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第二章 異世界っぽい世界で学校生活
第43話 哀れな氷像
しおりを挟むなんにせよ、だ。
「まあ、リミも反省してるようだしここは一つ、な?」
「タツシ様……」
これ以上続けていても、埒が明かない。ひとまず、この場は収めてもらえないだろうか。
気が付けば、周りも達志たちの騒ぎに注目しているではないか。
達志はリミの肩に手を置き、リミは達志の服をちょこんと摘まんでいる。その二人を見つめるマルクスは、何を思うのか……
凶悪過ぎる瞳を細め、口を開く。
「そうやって、仲良し相手の味方をして、好感度でも上げようって魂胆か」
「いや、なにを言って……」
話の主軸がズレつつある。そもそもだ。そもそも、どうしてこんな言い合いっぽくなってしまったのか……
「まーまー、落ち着けよお二人さん」
現状の原因を探ろうとしていたところへ、聞き慣れていないはずなのに妙に耳に残る声が届く。
二人を落ち着かせるようなその言葉を告げる主は……
「へ、ヘラ……」
そこにいたのは、スライム。ヘラクレスという、とても強そうな名前を持ち、その特徴的過ぎる姿は達志の記憶にも新しい。
そして彼の声は、姿と同じく特徴的で、聞いたばかりなのにもう頭にこびりついている。
言い合いが終わらなそうな二人に、痺れを切らせたのだろうか。落ち着け落ち着けと、その体から『手』を伸ばして、「どうどう」と言っている。
「タツー、まあこいつはこういう奴なんだよ。わかってくれ。それとマルちゃん、あんま熱くなんなよ」
「マルちゃん言うなと何度も言ってるだろ。それに、お前は僕の母さんか」
「んなわけねーだろ、頭大丈夫か?」
達志の時と同じように、マルクスのこともあだ名で馴れ馴れしく呼んでいる。
達志に対してそうだったのだから、クラスメートのマルクスについては、当然のことだろう。
一方で。あだ名と、まるで自分のことをわかった風に話すヘラクレスに物申すマルクスだが、ヘラクレスは気にした様子もなく、笑い飛ばしている。
「止めるなヘラクレス、僕はまだ……」
「ムッちゃんが来ないうちにやめた方がいいと思うなー?」
「ぐっ……」
尚も引き下がろうとするマルクスだが、それはヘラクレスの言葉により、苦虫を噛み潰したような表情になって、口を閉じる。
ムッちゃんとは誰のことかと思ったが、確か担任であるケンタウロス先生は、ムヴェルという名前だったことをら達志は思い出す。
今は、ムヴェル先生も由香もいない。生徒だけではしゃいでいるのだ。
まさかあのキツそうな先生をあだ名で……なんて勇気あるスライムだろう。
「まあ、どっちが正しいとかそんなのは後で語り合うとしてさ。ひとまず、目先の問題を解決しようや」
「目先の問題?」
ヘラクレスの乱入により、一旦の落ち着きを見せた二人。彼らに、言い合いの前に解決すべき問題があることを、示唆する。
それが、この現状を招いた原因な気がして、達志は頭を捻らせる。
忘れちゃならないことが、なにかあったような……?
その答えに行き着く前に、ヘラクレスは口を開いて、答えを示す。
「とりあえずルアっち、助けたろうや」
「「……あっ」」
その答えを聞いた達志は、マルクスは、すぐ横で氷の彫像になっていた中二少女……ルーアの存在をすっかり失念していたことを思い出す。
同時に、間の抜けた声を上げるのだった。
リミを落ち着かせ、魔法を解いてもらう。
すると、みるみる氷は溶け、中からは固まっていたルーアが姿を現して……
「あっ……がっ、ぐ、うぅ……
さ、三人とも、そこに直ってください!」
怒り心頭のルーアは、寒さに震える体を自ら擦りつつも、そこにいた三人……達志、リミ、そしてマルクスを指さした。
三人は、おとなしく正座をする。
「ひどいひどいひどい! なんなんですかもう! 人のことを氷の彫像に変えておいて、挙げ句放置!? ぬぁあああ!」
「……」
歓迎会で盛り上がっていた空気は、この場で別の意味で盛り上がりを見せている。
お怒りの少女が、仁王立ちで達志たちを睨みつけている。かれこれ十分はこの状態が続いている。
一人は申し訳なさそうにして、一人は理不尽さに顔をしかめ、一人は正座による足の痺れを感じていた。
「す、すみません……」
「なんで僕まで……」
「足が……しびれびれ……」
「そこ! 一名反省してるようですけど二名はまだ足りないようですね!」
自身の行いでクラスメートを氷付けにしてしまったリミは、しょんぼりとうなだれている。ウサギの耳が垂れているのが、その証拠だ。
本来関係ないはずのマルクスは、なぜか正座させられてしまっている。不服な表情だが、しかしルーアにとっては関係ない。
聞くところによると、二人が言い合っていたせいで処置が遅れたという話ではないか。というか氷の中にいても意識はあったから、なにがあったか知っている。
なので同罪だ。
そしてマルクスと言い合っていたというもう一人、達志。達志としても、悪いとは思っている。思っているのだが、結果として助かったのだからそんなに怒らなくても……という気持ちもある。
見ての通り、本人は元気そのものである。
「まあまあルアっち、落ち着こうや」
怒るルーア、正座させられている三人、それを見守るクラスメートたち。
今日は歓迎会ではなかったのか、と達志が悲観する中、ひとまず落ち着くようにと声が響く。
それはこの場にいて、一番落ち着いているものだ。
「とめないでくださいライム! 私はまだ……」
「三人共反省してるよ、リミたんはそうだしタツとマルちゃんも……多分。ルアっちも元気じゃん」
「ふっ、それは私だからこそ! 私という強大な力を持った存在だからそ、こうして無事でいられるのだ! そうでなければ今頃、どうなっていたことか……」
「元気じゃん」
中二全開の少女と、冷静沈着なスライム。こんな面白おかしな光景、なんだか感動すら覚える。
達志が眠る前、元のままの世界だったら、絶対に見ることのなかった光景だ。
その光景に対する感慨深さと、足の痺れが達志の心を占めていく。
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