52 / 184
第二章 異世界っぽい世界で学校生活
第51話 それってもしかして
しおりを挟むなぜかリミに、自分の方が上だと告げるルーア。薄い胸を張り、どや顔を晒している。普段ならばともかく、なぜ今そんな追い打ちをかけるのか。
ルーアの頬を、達志は引っ張った。
「なんで謝るどころか煽ってんのこのロリはぁああ!」
「ふぁ、ふぁへへふははい(や、やめてください)! ほいいうはぁ(ロリ言うなぁ)!」
両頬を引っ張られ、ルーア抵抗するが、なにを言っているのかわからない。
だが言葉の内容を追及するつもりのない達志は、柔らかく面白いくらいに伸びる頬を、引っ張り続けている。
まったく、突然なんてことを言い出すのだろうかこのロリは。
そんなロリの、勝ち宣言のようなものを受けてリミは、どんな反応をしているのか。ますます怒らせてしまったんじゃないだろうか?
そんな心配を胸に、達志はリミを見ると……
「……いいなぁ」
なぜか頬を赤くして二人を見つめていた。怒っている、という感じではない。それに何事か呟いている。
彼女が呟いた言葉は、小さすぎて達志には聞こえなかったが。
「なんて?」
「へぁ!? にゃ、にゃんでもないですよ!」
聞かれていた……その事実を聞いたリミは、顔を真っ赤にしている。正確には内容までは聞こえていないが、それを知るよしもない。
驚いたせいなのか、うさぎなのに猫のように身を縮めている。
なんでもないと言われてしまえば、それ以上を追及することは出来ない。
「ぐ……」
達志に頬を引っ張られているルーアが羨ましくて、本音が漏れてしまった……そんなことは、言えるはずもない。聞いたらドン引きだろう。
だから、下手な言葉でごまかした。そしてその様子を、不機嫌そうに見つめているマルクス。
結局、ルーアに煽られても怒りを覚えるどころか、達志に対して若干、自覚のないマゾ気質に目覚めつつあるリミであった。
――――――
魔法の実技授業が終わり、その後は座学という、ようやく学校の授業らしい授業だ。
教科書は、達志が退院する前から、水面下で準備してくれていたようだ。ありがたい。
授業内容は、魔法に関するあれこれや、歴史学に関するあれこれや……達志にとっては、初めて聞くことばかりだった。
だが内容はわかりやすく、達志の頭でも理解できる。おまけに隣で教えてくれるヘラクレスの説明が、的確に達志の疑問点を教えてくれるのだ。
このスライム、なかなかに頭がいいのかもしれない。魔法の力も未知数だし、底が見えない。まだ会って数時間だが。
「な、なあヴァタクシア、あの……」
「つーん」
そんなこんなで、今はお昼休みだ。それぞれが弁当を持ち寄ったり、あるいは購買に買いに行ったり。達志は前者で、母が作ってくれたお弁当を持ってきている。
十年ぶりの息子へのお弁当ということで、母はめちゃくちゃはりきっていた。セニリアも手伝っていたようだ。
仲のいいグループで食べたり、外に出ていく者もいたり……中には、達志に話しかけてくる人たちもいた。やはりお昼休みという時間で、仲良くなりたいと思っている人も多いようだ。
達志を中心に、わりと人が集まったりしていた。
そんなところへ……達志の隣の席のリミに、話しかける人物がある。気まずそうな雰囲気で話しかけているが、リミはわかりやすくそっぽを向いている。
リミのそんな態度など、達志にとっては新鮮であった。
「なあリミ、そんな怒らずにマルちゃんの話も聞いてやりなよ」
「誰がマルちゃんだ」
リミに話しかけているのは、マルクスだ。そのがちがちの不良の外見からは想像できないほど、しゅんとしているように見える。
その見た目とのギャップにキュンとはしないが、なかなかに面白い光景だ。
「別に、怒ってません。タツシ様、おかず交換しましょう」
マルクスの呼びかけを無視し、リミはわかりやすく話題をそらす。すでに弁当はある程度食べ進んでおり、その中から卵焼きを差し出し、代わりに唐揚げを貰う。
だが実際のところ、達志とリミの弁当はまったく同じだ。なぜなら両方みなえとセニリアが作ったから。
なのでこのおかず交換は、本当に単なる交換だ。
「ん、この唐揚げもサクッとしててうまい!」
で、マルちゃん! いったいどうしたんかな?」
「誰がマルちゃんだ」
唐揚げを口の中に放り込み、もぐもぐと咀嚼する。うん、絶品だ。
話を振られたマルクスはというと、もはやお決まりになりつつある返しをし、ふぅ、とため息を漏らす。
「僕はヴァタクシアに話しているんだ。キミに答える義理は……」
「タツシ様にそんな態度とる人と話したくありませーん」
「……実はだな」
キミには関係ない、といった言葉を吐こうとしたマルクス。しかし、それはリミのつんとした台詞により、暫しの沈黙。
結果、マルクスの変なプライドは脆くも崩れていった。
「先ほどのことを謝りたくてな」
「先ほどって……彫像の件?」
確認して、マルクスは小さく頷く。
彫像の件……マルクスはリミが作った達志型彫像を破壊し、さらにリミの魔法に対して、物申すような発言をしたのだ。
それに対しての謝罪。なるほど見た目と反して、優等生っぽい中身に似合っている。なんというか律儀な奴だ。
いや、律儀な奴は元から彫像を壊したりはしないが。
「だってさ、リミ。まあ思うところはあるだろうけど、話だけでも聞いてやったら?」
「……タツシ様がそう言うのでしたら」
自分の魔法を不必要などと言われた心境は、達志には理解できない。だがリミにとっては、相当大事なことなのだろう。
だからこそああも怒っているのだと、達志はそう思っていた。
「……あー……先ほどのことだが、あれは別に、ヴァタクシアの魔法をどうこう言ったわけではない。その点勘違いさせてしまったなら、謝る」
「……じゃあなんであんなことを?」
「それは……」
誤解があったのなら謝ると、マルクスは真摯に告げている。だがリミから返答があると、マルクスは困ったように言葉に詰まる。
そしてなぜか、達志の方をちらと見たのだ。
「……?」
視線を受けた達志は、もう一つ唐揚げを頬張りながら、首をかしげる。はて、なぜ今自分に視線がきたのだろうか?
そこで、考える。マルクスの、リミに対する態度を。
確かルーアを氷の彫像にしてしまったとき、リミのことを注意していた。その言葉は鋭かったが、正しい。それに、あんなに早く注意しに来るとは、もしやずっと見ていたのだろうか?
リミがせっかく作った達志型彫像を破壊し、しかしそれは、リミの魔法に対して悪く言っているわけではないという。ならばなぜ破壊したのか?
……彫像のモデルが、気に入らなかった?
そうなると、今達志に向けられた視線にも納得はできる。……と、いうことはだ。つまり……
「嫉妬?」
言った瞬間、マルクスの肩が小さく跳ねた。
10
お気に入りに追加
298
あなたにおすすめの小説

異世界でネットショッピングをして商いをしました。
ss
ファンタジー
異世界に飛ばされた主人公、アキラが使えたスキルは「ネットショッピング」だった。
それは、地球の物を買えるというスキルだった。アキラはこれを駆使して異世界で荒稼ぎする。
これはそんなアキラの爽快で時には苦難ありの異世界生活の一端である。(ハーレムはないよ)
よければお気に入り、感想よろしくお願いしますm(_ _)m
hotランキング23位(18日11時時点)
本当にありがとうございます
誤字指摘などありがとうございます!スキルの「作者の権限」で直していこうと思いますが、発動条件がたくさんあるので直すのに時間がかかりますので気長にお待ちください。
『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!(改訂版)
IXA
ファンタジー
凡そ三十年前、この世界は一変した。
世界各地に次々と現れた天を突く蒼の塔、それとほぼ同時期に発見されたのが、『ダンジョン』と呼ばれる奇妙な空間だ。
不気味で異質、しかしながらダンジョン内で手に入る資源は欲望を刺激し、ダンジョン内で戦い続ける『探索者』と呼ばれる職業すら生まれた。そしていつしか人類は拒否感を拭いきれずも、ダンジョンに依存する生活へ移行していく。
そんなある日、ちっぽけな少女が探索者協会の扉を叩いた。
諸事情により金欠な彼女が探索者となった時、世界の流れは大きく変わっていくこととなる……
人との出会い、無数に折り重なる悪意、そして隠された真実と絶望。
夢見る少女の戦いの果て、ちっぽけな彼女は一体何を選ぶ?
絶望に、立ち向かえ。

転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す
エルリア
ファンタジー
【祝!第17回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞!】
転売屋(テンバイヤー)が異世界に飛ばされたらチートスキルを手にしていた!
元の世界では疎まれていても、こっちの世界なら問題なし。
相場スキルを駆使して目指せ夢のマイショップ!
ふとしたことで異世界に飛ばされた中年が、青年となってお金儲けに走ります。
お金は全てを解決する、それはどの世界においても同じ事。
金金金の主人公が、授かった相場スキルで私利私欲の為に稼ぎまくります。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

スキルガチャで異世界を冒険しよう
つちねこ
ファンタジー
異世界に召喚されて手に入れたスキルは「ガチャ」だった。
それはガチャガチャを回すことで様々な魔道具やスキルが入手できる優れものスキル。
しかしながら、お城で披露した際にただのポーション精製スキルと勘違いされてしまう。
お偉いさん方による検討の結果、監視の目はつくもののあっさりと追放されてしまう事態に……。
そんな世知辛い異世界でのスタートからもめげることなく頑張る主人公ニール(銭形にぎる)。
少しずつ信頼できる仲間や知り合いが増え、何とか生活の基盤を作れるようになっていく。そんなニールにスキル「ガチャ」は少しづつ奇跡を起こしはじめる。

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

家の猫がポーションとってきた。
熊ごろう
ファンタジー
テーブルに置かれた小さな瓶、それにソファーでくつろぐ飼い猫のクロ。それらを前にして俺は頭を抱えていた。
ある日どこからかクロが咥えて持ってきた瓶……その正体がポーションだったのだ。
瓶の処理はさておいて、俺は瓶の出所を探るため出掛けたクロの跡を追うが……ついた先は自宅の庭にある納屋だった。 やったね、自宅のお庭にダンジョン出来たよ!? どういうことなの。
始めはクロと一緒にダラダラとダンジョンに潜っていた俺だが、ある事を切っ掛けに本気でダンジョンの攻略を決意することに……。

ペット(老猫)と異世界転生
童貞騎士
ファンタジー
老いた飼猫と暮らす独りの会社員が神の手違いで…なんて事はなく災害に巻き込まれてこの世を去る。そして天界で神様と会い、世知辛い神様事情を聞かされて、なんとなく飼猫と共に異世界転生。使命もなく、ノルマの無い異世界転生に平凡を望む彼はほのぼののんびりと異世界を飼猫と共に楽しんでいく。なお、ペットの猫が龍とタメ張れる程のバケモノになっていることは知らない模様。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる