社員が神の手違いで…なんて事はなく災害に巻き込まれてこの世を去る。そして天界で神様と会い、世知辛い神様事情を聞かされて、なんとなく飼猫と共に異世界転生。使命もなく、ノルマの無い異世界転生に平凡を望む彼はほのぼののんびりと異世界を飼猫と共に楽しんでいく。なお、ペットの猫が龍とタメ張れる程のバケモノになっていることは知らない模様。
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる