目覚めた世界は異世界化? ~目が覚めたら十年後でした~

白い彗星

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第二章 異世界っぽい世界で学校生活

第51話 それってもしかして

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 なぜかリミに、自分の方が上だと告げるルーア。薄い胸を張り、どや顔を晒している。普段ならばともかく、なぜ今そんな追い打ちをかけるのか。
 ルーアの頬を、達志は引っ張った。

「なんで謝るどころか煽ってんのこのロリはぁああ!」

「ふぁ、ふぁへへふははい(や、やめてください)! ほいいうはぁ(ロリ言うなぁ)!」

 両頬を引っ張られ、ルーア抵抗するが、なにを言っているのかわからない。
 だが言葉の内容を追及するつもりのない達志は、柔らかく面白いくらいに伸びる頬を、引っ張り続けている。

 まったく、突然なんてことを言い出すのだろうかこのロリは。

 そんなロリの、勝ち宣言のようなものを受けてリミは、どんな反応をしているのか。ますます怒らせてしまったんじゃないだろうか?
 そんな心配を胸に、達志はリミを見ると……

「……いいなぁ」

 なぜか頬を赤くして二人を見つめていた。怒っている、という感じではない。それに何事か呟いている。
 彼女が呟いた言葉は、小さすぎて達志には聞こえなかったが。

「なんて?」

「へぁ!? にゃ、にゃんでもないですよ!」

 聞かれていた……その事実を聞いたリミは、顔を真っ赤にしている。正確には内容までは聞こえていないが、それを知るよしもない。
 驚いたせいなのか、うさぎなのに猫のように身を縮めている。

 なんでもないと言われてしまえば、それ以上を追及することは出来ない。

「ぐ……」

 達志に頬を引っ張られているルーアが羨ましくて、本音が漏れてしまった……そんなことは、言えるはずもない。聞いたらドン引きだろう。
 だから、下手な言葉でごまかした。そしてその様子を、不機嫌そうに見つめているマルクス。

 結局、ルーアに煽られても怒りを覚えるどころか、達志に対して若干、自覚のないマゾ気質に目覚めつつあるリミであった。

 ――――――

 魔法の実技授業が終わり、その後は座学という、ようやく学校の授業らしい授業だ。
 教科書は、達志が退院する前から、水面下で準備してくれていたようだ。ありがたい。

 授業内容は、魔法に関するあれこれや、歴史学に関するあれこれや……達志にとっては、初めて聞くことばかりだった。
 だが内容はわかりやすく、達志の頭でも理解できる。おまけに隣で教えてくれるヘラクレスの説明が、的確に達志の疑問点を教えてくれるのだ。

 このスライム、なかなかに頭がいいのかもしれない。魔法の力も未知数だし、底が見えない。まだ会って数時間だが。

「な、なあヴァタクシア、あの……」

「つーん」

 そんなこんなで、今はお昼休みだ。それぞれが弁当を持ち寄ったり、あるいは購買に買いに行ったり。達志は前者で、母が作ってくれたお弁当を持ってきている。
 十年ぶりの息子へのお弁当ということで、母はめちゃくちゃはりきっていた。セニリアも手伝っていたようだ。

 仲のいいグループで食べたり、外に出ていく者もいたり……中には、達志に話しかけてくる人たちもいた。やはりお昼休みという時間で、仲良くなりたいと思っている人も多いようだ。
 達志を中心に、わりと人が集まったりしていた。

 そんなところへ……達志の隣の席のリミに、話しかける人物がある。気まずそうな雰囲気で話しかけているが、リミはわかりやすくそっぽを向いている。
 リミのそんな態度など、達志にとっては新鮮であった。

「なあリミ、そんな怒らずにマルちゃんの話も聞いてやりなよ」

「誰がマルちゃんだ」

 リミに話しかけているのは、マルクスだ。そのがちがちの不良の外見からは想像できないほど、しゅんとしているように見える。
 その見た目とのギャップにキュンとはしないが、なかなかに面白い光景だ。

「別に、怒ってません。タツシ様、おかず交換しましょう」

 マルクスの呼びかけを無視し、リミはわかりやすく話題をそらす。すでに弁当はある程度食べ進んでおり、その中から卵焼きを差し出し、代わりに唐揚げを貰う。
 だが実際のところ、達志とリミの弁当はまったく同じだ。なぜなら両方みなえとセニリアが作ったから。

 なのでこのおかず交換は、本当に単なる交換だ。

「ん、この唐揚げもサクッとしててうまい!」
 で、マルちゃん! いったいどうしたんかな?」

「誰がマルちゃんだ」

 唐揚げを口の中に放り込み、もぐもぐと咀嚼する。うん、絶品だ。
 話を振られたマルクスはというと、もはやお決まりになりつつある返しをし、ふぅ、とため息を漏らす。

「僕はヴァタクシアに話しているんだ。キミに答える義理は……」

「タツシ様にそんな態度とる人と話したくありませーん」

「……実はだな」

 キミには関係ない、といった言葉を吐こうとしたマルクス。しかし、それはリミのつんとした台詞により、暫しの沈黙。
 結果、マルクスの変なプライドは脆くも崩れていった。

「先ほどのことを謝りたくてな」

「先ほどって……彫像の件?」

 確認して、マルクスは小さく頷く。
 彫像の件……マルクスはリミが作った達志型彫像を破壊し、さらにリミの魔法に対して、物申すような発言をしたのだ。

 それに対しての謝罪。なるほど見た目と反して、優等生っぽい中身に似合っている。なんというか律儀な奴だ。
 いや、律儀な奴は元から彫像を壊したりはしないが。

「だってさ、リミ。まあ思うところはあるだろうけど、話だけでも聞いてやったら?」

「……タツシ様がそう言うのでしたら」

 自分の魔法を不必要などと言われた心境は、達志には理解できない。だがリミにとっては、相当大事なことなのだろう。
 だからこそああも怒っているのだと、達志はそう思っていた。

「……あー……先ほどのことだが、あれは別に、ヴァタクシアの魔法をどうこう言ったわけではない。その点勘違いさせてしまったなら、謝る」

「……じゃあなんであんなことを?」

「それは……」

 誤解があったのなら謝ると、マルクスは真摯に告げている。だがリミから返答があると、マルクスは困ったように言葉に詰まる。
 そしてなぜか、達志の方をちらと見たのだ。

「……?」

 視線を受けた達志は、もう一つ唐揚げを頬張りながら、首をかしげる。はて、なぜ今自分に視線がきたのだろうか?
 そこで、考える。マルクスの、リミに対する態度を。
 確かルーアを氷の彫像にしてしまったとき、リミのことを注意していた。その言葉は鋭かったが、正しい。それに、あんなに早く注意しに来るとは、もしやずっと見ていたのだろうか?

 リミがせっかく作った達志型彫像を破壊し、しかしそれは、リミの魔法に対して悪く言っているわけではないという。ならばなぜ破壊したのか?
 ……彫像のモデルが、気に入らなかった?

 そうなると、今達志に向けられた視線にも納得はできる。……と、いうことはだ。つまり……

「嫉妬?」

 言った瞬間、マルクスの肩が小さく跳ねた。
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