目覚めた世界は異世界化? ~目が覚めたら十年後でした~

白い彗星

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第一章 異世界召喚かとテンションが上がった時期が俺にもありました

第26話 魔力の大樹

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 笑みを浮かべ、からかうような言葉を語るのは、達志の隣を歩く幼なじみの猛だ。
 こうして並ぶと、一段と身長が高くなったのがわかる。見上げないといけないほど、達志とは差ができてしまっている。

 その反対……達志の隣を歩く母、その隣を歩くのは幼なじみさよなだ。
 二人は、ちょうど仕事がなく予定が空いていたたために、駆け付けた次第だ。

 四人の幼なじみの中で、この場にいないのは由香だけだ。彼女は、どうやら仕事らしい。
 今日は平日な上に、教師という仕事に携わっているのだから、来られないのは当然ともいえる。


『えーん、私も行くー!』


 由香としては、無理言って休みを取ってでも、退院の見送りに来たかったようだが……それは、達志が却下した。
 わざわざ仕事を休んでまで来てくれなくても。それは嬉しいが、悪いから。
 気持ちだけで充分だ。

 それは、学業に身を焦がすリミも同様だ。予め、学校を休んでまで来なくていいとは言っていたのだが……
 その際、なにを言い返されるでもなく、「わかりました」と納得していた。

 自分から言っておいてなんだが、リミのことだから、是が非でも来ると言い出しそうだったので……肩透かしを食らった気分だ。

「あ、先生」

 病院の出入り口に着いた時、そこには、この十年間お世話をしてくれた、ウルカ先生の姿があった。
 隣には看護士が立っていた。彼女は確か、達志が目覚めてから、初めて目にした異世界人だ。犬顔の。

 彼女も、達志のことを度々看てくれていたのだのだと、その後知ったのだ。

「タツシ君、退院おめでとう」

「先生……ありがとうございました。先生のおかげで、俺……なんてお礼を言っていいか」

「いやいや、キミの努力の結果だよ。それに、退院とはいっても経過報告のために通院はしてもらうから、お礼にしてもまだ早いよ」

 初見では泣いてしまいそうなほどに迫力のある見た目とは裏腹に、親しみやすいドラゴン先生。
 彼が達志の担当でなければ、今達志は、こうしてここにいなかったのかもしれない。

 そして隣の看護師にも、同じように告げる。まだここには来るが、ひとまずのお礼を。

「まだこれからもお世話にはなりますが、これまでありがとうございました」

「うん、お疲れ様」

 それぞれと言葉を交わし、病院を後に。
 ここに十年間、お世話になったのだ。去り際、病室だけでなく病院にも軽く頭を下げて、外の世界へと歩き出す。

 目指すは、十年ぶりの我が家だ! 

「退院後、初の外の世界!」

 病院の敷地から一歩出て、目覚めてから初めてとなる、外の世界。
 こうして一歩外に出ただけで、いつもとは違う世界を見ているようだ。

 一歩踏み出しただけで、車の通る音や、人々の活気ある声。それらが、一気に耳に届く。
 今までと違い、騒がしくもあるそれは、達志の耳を襲うが……それは、心地好くもある。
 歩きながら、深呼吸して、街を見上げる。

 そこにあるのは、見渡す限りの建物、建物、建物、樹、建物……
 ……うん?

「……樹?」

 マンションやビル、そういった公共の建物が立ち並ぶ都会。その風景は、十年前と多々違う所はあれど、大まかには変わらない。
 ……と思っていたのだが、公共の建物に紛れて、巨大な樹が一本、どんと立っている。でかすぎる。

 どんなマンションや、どんなビルよりも、とてつもなく、大きな樹が。それは、都会の風景にはひどく不釣り合いで。

「……あれ、何?」

「お、気づいたね。ま、気付くか」

 呟くような達志の声は、しかし隣には聞こえたらしい。
 この都会の中でも圧倒的な存在感を放つ、巨大な樹は、雲に届くのではないかと思えるほどに、大きい。

「なら、気付くことはない? 例えば深呼吸してみて」

 と、まるでヒントのように、母みなえは人差し指を立ててみせる。
 先ほど深呼吸をした際、何かを感じたということはないように思うが……

 意識して、改めてもう一度、深呼吸をすると…

「匂い、というか? うーん……
 そういえば、何だか空気が澄んでるというか…」

 軽く深呼吸し、眉を潜める。
 以前……達志が眠る前までは、多く建物が立ち並び、車の徘徊する都会ならではの、煙臭く淀んだ空気があった。

 それも、長く暮らしたものとしては、大して気になることはなかった。慣れたのだろう。
 だが今では、あのときとは空気が違う気がする。

「そう。あの樹は、異世界人が越して来てから植えられたものよ。
 あれは、空気中の淀んだ空気を吸収し、澄んだ空気を排出してくれる樹らしいの」

「へぇ……?」

 この空気の澄みは、あの樹のおかげだという。
 それがどれほどすごいことなのか、達志には残念ながらよくわからないが。

「それに、あの樹は大気中に魔力を出しているらしい。魔樹まきって呼ばれてるらしいぞ」

「魔力……あぁ……」

 猛からの補足を受け、それを飲み込むと、達志は納得。以前病室でリミたちと話していた際、セニリアが言っていたのだ。
 魔力の源となる"あるもの"を、あちらの世界から持ってきた、と。

 退院したらわかると言っていたが、なるほどあれなら、すぐに目に付く。 あれのおかげで、異世界人はこの世界でも魔法を使うことができる。

 他にも、街中を見回すと様々な変化が起こっていることに気付く。人以外の生物が歩いているのはもう慣れた、と思っていたが……
 やはり、病院という限られた人間がいる場所とは、違う。
 街中を歩き回る光景は、まさしく桁違いだ。

 スーツを着こなし歩くサラリーマン風の獣人。車と同じく道路を滑走するトカゲのような生き物。渋滞に巻き込まれるのを避けるため飛んで移動している鳥人。車に乗っている馬。走れよ。

 ……と、どれもこの世のものとは思えない光景だった。だがこれが現実であるということは、すでに確認済み。
 とはいえ、こうして目の前に広がる光景は、目を疑いたくなるレベルだ。

「さ、もう着くわよ」

 周りの景色に気を取られていたが、その間だいぶ歩いていたらしい。それでも疲れないのは、リハビリの成果だろうか。
 達志も、もちろん覚えている。あの角を曲がれば、そこには我が家が……
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