目覚めた世界は異世界化? ~目が覚めたら十年後でした~

白い彗星

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第一章 異世界召喚かとテンションが上がった時期が俺にもありました

第38話 結構な部類の衝撃だよ

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「確かに、お前が教師だって聞いた時点で、こういうこともあるのかもしれない……って考えが及ばなかった俺も悪いのかもしれない。まあ、それは認めるよ、うん。
 けどさ、お前の方こそ、なにかしら言っておいてほしかったな」

 部屋に、抗議の声が響き渡る。
 抗議を上げている張本人は、今日からこの学校に登校……いや復学することになる、勇界 達志である。

 そして、その抗議を真っ向から受けるのは、なにを隠そうこの学校の教師である、如月 由香だ。

「だ、だからごめんって。でもさ、せっかくだから、これはいきなり驚かせちゃった方がおもしろ……う、んん! ちょっとびっくりさせちゃおうと思って、みんなにも黙っててもらうよう、頼んだんだよ」

「お前らホントサプライズ好きな! おかげで驚いたよ!」

 達志の抗議の理由……それはズバリ、達志が通うことになる学校で、由香が教師として働いていることを、教えてもらえなかったことだ。
 目覚めてからというもの、世界の変貌ぶりといい、自宅の改築ぶりといい、達志にとってはサプライズばかりだ。
 しかし今回のは、これまでの出来事でトップに位置する。

 二人が話し合っているこの場所は、先ほどの職員室ではない。
 公の場で一生徒が、しかも復学した生徒が教師にこんな態度をとっていれば、それは問題だ。

 なので、二人きりになれる場所……今は他に誰もいない、生徒指導室にいるわけだ。

 由香が教師になった驚きが大きすぎて、どこで働いているかまで気が回らなかったのは、達志のミスだ。
 あの時点では自分が復学することなど知るよしもないので、聞いても仕方ない部分はあったが。

 だが、教師側……つまり由香は違うだろう。いつ、誰が復学してくるのか、事前に知らされるはずだ。
 それを由香は、意図的に隠していた。

「眠ってる間に幼なじみが社会人になってた上、自分のクラスの担任とか、これ結構な衝撃の部類だよ?」

「あ、担任じゃなくて副担任……」

「どっちでもいい!」

 この数日で起こった、衝撃の数々。多少耐性ができていたとはいえ、今回のことはそれをやすやすと飛び越えてきたのだ。
 年取った幼なじみが自分の(副)担任教師とか、どんな世界になってしまったのか。

「世界もそうだけど……いやまあ、俺が寝てたせいでもあるんだけどさ……」

「とにかくたっくん、学校とプライベートじゃ、ちゃんと区別するように!
 学校でいつもみたく『由香』呼びはダメだからね。公私はしっかりと。いいねたっくん」

「一番そういうのに鈍感そうな奴から一番それっぽいこと言われた!」

 公私の区別など、まさか由香の口から語られるとは思わなかった。
 中学の頃、その人柄から生徒に親しまれていた『安藤先生』を、『あーちゃん』と呼んでいたあの由香がだ。

「……成長したなぁ」

「なにが!? なんで泣いてる仕草!?」

 指で目元を拭う動作を行いながら、達志は安心していた。
 教師になったと聞いて心配していたのだが、どうやらちゃんと社会人やっているようではないか。

「ま、公私の区別については了解。由香……先生」

「……っ」

 由香が大まじめなことを言っているが、それに異論はない。学校では学校の、プライベートではプライベートの付き合い方をしなければいけない。
 そういうわけで、早速実践してみることにしたのだが……慣れない呼び方というのも、存外難しい。

 そして、『先生』と呼ばれた本人は、なぜか軽く身を奮わせて……

「……この呼ばれ方、いいかも」

 若干頬を赤くして、新境地を開きつつあった。ちなみにその動作や呟きは、達志に気付かれてはいない。

「んで、そろそろ行かないでいいの?」

「! あ、ヤバい!」

 どこかにトリップしそうになっていた由香は、達志の指摘により帰ってくる。時計を見れば、そろそろホームルームの始まる時間だ。
 この時代でも、そういった行事が損なわれていないことに、達志は軽い感動を覚えていた。

「じゃ、えっと……途中で担任の先生と合流しつつ、クラスに向かうから!」

「職員室にはいないのか?」

「忙しい人だから、じっとしてないの。ともかく、はぐれないように着いてきて! あと、自己紹介とかしてもらうから頑張ってねたっく……勇界君!」

 急ぎ足で歩きつつ、軽く今後の方針が伝えられる。
 担任の教師と途中で合流、そのままクラスへと向かう。当然自己紹介があるようで、それに関しては達志もバッチリだ。
 何回も練習した。

 それにしても、公私の区別と言っておきながら、達志を早速『たっくん』と呼びそうになってしまった由香のことが、心配になる。
 やはり、ちゃんと社会人やれているのだろうか、と。

 ――――――

 ……由香と生徒指導室を出た達志は、道中で担任の教師と合流。最初会った時の印象は、でかい、だった。

 達志の中でのでかい奴は、幼なじみである猛。一番身近で、身長は二メートル近い。しかし、それは人間の範囲内の話。
 異世界人が混じるこの世界で、それ以上にでかい人はたくさん見てきた。ウルカ先生が印象深い。

 目の前の人物……鋭く細い瞳には、睨まれただけで平伏してしまいそうな迫力がある。
 左目側にモノクルをかけている理由はわからないが、そこに突っ込む勇気は達志にはない。

 丁寧に切り揃えられた紫色の髪は清潔感溢れ、さすがは教師といったところだ。
 だが、その迫力ある瞳も、見惚れるほどの髪も……達志が最初に抱いたでかい、という感想の前には意味を持たない。

「私が貴様のクラスの担任教師の、ムヴェル・シンだ。よろしく」

 ムヴェルと名乗った教師。彼女はただでかいだけではない……でかい、理由がある。
 彼女の上半身は、人間の姿だ。しかし下半身はというと、人間のそれではない。 

 四足歩行の生き物……馬の足を持っている。人間の上半身に馬の下半身、いわゆるケンタウロスだ。
 故に、でかい。三メートルはあるのではと、そう思わせるほどに。

「……ど、どうも……」

 恐る恐る、達志は頭を下げた。
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