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第二章 異世界っぽい世界で学校生活
第55話 突如始まる乱闘騒ぎ
しおりを挟む向かいくる暴走族十数人に対し、クラスメイトたちが迎え撃つ。なぜこんな、世紀末みたいな展開になっているのだろうか。
ルーアの身一つで解決すれば、安いものだったはずだ。
……と、達志は思い返す。こうなった経緯は、自分のせいでもあるのかなぁ、と。
「……なんでこんなことに?」
今の目の前で繰り広げられている光景は、なんだろう。
なぜ、達志の見知る男が一人で、暴走族相手に肉弾戦を持ち込んでいるのだろう。
「オラ! オラオラァ!」
「オラオラうるさい男だ。言葉のレパートリーがなさすぎるな。それに拳の振るい方も、大振りばかり……てんでなってないな」
オラオラと拳の嵐が、彼を襲う。達志であれば即座に袋だたきにされて、終わってしまいそうなその拳を、彼は優雅に避けている。
小さな動きで大振りな拳を避け、時に弾き、その様は見事だ。
その上で、相手を挑発することも忘れない。
「そんな素人剥き出しの動き……そのがたいのいい体は飾りか? モヒカンA。……顔も動きも、不細工なことこの上ないな」
「ガキィイイイ!」
見事に挑発に乗るモヒカンAは、さらに荒々しい殴り方に。だがそこにこそ、隙が生まれる。
大振りになったからこそ、はっきりする隙。
大振りになった瞬間、体を滑り込ませて……懐に潜り込む。その胸板に狙いを定め、今度はこちらが拳をお返しだ。
「だぁあああ!」
右手を握りしめ、彼……マルクスは、拳を打ち込む。その拳を胸板に打ち込まれ、モヒカンAは衝撃に耐え切れず、うめき声を上げる。
たった一発で、マルクスの倍はあろうかという体を吹き飛ばした。
その光景を、達志はただただ目を丸くして見ていた。
「ま、マルちゃんすげぇ……」
暴走族相手に立ち回っていたマルクス。それだけでも驚きだというのに、まさか暴走族とやり合って勝ってしまうとは。
見ろ、モヒカンAが紙みたいに飛んでいった。あれは、気絶してしまっているな。
あんな大男を吹き飛ばしてしまった。しかも、魔法を使わずにだ。まあそもそも、マルクスの魔法については一切の情報がないのだが。
「すげえなマルちゃん、その調子で頑張ってくれよ。でもなんでちょっと嬉しそうなの? 笑ってるし。ちょっと引くわ」
「マルちゃん言うな。貴様は僕を応援してるのかやる気を無くさせたいのかどっちなんだ。あとこうなったのは、貴様の責任でもあるんだぞ」
そこは本当にごめんなさい。
「嬉しそう、とは語弊があるが、それに近しい状態なのは確かだ。なにせ、己の力がどれほど通用するか、振るえるチャンスなのだからな」
「いや何言ってんのこいつ。なんだよ力がどれほど通用するか、って。なんちゃら武闘会にでも出んの?」
ほとほと、優等生なのか不良なのか扱いに困る。
その拳の行き先が、行くべきところに行っているので、こちらから言うことはなにもないが。
「ちったぁやる奴がいるじゃねえか。だがモヒカンAは、俺らの中でも最弱の男よ」
「なにその、奴は四天王の中でも最弱的な言い方。あとお前は名前呼んでやれよ。多分あのモヒカンあんたのトサカに憧れてやってたんだからさぁ、トサカゴリラ」
「誰がトサカゴリラだぶっ殺すぞ!」
嘘か本当か、どうやらモヒカンAは、暴走族の中でも最弱らしい。別にどっちでもいいのだが。
リーダーにすら名前を呼んでもらえないとは、哀れな男だ、モヒカンA。別にどっちでもいいのだが。
「ははぁ、他の奴らはこうはいかねえぞ。てめえらみたいな貧弱な奴らなんざ、すぐに潰して……」
「うぉえあぁあああ!」
得意げに笑うトサカゴリラであったが、同時に情けない声が響き渡る。直後、トサカゴリラの近くに誰かが投げ捨てられてきた。
それは暴走族のうちの一人で、それはそれはひどい有様だ。
体は傷だらけで、歯が欠けている。
「むごいな」
「挑んできたのは向こうだ、慈悲はない」
凄まじい有様だ、こうも人がボロ雑巾のようになるとは。
それをした人物は、達志の背後にいた。後ろからでもわかる、圧倒的な威圧感。
その見た目だけで、自分は逆立ちしても勝てないだろうな、と悟る達志。
人間の上半身に馬の下半身を持つケンタウロス、達志のクラスの担任であるムヴェルが、そこにいた。
その足で蹴られたら、今飛んできた男みたいになるんだろうか。いや、原型を留めているだけマシかもしれない。
「そう、犯罪集団に慈悲はない! よって! これより我が魂が、貴様らの命運を裁く!」
「めんどくさいの来ちゃった!」
ムヴェルに続いて、また新たな人物が現れる。
大仰な仕種や話し方で現れたのは、中二少女ルーアだ。
ルーアも魔法は使えるが、威力の制御が効かない。そのため、こんなところで発動させたら、大惨事になってしまう。
「まったく、なにをもたもたしているのか。こんな連中、我が力により一掃して……」
「カラナ、お前には後で話があるからな」
「……はい」
得意げに登場したルーアだが、ムヴェルに睨まれ小さくなる。
原因が彼女にあるのなら、悲しいがこれこそ慈悲はない。たっぷり叱られてもらおう。
とはいえ、こんな暴走族を引き連れてきたのも、この場で生徒に手を出したのも、向こうが先だ。
ここまできてしまっては、どちらかを叩き潰すまで乱闘は終わらないだろう。
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