目覚めた世界は異世界化? ~目が覚めたら十年後でした~

白い彗星

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第二章 異世界っぽい世界で学校生活

第42話 見た目不良みたいなやつの正論パンチ

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 なにが起きたのか、唖然となる達志……端的に言うなら、ルーアが氷漬けになった。

 以前リミが、氷属性の魔法を得意としているのを、思い出した。
 正しくは、火属性と水属性の魔法の複合であり、氷属性など存在しないのだが。

 それを思い出し、これはリミの仕業であると思い至る。となると、何故いきなりルーアを氷漬けにしたのか、その理由がわからない。

 当のリミはというと、自分がなにをしてしまったのか理解していないようで、さらに慌てている。どうやらリミにとっても、無意識らしいが……

「無意識で氷漬けとか怖すぎだろ……」

 本人が無意識でやってしまったことの結果が氷漬けというのは、笑えない。

「リミ、なんでルーアを……」

「! し、知りません!」

 無意識でも、リミがこうした事態を引き起こしたのには理由があるのだろう。その理由を問いかけるが、リミは答えない。
 とはいえ、その反応から心当たりがあるのは、確かだ。

 無理に問い詰めることはしたくないが……さすがにおとがめなしというわけにもいかないだろう。
 周りにこの騒ぎがバレているのかいないのかわからないが、誰かに注意されるよりも、この場にいる達志が注意すべきだろう。

 だがそれよりもまず、氷の彫像となってしまった少女の救出が先だ。
 魔法を使った本人であれば、魔法をキャンセルも出来るはずだ。

 そう考え、リミに声を掛けようとした。それと同時に……

「……なにやってんだお前ら」

 達志ではない、男のものの声が聞こえたのだ。

「さっきから見ていたが、いかに歓迎会とはいえハメを外し過ぎじゃないのか? クラスメートを氷漬けにするなんて。
 無礼講の中にも節度あれ……当然のことだと思うが。なにを考えているんだ?」

 至極まっとうな台詞。それを発した人物は、こちらを睨みつけているようだった。

 まず目を引く、逆立った髪は赤と金が混ざった色をしている。獣人やケンタウロスを見たが、それとは別の意味で、なんというか目を引く。
 眼鏡の奥にある目付きは鋭く、怒っているかのようだ。実際に怒っているのだろう。
 さらに耳にはピアスを付けている。

 その風貌は達志の知っている、絵に描いたような……いやそれ以上の不良だ。
 逆に今の台詞はまさしく、優等生そのものだが。

「え、なに……台詞は優等生なのに、その見た目ガチガチの不良なんだけど。不良なんて生易しいって言える表現なんだけど。なにその眼鏡、申し訳程度の優等生アピール?
 言っとくけど、それ一つでその見た目をプラマイゼロにできるほど、眼鏡さん有能じゃねえぞ?」

「なにをぶつぶつ言っているんだ。それに見た目で人を判断するな」

 見た目についてとやかく言われたくない人に、見た目についてもっともなことを言われてしまった。反省。

 達志の予想外の返しに、外見不良男は苛立ち気に舌を打つ。達志も、思わず口をついて出てしまったことに反省する。
 見知らぬ誰かと話すのは緊張するというのに、こういうことだけ口に出る自分が怖い。

「悪い悪い。なんか俺、寝てる間にわりと正直になったらしくて。あと思ったこと口に出ちゃうみたいで」

「謝ってておいてなんのフォローにもなってないのがすごいな」

 目覚めてからというもの、独り言が圧倒的に多くなったりと、困ったものだ。
 正直になったとはいえ、リミの料理評価をそのまま本人に伝えないブレーキくらいは、まだあるが。

「……まあいい。それよりも、この現状……彼女を氷漬けにした意味を問いかけているんだが? ヴァタクシア」

 やれやれと首を振った後、男はリミに視線を向ける。
 その際にリミの肩が跳ねたのは、ルーアを氷漬けにしてしまったバツの悪さからか、男の風貌が怖いからか。

「そ、れは……」

「いつものキミらしくもない。魔法をみだりに使うどころか、それを人に向けるなんて。キミのことだからなにか理由があるんだろうが、やり過ぎだ」

 リミに対し、キツい口調で厳しい言葉を投げかける男。
 その言葉は確かに厳しいものだが、その中にどこか優しさというか、リミへの気遣いがある気がするのは、気のせいだろうか。

 言葉を受けたリミは、当然なのだが返す言葉もない。理由がないとは言わないが、まさか物凄く私的な理由で魔法を使ってしまったなどと、言えるはずもない。
 出来るのは、ただ俯くことだけだ。


「なにか言ったらどうだ? 反省した表情を見せれば相手が折れる……そう思っているなら、それは間違いだ。人間関係において、そんな甘えは意味を持たない。
 甘やかされて育ってきたキミにはわからないかもしれないが、それが社会というものだ。そして、ここは学校という社会だ。なにか言い訳があるにしろ謝るにしろ、黙っていたままでは相手にも、そして自分にも失礼だ」

 男の言っていることは、ひどく正論だ。あと長い。
 正論という言葉の刃を投げられ、リミの肩が震える。ここで達志が言葉を挟むのは、正しいとは言えない。

 ……だが、俯いたままのリミに放たれる言葉の鋭さが、増したように感じた時。達志は言いようのない感情が湧き上がるのを感じていた。
 だからつい、言葉は達志の口をついて出てきて……

「おい、ちょっと言い過ぎじゃ……」

「あぁ?」

 ……出切る前に、言葉が止まった。まるで野獣のような眼光を向けられ、達志の本能が恐怖を感じたのだ。
 それでも、ここで引いてはただの腰抜けだ。

 復学初日から腰抜けの烙印を押されるのは避けたい。

「い、いや。確かにお、お前の……えっと……」

「マルクス・ライヤだ。イサカイ・タツシ」

「お、おう。じゃあ改めて……こほん。確かにライヤの言うことは一理……どころか全くの正論なんだけどさ。
 もう少し言い方というか、少し言い過ぎというか……」

 達志だって、今のやり取りでリミが悪いことは理解しているのだ。クラスメイトを氷漬けにしたんだし。
 それにしたって言葉が、刺々し過ぎやしないだろうか。

 達志の言葉を受けた外見不良男は一瞬目を丸くするが、すぐに不機嫌な顔になる。

「言い過ぎ……か。つまりキミは、ヴァタクシアの味方をすると?」

「いや別に。リミが悪いのははっきりしてっけど」

「!?」

「けど本人も反省してるみたいだし……
 てか、文句言うならルーアにその権利があるだろ。外野がグチグチ言うのは、違う気がする」

 達志はリミの味方を……するわけではなく、むしろ悪いと断言。
 庇ってくれるかと思った達志のまさかの発言に、リミは理解が追い付かないのか、目を丸くしていている。

「言い過ぎ、か。ならば優しく説き伏せろとでも? 現実をそのまま突きつけることが、正しいと思うが?」

「いや、言い過ぎか優しくかの極論じゃなくて……その中間をというか」

 どうにも、会話が噛み合わない。マルクスはマルクスで意見を変えるつもりはないようだ。
 もちろんマルクスの言っていることは正しいが、どうにも言葉に刺がありすぎる。

 どんな正論だって、言い方一つで誰にも聞いてもらえなくなる。
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