目覚めた世界は異世界化? ~目が覚めたら十年後でした~

白い彗星

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第二章 異世界っぽい世界で学校生活

第52話 平和で平和ではない昼休み

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 "嫉妬"……その言葉を口にした瞬間、マルクスの肩が跳ねたのを、達志は確かに見た。
 それは達志の言葉の肯定を意味しており、他人のそういう感情に鋭い達志は確信を得る。

 クラスメートの女の子が、別の男の子の彫像を作っている。それに嫉妬していたのだとしたらそれはもう…… 

「ははーん、マルちゃん、さてはお前リミのことすむぐっ!」

「な、なにを言おうとしてるんだキミは! バカなのか!?」

 確信を持った一言を告げようとするが、それはマルクスにより妨害される。慌てたように口を塞がれてしまった。 
 先ほどルーアが、リミの好きな人を暴こうとしたのをリミ自身が止めたときのと、同じようだった。

 それにしても、この反応こそが答えのようなものだ。リミへの厳しめの言葉は、おそらく好きな人に素直になれない性格ではないだろうか。
 好きな人に意地悪をしたくなる心情と似ている、それはまるで……

「ぷはっ……小学生かよ」

「なんだか知らんがものすごく失礼なことを考えているな」

 なにはともあれ、マルクスはリミのことが好きなのであろう。恋愛的な意味で。
 だから、リミが達志型彫像を作っていたのが気に入らなかった。壊すのはやり過ぎだと思うが。

 堅物のような雰囲気を醸し出しておいて、なかなかかわいいところもあるじゃないか。

「まあ……もぐもぐ……頑張れよ……むしゃむしゃ……諦めなきゃ……ごっくん……なんだってできるし……げっぷ……」

「まったく嬉しくない失礼な応援な上に、すごい上から目線だな。それと誰にも話すなよ?」

「んなヤボは……ごくごく……しねえって……ぷっはぁ……」

「信用できないなこいつ」

 マルクスの思わぬ秘密が暴けて、弱みを握れた感覚になり、達志としては大満足。
 その後も、リミやヘラクレスやルーア、クラスメートたちと、和気あいあいとした空間を過ごしていく。

「なあ、ゆ……如月先生が、仲間になりたそうにめっちゃこっち見てんだけど」

「隠れてるつもりなんですかあれ。尻隠して頭隠さずですよ」

 久しぶりの学校で、すっかり変わってしまった環境。そこで過ごすクラスメートは、どいつもこいつも難ありだが、いい奴らばかりだ。
 教師も、厳しめのムヴェルと優しめの由香とで、いい感じにアメとムチが完成している。

 このクラスでなら、これからも楽しくやっていけそうだ。笑いあっているクラスメートたちを見て、そう、思っていた。


 ドゴンッ!


 そんなことを考えていた瞬間……平和な空間には似つかわしくない、なにかが爆発したような、巨大な音が鳴り響いた。

「な、なんだ!?」

 突然の爆音。平和な昼休みは、無粋な音に邪魔される。爆音とともに、まるで校舎が揺れたような感覚を覚える。
 先ほどの、ルーアの爆発魔法を思わせる。

 驚き達志は、急いで窓の側へ。外を覗くとそこにあったのは、バイクに乗った集団が、校門をぶちやぶって入ってきている光景だった。
 テレビでしか見たことがないが、まるで暴走族だ。

「オラオラァ! オラ! オラオラァァアア!」

「……え、本当になにあれ」

 わかりきったことだが、完全に敵意剥き出し。友好の欠片もない。
 その先頭にいるのが、先ほどから「ヒャッハー」と叫んでいる男。まるで薬でもキメてるんじゃないかと思えるほどに、いい具合に頭のネジが外れている。

 だが問題なのは、そんな暴走族がなぜ学校に突撃してきたのか、ということだ。

「あれは……この辺で有名な、暴走族だな」

「へ?」

 隣から聞こえる言葉に、達志は視線を向ける。そこにはいつの間にか、マルクスが立っているではないか。
 マルクスはあれを、暴走族だと言った。暴走族みたいだとは思ったが、まさか本当に暴走族だとは。

 達志が眠る前の世界でだって、あんな世紀末みたいな暴走族は希少種だっただろうに。十年経ったこの世界で、まだあんなのがいるのか。

「知っているのかいマルちゃん」

「マルちゃん言うな。有名だと言ったろ。
 ……最近世間を騒がせている、暴走族の集団だ。で、先頭にいるあの男が、リーダーの蛾戸坂 鶏冠がとさか とさか。手配書も出回っているし、ニュースで見た顔だ、間違いない」

「……ぷ、ふふ……ぷはは! が、がとさかって……とさか、トサカって……ぶはははは!」

 そこまで聞いて、ようやく思い出した。確か入院中、暇だからとつけていたニュースの中に、そんな話題があった。有名暴走族の話。
 興味ないし忙しいで忘れていたが……

 それにしても、リーダーの名前を聞いた瞬間、達志は腹を抱えて笑う。
 リーダーの蛾戸坂だが、その頭はモヒカンヘアー……ますますいつの時代の人間だと言いたくなる。見ようによっては、ニワトリのトサカにも見える髪型だ。

「どうした? 狂ったか?」

 しかし、そんな達志の情緒が伝わるわけもなく。マルクスが若干……いや露骨に引いた顔をする。
 いかんいかん、ただでさえリミの件でよく思われていないのだ。これ以上評価を下げかねない行動は、慎むべきだ。。

 それに、よく思っていない達志に、わざわざ情報を教えてくれるのだ。思いのほかいい奴かもしれない。
 優等生っぽいから、その性というだけかもしれないが。

 ちなみにさっき聞いたが、マルクスは男子の、そしてリミは女子の、男女それぞれを代表したクラス委員らしい。

「ぶふふ……わ、悪い悪い。それよか……暴走族なのに学校来るってどういうことよ、なんのつもりだ?」

「知らん、あいつらに聞け」

「おや、あれは……」

 あのモヒカン共の目的がわからない。そんな中、窓の外を見つめるルーアが、声を上げた。
 それは、あの暴走族に興味が湧いた、という意味のものではなく……

「あいつら、以前私の魔法の実験体になってもらった連中じゃないですか」

 あの暴走族に心当たりがある……そういう意味での、発言だった。
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