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第一章 異世界召喚かとテンションが上がった時期が俺にもありました
第23話 これからのことを
しおりを挟むセニリアはハーピィという種族らしい。
「それよか、ハーピィって飛べるんなら、飛ぶ魔法いらずで、なんかお得な感じですね」
今のセニリアの台詞からもわかるように、ハーピィとは飛べる種族。それは、飛行魔法なしで飛ぶことができるということだ。
ハーピィ以外にも、種族には種族ごとにそれぞれ、アドバンテージがあるのかもしれない。
「えぇ。この能力で、姫の護衛もより広い視野で果たすことができます。……だというのに、私はあの時……」
飛べるということは、探し人や何かの偵察の際、非常に役立つ。この能力を使い、今までリミの護衛として、十二分以上に能力を発揮してきたのだろう。
が、それは十年前のあのときには、叶わなかった。
リミを見失ってしまった責任を感じ、声が沈んでいく。どうやらセニリアも責任を重く受け止めてしまうようだ。
妙なことを思い出させてしまった。
「いやまあ、ほら、世界が違うから飛べるわけもないですし……」
魔法が一般的に知られていない違う世界で、人間が空を飛べば、注目の的になることは間違いない。
それでも、姫の危機なら人目なんか気にしていられない……と言い返されかねないので、口早に話を進める。
「えっと……そうだ。セニリアさん、魔法は使えるんですかね?」
「……え、えぇ。風属性を」
新しい話題により、なんとかセニリアを引っ張り戻すことができた。
彼女から返ってきた答えを纏めると、ハーピィプラス風属性。それはなんとも、似合いすぎる組み合わせであった。
「ほほぉ、なるほど。なんか、似合ってますね」
「ありがとう、ございます……」
腕を組み、納得を示す達志に、セニリアも落ち着きを取り戻したのか、小さく深呼吸。
そんな二人の様子を見てか、またも笑顔を浮かべるリミは、声を弾ませる。
「二人とも、仲良くなったみたいですね!」
「仲良く……なのかな? ……うん、そうだな。仲良くだ」
「……あ、でも……あんまり仲良くなられても、困る……」
仲良くの定義が曖昧ではあるが、少なくとも会ったばかりのときよりも打ち解けられたのは、事実だ。
うんうんうなずく達志の耳には、その後呟かれたリミの言葉は届かなかった。
「さってと……あー、退院したらなにしよ」
「唐突に話変わりますね。……その切り替えの早さも素敵ですけど」
「いやまあ、ぽっと頭に浮かんだもんでさ。俺、十年も寝てたわけだし、退院した後ってどう暮らしていけばいいもんか……」
脈略ない話題の転換に、リミは落ち着いた様子でそれを受け止める。その後呟かれた言葉は、やはり達志の耳には届かない。
リミが何かを呟いたのかも気付かないまま、なるべく明るく話すのだが……実際、不安なのは事実だ。
十年も眠っていた人間が、十年後の世界で……しかも大きく変わってしまった世界で、どう暮らしていけばいいのか。
「あれ、もしかしてタツシ様……聞いていませんか?」
「ん? 聞いて、って?」
「はい。復学の話、ですよ」
「……ふく……がく?」
それは達志にとって、想像すらしていなかった言葉であり……そして、新たな道を示すための言葉、道標であった。
「それって、どういう……?」
「どういうもなにも……そのままの意味ですよ?」
まだ言葉の意味をかみ砕けていない達志に、リミはさも当然であるかのように小首を傾げる。さっきリミは「聞いていませんか」と言った。
うん、聞いていない。
だからこそこのような反応になっているわけで。説明の一つでも欲しいところではあるが……
「姫、タツシ殿が困惑しておられます」
「わ、わ! ご、ごめんなさい!」
セニリアの指摘により、ようやく達志が事態を把握していないことを理解したのか、リミは顔を真っ赤に染めて謝罪する。
赤面症なのだろうか、と思うくらいに、この短時間の中で、数え切れないほど顔を赤らめている。
「えっと、説明してもらえる?」
「は、はい!」
とりあえず落ち着いたらしいリミに、達志は優しく語りかける。
まだ熱の引かないリミであったが、こほんと一つ咳ばらい。頭の中で纏めた情報を、口に出す。
「えぇ、と、ですね。十年前、事故にあったタツシ様は意識不明に陥りました。
その際に、タツシ様が通っていた学校……今では私が通っている学校でもありますが、そこで休学扱いとなっていたんです」
達志が通っていた学校と同じ制服を着る少女が語る言葉は、なるほど納得できるものであった。事故にあった生徒を休学扱い。
もちろん達志自身は休学届けなど出してはいないが、そこは母であるみなえが出してくれたのだろう。
そこに疑問の余地はない。ないのだ。問題は、その後のことで……
「休学扱いって……十年も?」
「はい、十年も、です」
休学扱いに疑問はない。ならばその期間が問題であり、突っ込みたいのはそこだ。確かに達志は、十年間もの間意識不明であった。
だからといって、その期間ずっと休学扱いが成立するのかどうか。
もちろん、休学にどれだけの有効期限があるのかは、達志は知らないが。
「なんだって、そんな扱い……原因は事故とはいえ、十年も時間が経ってまだ休学効力存続中?
普通、そんなに経ったら退学処分とか……いや、普通がどうか知らないけどさ」
休学届けに無期限の効力があるのか。その真偽を達志の中で出せない以上答えを出せそうもないが、それにしたって納得がいかない。
もしや、母が休学扱いを存続してくれるよう、頭を下げたのだろうか。
だが、一生徒の母親の言葉でも、こんなに期間を設けてくれるとは……
「あ、それは……不慮の事故なので学校としても寛大な措置を……」
「自分のせいだと泣きわめく姫を見かねたお父様……国王様が、学校に頼み込んだのです。
その時の、姫の泣きながらも必死に懇願する姿は、今思い出しても胸がいっぱいになる想いで……」
「ちょっ、ばらさないでよ!」
不慮の事故に対する寛大な措置……そう説明したリミの言葉を、あっさりと切り捨てるセニリア。
それはリミにとっては恥ずかしい過去でもあり、間違っていないと肯定しているようなものだ。
無論、懇願したことに後悔はないと自信を持って言えるとはいえ……それを、本人にばらされるというのは、恥ずかしさが半端じゃない。
「……そっか」
そこには、またリミのおかげがあったのだ。確かに事故の原因は、間接的にリミにある。
自分が十年間も眠ってしまった原因……しかし、それを含めてもリミの行いは、達志にとっては感謝するべきものであった。
達志のための行為を、必死になってやってくれた少女。それは達志の胸に、ポカポカと温かい気持ちを生まれさせる。
「ありがとな、リミ」
「ふぇ、えぇ……」
セニリアに物申していたリミだったが、達志からのお礼に物申しを中断して赤面。
しなしなとしおれるように耳が下がったかと思えば、今度はパタパタと動いている。
感情が豊かなことこの上ない。
……それにしても、だ。こんな大事なこと、なぜ母は教えてくれなかったのか。
……忘れてたんだろうな、と即座に思う。あの時は再会の喜びで、些細なことは頭から吹っ飛んでしまっていたのだろう。母の性格からしても。
……全然些細なことではないが。
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