29 / 184
第一章 異世界召喚かとテンションが上がった時期が俺にもありました
第28話 ひとつ屋根の下!?
しおりを挟むこんなバカでかい家に、たった一人。そんな寂しい展開になっていなかったという事実に、ほっと一息。
こんな豪邸に住んでみたい気持ちはあっても、やっぱり一人だと寂しいだろう。
リミたちが母と同じ家に住んでいる……この事実は、達志にとって安心するものだった。
「……あ、そういうことか」
以前……達志が目覚めたその日、リミが病室に訪れた時。時間が遅くなり、いっそのこと病室に泊まるつもりでいたリミ。
その時、彼女はこう言っていた。
『両親はタツシ様のこととなれば寛大ですし、お母様にはメールすれば大丈夫です』
……と。
両親、とお母様、と二つに分けているのが、少し気にはかかったのだ。言い回しが不自然に感じられた。
わざわざ意味を問いただすほどではないが、少しだけもやもやした気持ち。
複雑な事情でもあるのか、とか、リミは頭がアレなので単に言い回しを間違えたのでは、いう可能性も考えたが……
しかし、両親とお母様がそれぞれ別を指しているなら話は別だ。
自分の両親、達志のお母様……そういう意味だったのだ。
「……ところでリミ、学校は?」
豪華な内装に、言葉を奪われる。だが、リミがここにいる理由を、聞いておかないわけにはいかない。
今はお昼過ぎ……もしも、十年前から学校の概念が大きく変わっていなければ、今は授業中のはずだ。
なのに、彼女は今ここにいる。
まさか休んで、達志が帰ってくるまでずっと待っていたのだろうか。
休んでまで退院の見送りに来なくていいとは言ったが、休んでまで家で待つな、とは言ってないし。
「まさか、休んで……」
「いえ、早退しました!」
返ってきたのは、予想外の言葉だった。
今日は休みなんです、と言われた方がまだ納得できた。だがまさか、早退とは。
欠席がダメだから早退をしました、と言うのか。どちらも結局はこの時間を休んでいるではないか。
なのに、リミは『えっへん顔』を浮かべているため、達志としてはもうなにも言えない。
「お、おう……」
休んでまでそんなことしなくていい、と叱るつもりだったが……そんな気力もなくなってしまった。
まあ、わざわざ早退して待ってくれていたのだ。実は嬉しい気持ちもある。
「ひゃー、いつ来てもやっぱ広いなー」
「この広さだと、一人二人増えたところでスペースは関係ないでしょうね」
はしゃぐ幼なじみ二人。二人も、そしておそらく由香も、ちょくちょくこの家に来ているのだろう。改めて、部屋をぐるりと見回す。
まるで別物になってしまったが、とにかく我が家に帰ってきたのだ。
……そういえば、だ。
「なあなあ。俺が戻ってきたら、リミとセニリアさんの二人って……」
「はい! これからも、よろしくお願いいたします!」
達志が戻ってきて、この家には母と二人になる。ならば、母を気遣ってリミたちが暮らす必要はない……
そう思ったが、当たり前のように、リミはここに居残り続けるつもりのようだ。
もちろん広さに関しては充分過ぎるものがあり、この広さだと人手もあった方が、いろいろ助かる。
しかしそうなると、同年代の女の子と一つ屋根の下状態ができあがってしまう。達志はひそかに胸踊らせる。
まあ、家が大きすぎて、そんなときめきイベントにときめかない自分もいるが。
「達志が戻ってきて、ますます掃除のしがいがあるわね」
「掃除って、まさかこの家全部をじゃないよね? とんでもないよここ、とても一日じゃ終わんないよ」
「ホントならメイドを数十人つけようとしたのですが、家事くらい自分でやる、って断られてしまいまして」
「そこは素直に受け取っとこうよ! 数十は多いにしても!」
家中を掃除しようとすれば、おそらく一日では終わらないだろう大きな家。このリビングだけでも、それだけかかるのか。
それを一人でやろうなど、無謀過ぎる。普段使う部屋だけに限定しているのだろうか。
いくら家事好きだからといって、人数が増えてもメイドの件、受け入れれば良かったのに。
「ってことは、母さんとセニリアさんの二人で家事回してたのか。すげーな」
「あれ、タツシ様、今、ナチュラルに私を、外しませんでした?」
「ごめん、なんか二人に比べたらリミはポンコツな気がして……」
「ひどい!
……まあ、間違ってないですけど」
リミはあまり家事は得意ではなさそうだ。
それに偏見だが、周りのことは全部セニリアがやってしまうイメージがある。
そのとき、きゅう、と空腹を報せる腹の音が鳴った。
「! タツシ様……よ、良ければ、私料理お作りします!」
家事ができないと思われたことへの挽回のつもりか、これ幸いとばかりに、リミが申し出た。
「え、マジで? なら、お願いしようかな」
「……!」
腹の音を聞かれていたことに、恥ずかしさを覚えるが、それよりもこの空腹を満たしたい感覚に襲われる。
久々に母の手料理も食べたいが……せっかく言い出してくれたのだ。その申し出に甘えることにしよう。
そして、リミが料理を作ると言った瞬間……場の雰囲気が凍ったことに、その時の達志はまだ、気付いていなかった。
0
お気に入りに追加
298
あなたにおすすめの小説

異世界でネットショッピングをして商いをしました。
ss
ファンタジー
異世界に飛ばされた主人公、アキラが使えたスキルは「ネットショッピング」だった。
それは、地球の物を買えるというスキルだった。アキラはこれを駆使して異世界で荒稼ぎする。
これはそんなアキラの爽快で時には苦難ありの異世界生活の一端である。(ハーレムはないよ)
よければお気に入り、感想よろしくお願いしますm(_ _)m
hotランキング23位(18日11時時点)
本当にありがとうございます
誤字指摘などありがとうございます!スキルの「作者の権限」で直していこうと思いますが、発動条件がたくさんあるので直すのに時間がかかりますので気長にお待ちください。
『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!(改訂版)
IXA
ファンタジー
凡そ三十年前、この世界は一変した。
世界各地に次々と現れた天を突く蒼の塔、それとほぼ同時期に発見されたのが、『ダンジョン』と呼ばれる奇妙な空間だ。
不気味で異質、しかしながらダンジョン内で手に入る資源は欲望を刺激し、ダンジョン内で戦い続ける『探索者』と呼ばれる職業すら生まれた。そしていつしか人類は拒否感を拭いきれずも、ダンジョンに依存する生活へ移行していく。
そんなある日、ちっぽけな少女が探索者協会の扉を叩いた。
諸事情により金欠な彼女が探索者となった時、世界の流れは大きく変わっていくこととなる……
人との出会い、無数に折り重なる悪意、そして隠された真実と絶望。
夢見る少女の戦いの果て、ちっぽけな彼女は一体何を選ぶ?
絶望に、立ち向かえ。

転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す
エルリア
ファンタジー
【祝!第17回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞!】
転売屋(テンバイヤー)が異世界に飛ばされたらチートスキルを手にしていた!
元の世界では疎まれていても、こっちの世界なら問題なし。
相場スキルを駆使して目指せ夢のマイショップ!
ふとしたことで異世界に飛ばされた中年が、青年となってお金儲けに走ります。
お金は全てを解決する、それはどの世界においても同じ事。
金金金の主人公が、授かった相場スキルで私利私欲の為に稼ぎまくります。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

スキルガチャで異世界を冒険しよう
つちねこ
ファンタジー
異世界に召喚されて手に入れたスキルは「ガチャ」だった。
それはガチャガチャを回すことで様々な魔道具やスキルが入手できる優れものスキル。
しかしながら、お城で披露した際にただのポーション精製スキルと勘違いされてしまう。
お偉いさん方による検討の結果、監視の目はつくもののあっさりと追放されてしまう事態に……。
そんな世知辛い異世界でのスタートからもめげることなく頑張る主人公ニール(銭形にぎる)。
少しずつ信頼できる仲間や知り合いが増え、何とか生活の基盤を作れるようになっていく。そんなニールにスキル「ガチャ」は少しづつ奇跡を起こしはじめる。

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

家の猫がポーションとってきた。
熊ごろう
ファンタジー
テーブルに置かれた小さな瓶、それにソファーでくつろぐ飼い猫のクロ。それらを前にして俺は頭を抱えていた。
ある日どこからかクロが咥えて持ってきた瓶……その正体がポーションだったのだ。
瓶の処理はさておいて、俺は瓶の出所を探るため出掛けたクロの跡を追うが……ついた先は自宅の庭にある納屋だった。 やったね、自宅のお庭にダンジョン出来たよ!? どういうことなの。
始めはクロと一緒にダラダラとダンジョンに潜っていた俺だが、ある事を切っ掛けに本気でダンジョンの攻略を決意することに……。

ペット(老猫)と異世界転生
童貞騎士
ファンタジー
老いた飼猫と暮らす独りの会社員が神の手違いで…なんて事はなく災害に巻き込まれてこの世を去る。そして天界で神様と会い、世知辛い神様事情を聞かされて、なんとなく飼猫と共に異世界転生。使命もなく、ノルマの無い異世界転生に平凡を望む彼はほのぼののんびりと異世界を飼猫と共に楽しんでいく。なお、ペットの猫が龍とタメ張れる程のバケモノになっていることは知らない模様。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる